妖からの守り方

垣崎 奏

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第二篇

24.上位芸者の勉強会※

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 翠玉宮の露台から見える山々が青々とし、陽の高い頃に羽織は必要がなくなってきた。

 紅玉宮に小望が上手く取り入って聞き出した話によると、糸遊は、緑翠と翠月が《婚礼の儀》をまだ行っていないことから、翠月を内儀の立場から下ろせると思っているようだった。

(そんなことが、例え一番手まで上り詰めたとしても、一芸者にできるわけがないだろう…)

 夜光からも認められている婚姻ゆえに、夜会に招待されたのだ。高位貴族の中でも上位は翠月の存在を知っていたし、初の披露でなかったにしても、実質のところ、皇家当主の妻が誰なのか、示す場ではあった。確かに、《婚礼の儀》が済むまでは、妻と公には呼べないが、便宜上そう呼ぶことも当然ある。

 廓の運営は回っていたし、小望や東雲が糸遊に、緑翠たちが夜会に出ていたことを伝えなかったのかもしれない。緑翠が深碧館にいないことが明らかになれば、御客が開放的になって、問題が起こりやすくなる。芸者も、御客に対して前のめりになりやすい。月が揺れた折も同様に、緑翠が深碧館を離れていることは気付かれない方がいい。


 *


 緑翠が翠玉宮の広間に入ると、翠月は普段着のまま待機していた。天月には前もって了解を取り、妖力を使い蒼玉宮の準備が整っているのを確認してから、きょとんとする翠月の目に布を巻いた。その上から飾り紐で留め、外れないように妖力を込める。

「りょ、緑翠さま…?」
「触れないで、外さないで」

 翠月を抱き上げ、蒼玉宮まで運んだ。翠月には蒼玉宮へ向かうこと以外何も話していないし、違和感しかないだろう。できる限り、普段通りを心がけるが、筒抜けていてもおかしくない。翠月は、年の割に聡い。

 蒼玉宮の一番手の座敷、水縹の間には、普段よりも数を減らした行燈が置かれ、帷の奥に糸遊、飛燕、胡蝶、星羅、淡雪、天月、君影と、深碧館を代表する芸者がすでに集まっていた。

 糸遊たちは他の宮の芸者がいることが想定外だったようで、怒りで顔を赤らめていた。蒼玉宮が会場として選ばれたのだから、その時点で予想はできただろうに。紅玉宮の面々に何かさせるわけがない。よって、紅玉宮は教養がなく、床が早い。

 蒼玉宮の三番手・時雨は、天月や君影ほど翠月と関わりがなく、男色であることもあり断り、宵も緑翠もその希望を受け入れた。時雨は、自身の希望が通らないことから不安定な時期が続いている。御客との見世は問題ないようで、瑪瑙宮に行かなければならないほどではないが、逆撫ではしたくなかった。

(ひとつずつ、整理して片付けていくしかないからな…)

 見世ももう終わる頃で、揃った中にも見世終わりの者がいるだろう。番台には暁が立ち、座敷の外には東雲、黎明、宵が待機している。上位芸者を一同に集めている以上、宮番もある程度は立ち会うべきだ。朧と小望は翠玉宮に残り、見世の後処理や帳簿付けをしているはずだ。

 唇を噛む糸遊たちにわざと目をやりながら、抱えていた翠月を用意された敷物にゆっくりと降ろすと、そのまま口付けた。

「んっ」
「そのまま、感じて」
「んっ、んん?」
「普段と同じだ、任せろ」
「ん…、あっ」

 耳から首筋を舐め帯を解き、着物ごと胡坐の上に抱き抱える。合わせから手を入れ、やわらかい胸を揉む。腹や臍にそっと触れ、固くなった両の乳首をつまみ、翠月を高めていく。

「ん…、あっ、緑翠、さま…?」
「果ててもいいぞ」

 視界を奪われて、普段より感度が高いことへの違和感だと思えばいい。緑翠が今、何故わざわざ移動して共寝をするのかなど、翠月は知らなくていい。

 紅玉宮が望んだことで、特別違えてはないと思うが、視線が刺さる感覚がある。黄玉宮や蒼玉宮の面々の方がよっぽど見学らしく、興味や好奇を持っているかもしれない。

「あっ、だめっ…」
「……」

 明らかに、翠月の腰が動き、緑翠の腹に当たる。とっくに許されている足の間には、まだ触れていない。

(こんなに乱れて…、どうなっているだろうな)


 翠月をゆっくりと横たえ、着物を開いた。小さな手と指を絡ませ、首をつたって乳首を潰すように一舐めしてやる。翠月お気に入りの、乳首の攻め方だ。

「ん、ひあっ」
「翠は、本当にここが弱いな」

 吸ったり舌先でつついたり、もう片方も弄んでやる。濡れた乳首を手でも攻めてやると、翠月はもう留まっていられないはずだ。

「あっ、…んっ、あ、んんっ!」
「果てたな?」

 身体を震わせながら、手を口に当てこくんと恥ずかしそうに頷く翠月に、口を落とした。羽織と化した着物を脱がせ、翠月の足をあえて帳の方向へ開かせる。緑翠は翠月の横に寝転び、頭を支え唇を合わせると、翠月の腕が首に回ってくる。舌を追い回し、より快楽しか考えられないように、そのまま頭を抱え込み、片手は割れ目に触れた。溢れた愛液を主張している蕾に、塗りこんでやる。

「あっ…、んんっ」

 腰は反り、足も楽に開いて曲がったままだ。緑翠の着物にしがみつくように顔を押し付けてくる翠月を感じて、緑翠は手を止められるわけがない。

「…んあっ、ん、りょく、す、さまっ」
「うん?」
「あ、ああっ」

 秘部を指で左右に広げ、より空気に触れた蕾を中指で少し強く速く擦ってやると、翠月はより叫ぶようになる。

「んっ、…ん、ああっ」
「素直に声を出せるようになったな」
「あっ、んん、んああっ!」

(また果てたな…)

 普段言わないようなことを、あえて口にしていると、快楽に溶けた翠月は気付いているだろうか。芸者たちの視線が向いていることなど、気付かなくていい。そのまま、緑翠の手や舌から与えられる快感に、身を任せればいい。

 帳の向こうにいる芸者には、翠月の愛液が敷物まで垂れているのが見えるだろう 。震える翠月が息を整えている間に、緑翠も着物を脱ぐが、帯は取らず上半身だけだ。少し疲れた様子の翠月を確認しながら、開かれた足の間に座り、蕾に口を寄せる。

「んんっ、あっ」

 とっくに硬く芯を持ったそれから得られる快感に、翠月は腰を浮かせてしまう。小柄な翠月の太腿を腕で押さえることなど容易で、力を掛けつつ吸い付いてやる。

「っんああ!」

 果てているのだろうが、あまり待ってやることはできない。本来、こんな場で行うものではないのだ。

 十二分に濡れ待ち望んでいるその蜜口に、指で触れる。愛液を馴染ませ、一度に二本突き立てる。

「ああっ」
「狭いな…、そんなに欲しいか?」

(…こんな姿、愛しいに決まってる)

 前戯をして果てれば果てるほど、翠月の中は緑翠を欲しがり狭くなって、指を締め付けてくる。指を曲げれば、嬌声が響く。翠月の感じるところは、とっくに覚えている。柘榴との床もあり、翠月の経験値は各段に上がった。緑翠も合わせるように、翠月の身体に慣れていた。

「んあっ」
「ふっ…」

 強めに押しつつ擦ると、翠月は快感に耐えられず再度腰を浮かし、暴れるようになる。傷をつけないように、揺れに合わせて攻めてやる。

「あ、あっ、だめ、だめっ」
「我慢するな、堕ちろ、翠」
「んっ、ああっ、あっあああっ!」

 案の定、潮を吹いた翠月は、目隠しがなくても目を閉じているだろう。緑翠は着物を全て脱ぎ、帷に目をやりつつ、翠月に口を寄せた。微笑む翠月の足を持ち上げ、すでに脱力し開かれた秘部に竿を擦り合わせていく。

「んっ…、あっ」
「当たるか?」

 翠月が頷く。芯に擦れて、気持ちがいいのだろう。緑翠はその動きを止めないまま上半身を倒し、再度唇を奪った。翠月が緑翠の首に腕を回し、準備は整った。手で触れなくても、入口に先端が嵌まる。そのまま奥まで一息に突き立てた。

「っあああっ!!」
「ぐっ……、は……」

(…毎度、この挿れる折が一番危ない)

 征服感があって一気に奥を狙うのが好きな緑翠だが、その急激な快感に一度果ててしまいそうになるのは変わらない。最奥に当たっているのを感じながら、まずは押し付けるように腰を回す。翠月が締まりすぎて、律動することが難しい。

「んんっ」

 翠月の中が緑翠の大きさに慣れ、余裕が出て来たのを見計らって、上半身を起こした。ゆっくりと腰を引き抜いて、奥まで刺すのを繰り返してやる。緑翠の腕に触れている手が、ぎゅっと掴んでくる。そんな翠月が、たまらなく愛おしい。

「んっ…、あっ」

 奥に当たる度、甘く果てる翠月が目の前にいる。快感に溺れる翠月の瞳を見たいが、ちらちらと目に入る座敷の景色は普段とは異なる。翠月はまだ十五だ。知って欲しいこともあるが、知らなくてよいこともたくさんある。

 抽送を徐々に速めれば、翠月は簡単に昇り詰める。

「りょ、くすいっさまっ」
「ん、果てそうか?」
「あっ、んっ…」

 腰が引けても逃げられないように、太腿を掴んでより届くように動いてやると、翠月の声が大きく高く変わる。途切れることのない翠月のそれが、緑翠の興奮も煽っていく。

「んっ、ああっ、んん、んあああっ!」
「くっ……」

 最後の一突きの後、翠月の中に放出したが、当然それだけでは終わらない。出し切るために擦っていると、締まる中に刺激され再度勃ち上がってくる。翠月を反転させ、膝をつかせる。これも、支配感があって緑翠が好きな体位のひとつだ。奥にも当たりやすく、翠月がよく鳴く。その分、後から痛そうにもするのも分かっているが、今夜は特に、止められない。

「あ、んんっ…、うっ、ひゅっ、ひっ」
「ん、翠?」

 明らかに普段より激しい共寝に、息が続かないのだろう。目元が見えない以上、翠月が辛いのかどうかは息づかいで判断するしかない。律動を弱め、顔を覗き口を寄せる。

「平気か? ゆっくり、息を吐け」
「ん、ひっ…」
「一度止めて、そう。ゆっくり吐いて」

 髪を撫でてなだめてやれば、段々と落ち着いてくる。翠月の足や腰を支え、快感を拾う位置を変えながら、緑翠は腰を振り続けた。


 ***


 堕ちているとは思ったが、念のため翠月の目隠しを着けたまま、着物で包んだ。帳の奥をちらりと見てから、緑翠自身も着直しつつ、その向こうに向けて出した声は、掠れていた。

「……気は、済んだか」
「っ…」
「俺がどれだけ好いているかも、伝わっただろう。内儀にする前から、翠以外と添うつもりはない」

 緑翠の言葉を聞いた糸遊がどのような反応をしたかは、直接確認せずとも分かる。星羅や天月からも、後で聞くことができる。ぐったりと脱力した翠月を抱え、故意に帷の向こうへ見えるように額に口を寄せ、水縹の間から離れた。
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