single tear drop

ななもりあや

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誰よりも愛しているから憎い

誰よりも愛しているから憎い

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「もしかしてオレを知ってるのか?」

男と目が合い、慌てて首を横に振った。

「まぁ、いい」

男がお兄ちゃんに目で何かを指示した。

「ほら立て!」

ナイフで脅され、血まみれの手で手首をガシッと掴まれ強く引っ張られた。
生暖かい血の匂いに戦慄き、足がすくんで、力が入らなくて。動くことも、立ち上がることも出来なかった。

【お兄ちゃん動けないよ、無理】

項垂れて首を横に振った。
お兄ちゃんは仕方なく男に再度指示を仰いだ。
たくっ、イライラしながら舌打ちをすると、ツカツカと歩み寄り、ちんたらするな‼早くしろ‼と凄みを効かせ、お兄ちゃんを怒鳴り散らした。

お兄ちゃんに手首を鷲掴みされ、抗う間もなく引き摺られ、ベランダまで連れていかれた。

「さっさと飛び下りろ」

服を引っ張られ、背中を強く押された。

「花壇に落ちるだけだ。死にはしない。早くしろ!」

有無を言わせないとばかりに睨み付けられ脅された。ちらっと下に目を遣ると、昼間とは違う光景が広がっていた。
まるで底無しの暗い闇がぽっかりと口を開けて待ち構えているようで、怖くて足がガタガタと震えた。

そのとき、カチャカチャとドアの方から音がしてきた。男が少しは時間稼ぎになるからと、お兄ちゃんに命じ鍵を掛けさせた。
合鍵は彼が常に持ち歩いているから開けるのは容易い。

「誰よりも愛しているからこそお前が憎いのかも知れないな」

お兄ちゃんがふとそんな事を口にした。驚いて見上げると、にっこりと微笑みを返された。

「大丈夫、パパと一緒なら怖くない。行くぞ」

男に早くしろ‼と急かされたお兄ちゃんに強く背中を押された。ふわりと体が宙に浮いて、お兄ちゃんもろとも真っ逆さまに暗闇に向かって落ちていった。
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