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第27話盲目少女は事件に巻き込まれる

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 リリさんのお買い物に付き合った日の夜、がらんとした我が家の宿に戻り、晩御飯を出そうとしたところリリさんが出かけるとの事なので送り出した。

「じゃあメイラちゃん、ちょっと行ってくるね~」

そこにいたはずのリリさんの気配が消えた。
初めて出会った時とは逆で何の痕跡も残さずリリさんの気配は消えてしまった。
たぶん私の目が見えないからって気を抜いてすごいことしてるんだろうなぁ…となんとなく思う。

「ほんとに不思議な人…あ、たぶん人じゃないんだっけ…まぁどっちでもいいよね。リリさんはリリさんだし」

階段を駆け下りて両親にリリさんが出かけたことを伝えておく。
今はリリさん以外のお客さんはいないので仕事は終わりだ。

「メイラもご飯食べる?」
「うん食べる~」

お母さん晩御飯を用意してくれた。
見えないけれど匂いや温度がそれが野菜と鶏肉のスープだと教えてくれる。

「いただきま~す」

スープを口に運ぶ。
うん、おいしい…いつものお母さんの味だ。
目が見えなくなってしばらくは火傷とか怖くてこういうのは食べられなかったけれど…今では苦も無く食べられる。

「おいしいかい?」
「うん」
「母さんの料理は世界一だからな」

お父さんが私の手元にたぶん水を置いてくれた。

「何言ってんだよ、あんたは」
「はっはっは!」

平和なひと時、私はこの時間が大好きだ。
目が見えなくなって、悪魔憑きだとか呼ばれて嫌がらせもいっぱいされたけど家族は私を見捨てなかった。
私の大切な居場所。

「お父さん、お母さん…ありがとうね」
「どうしたのいきなり」
「なんだなんだ?どうした」

「なんとなく!」
「変な子だねぇ」

はははっと笑い合う。
教主様もいつか私の目は見えるようになるはずだって言ってくれてるし…そうなったらちゃんと親孝行しないとなぁ~。

そんな団欒を過ごしていた時、外から何かがぶつかるような音がした。

「…なんだ?」

お父さんが立ち上がって様子を伺う。

「何しようとしてんだこの野郎!」

そんな怒鳴り声も聞こえてくる。

「ちょっと様子を見てくるよ」
「私も」

お父さんと一緒に宿の外に出る。
そこには四人の人の気配がした。

「お、おい!君たち何をしているんだ?」
「あ、ここの人ですか?いやこの人がこの家に火をつけようとしてたみたいで…」

「なんだと!?…お前!よく見たらうちに散々嫌がらせしてきた奴だな!?」
「くっ…!」

あ~…私にも覚えがある…。
家に石を投げこんでガラスを割ったり、急に大声上げたりして営業妨害してきてた人だ。

「なんて人でしょう!神に感謝をして日々を清廉に生きる神都の住人とは思えません!」

女性の声が男を非難した。
気配の感じからして男性二人と女性一人の三人組だろうか?
金属音とかするし武装してる…?神聖騎士の人だろうか?

「神都の住人だからさ!そこの娘はな悪魔憑きなんだ!ここにいちゃいけねぇんだよ!」

風を切る音が聞こえてきて、何かが私の頭に当たった。

「この!大人しくしろ犯罪者!」
「メイラ大丈夫か!?」
「うん…」

あんまり痛くはないけれど…何をぶつけられたのかと頭を触ってみるとヌルっとした感触が伝わってきた。
これは…卵かな…?

「家に火を放とうし、女の子に罵声を上げあまつさえ食べ物を粗末にするなど…人として最低です!恥を知りなさい!」

ゴゴン!と何か硬い物どうしがぶつかるような音がした。

「フリメラ!?やりすぎだよ!」
「ふん!こんなもの軽いお仕置きです!」
「いやいや…フリメラは相変わらず怖いなぁ…まあいい。俺はこいつを神聖騎士に引き渡してくるぜ」

男性二人分の気配が遠ざかっていく。
それと同時に甘くていい香りが近づいてきた。たぶんさっきお説教をしてた女性だ。

「大丈夫でしたか?」
「あ、はい…慣れてますので」

「あんなことに慣れてるなんて言ってはいけません!理不尽な事には声を大にして否を突きつけなくては!」
「フリメラ落ち着いて…困ってるよ」
「…娘の事を気遣って頂きありがとうございます。放火も止めていただいたようですし、なにかお礼をしたいのですが」

「あぁいえ。自分たちもたまたまなので…気にしなくても大丈夫ですよ」
「そういうわけには…あ、宿はお決まりですか?よろしければ我が家にでも泊って行かれませんか?安くしておきますよ」

お父さん…ちゃっかり商売しようとしてる…。

「あら!それはありがたい申し出ですが、私たちは泊まるところがありますので…お気遣いありがとうございます」
「それは残念です」
「あの…ところで悪魔憑きってなんなのでしょう?」

「くだらない言いがかりですよ。本当にくだらない」

お父さんが吐き捨てるように言った。
でも今日の件で改めて思い知った。ここはもう私の過ごせる場所ではないのかもしれない。
すぐに目が見えるようになるのなら悪魔憑きなんて噂も消えてくれるかもしれない。
だけどこのままずっと見えなかったら?
今日はたまたま助けてもらえたけれど、次は放火されてしまうかもしれない。
そうでなくても直接危害を加えられてしまうようになる可能性は大いにある。
私だけならともかく両親にまで被害が及んだりしたら…きっと私は耐えられない。
教主様は悪魔憑きなんて存在しないと直接噂を否定してくれている、なのにこんなにも私を悪魔憑きだと言う人がいる…どうにかしないとなぁ。

その時、私の脳裏に浮かんだのはリリさんだった。
あの人なら…私をどこかに連れ出してはくれないだろうか?

「なら、お食事でもいかがです?せめてものお礼に御馳走しますよ」
「あ、それはありがたいかも…もう食事処は閉まってるとこが多いですからね~」
「そうですね、ならありがたくごちそうになりましょうか」

お父さんたちが宿に入っていく。
私も考えを打ち切って後に続こうとしたところで誰かに腕を掴まれた。
何かまずい感じがする。
気配が何だか気持ち悪いのだ。

「お父さ、」

助けを呼ぼうとしたところで何かされたのか私の意識は急に沈み込んでしまった。


_________

俺たちの前で黒いローブを着た男が女の子をさらっていった。
あの出で立ちは間違いない。

「黒の使徒!?なんであの子を!」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよレクトさん!早く追いかけないと!」

その通りだ、黒の使徒が女の子をさらった。ただ事のはずがない。

「俺たちはさっきの男を追います!アグス…俺たちと一緒にいた背の高い人がここに戻ってきたら黒の使徒を追ったと伝えてください!」
「ま、待ってくれ!今のはなんだ!?娘が…娘が!!!」
「落ち着いてください!娘さんは必ず連れて帰りますわ…ご安心ください。これでも私はそこそこ実績のある聖女です。そしてそこにいるのは勇者レクトです!」

フリメラがすごく大げさな感じで紹介した…恥ずかしいからやめてほしいのだけれど…きっと少しでもこの人を安心させようとしているのだとわかっているので何も言わない。

「おお!あなた達が噂の…?」
「ええ!なのでお任せください。私たち勇者が悪の組織から娘さんを奪還いたします!」
「俺たちに任せてください」

フリメラとうなずき合い、黒の使徒が去っていった方向に走り出す。
必ず救ってみせる!


そう決心していたにも関わらず、あんな結果に終わってしまったことを俺はずっと悔いることになる。
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