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82話 二重契約テイム

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 俺の前に現れたシェミィは、いつもの猫の姿ではなくクロエと瓜二つな姿だった。

「主……やっと、話せる」
「シェ……ミィ……?」
「ん、シェミィだよ」

 シェミィはこちらに歩いてきて立ち止まると、顔を見上げてきた。
 優しく頭を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうな顔をする。

「ふふ、ご主人様だって思ったんじゃない?シェミィとお話出来たらなとか、人になったら可愛いんだろうな、とか」
「確かに思った事はあるが……本当に叶うとは」
「私も、みんなとお話したかったよ」
「俺もだよ、シェミィ」
「私も!」

 こうして俺とカエデが一緒になってシェミィを撫でていると、ウォーミングアップを終わらせたメイランとソルトがこちらにやってきた、セシルとエリスタも後ろからついてきていた。

「えっ?クロエが白くなったっす!?」
「待ってソルト!この魔力は……シェミィ!?」

 メイランは魔力探知が出来るので、この魔力が誰のなのかは分かるようだ。

「さすがメイラン、その通りシェミィだよ」
「「えっ!?」」

 ソルトとエリスタが声を出して驚いていた。
 セシルも軽く驚いた顔をしていたが、魔力探知を使っていたようでメイランと同じタイミングで気付いていたようだ。

「ふっふん!みんなにサプライズしようって決めてたんだー!ねーシェミィ♪」
「ん!」

 サプライズ成功して2人はふふんとドヤる。

「ただ、この姿をしていると少しずつ魔力が減っていくから、常にこうしている訳には行かない」
「そうなんだな……でも、こうして話せるのは嬉しいぞ!」
「ん!」

 みんながシェミィの姿を愛でている中、エリスタとセシルがついていけないのか離れた所で見守っていた。

「ねぇ主、テイムの話を影から聞いてたけど、私は2人の主でもいいよ?元々そう思ってた」
「本当に良いのか?それにテイムが本当に出来るかどうかも……」
「主、やってみないと分からない」
「……そうだな、やってみよう」

 俺はシェミィの頭に手を添えた。

「テイム」

 しかし、テイムは発動したが契約がされなかった。

「ダメなのか……?」
「テイム印が主の魔力を妨げてる……」
「やっぱりダメっぽいか……」
「……待ってご主人様」

 カエデが俺の手を握って制止させてきた。

「カエデ?」
「ご主人様、一緒にやろう。私はシェミィのテイム紋に魔力を流して再契約するから、そこにご主人様のテイムを発動させて魔力を流し込むの」
「そ、そんな事して大丈夫なのか!?」

 そんな事をしてシェミィとの契約がおかしくなったら……
 そんな事を考えていると、シェミィがカエデと俺の手を掴む。

「主、やろう。1人の主だけじゃなくて2人の主の力になりたい」
「シェミィ……」
「ご主人様、やろう!」

 2人の決意に満ちた顔をみる、参ったな……こんな顔されたらやるしかなくなるじゃないか。

「……分かった。シェミィ、何か変になったり違和感があったらすぐ言えよ?」
「ん!」

 俺はカエデと手を繋ぎ、シェミィの頭に手を添える。

「いくよ、ご主人様」
「あぁ、いいぞ」

 2人の魔力重ね合わせシェミィへと流していく。

「……!テイム紋に主達の魔力が……」
「いくよっ……」
「「テイム」」

 シェミィの頭に元のテイム紋が浮かび上がり、それが模様を変えていく……そして新たなテイム紋が出来上がると同時に、シェミィの魔力が俺の中に流れ込むのが分かった。
 僅かにだが……カエデの魔力も感じられた。

「「「……!」」」

 その魔力は成功した証として、3人へと流れ込む。

「こ、ご主人様!成功したの!?」
「……成功だ、シェミィとカエデの魔力を感じる」
「わ、私……ご主人様の魔力がシェミィの魔力に乗って入ってきた……温かい」

 カエデは胸を抱き締めるようにぎゅっと自分を抱いた。

「ん、2人の主だと分かりにくいから呼び方を考えないと……パパとママじゃダメ?」
「「「「パパとママ!?」」」」

 俺とカエデとメイランとソルトの声がハモる。
 少し離れた所から見ていたエリスタとセシルだが、パパとママという言葉が聞こえてきて驚き、思わず2度見してしまう。

「パ、パパとママ……か」

 俺はカエデと顔を見合う、カエデの顔が赤くなっている。

 Prrrrrr、Prrrrrr

 こんな空気の中、急に何かが鳴り出した。
 一瞬びっくりしてしまったが、スマフォンだと気付き、スマフォンをストレージから出して通話に出る。

『コウガさん!聞こえますか?』
「あ、あぁ聞こえるぞ」
『……?何かあったんですか?』
「いや、ちょっとびっくりした事があっただけだ、後で教えるよ」
『そ……そうですか、分かりました!今3試合目が終わりましたよ!4試合目が始まりそうなんでそろそろ控え室に!』
「分かった、ありがとな」
『はい!勝ってくださいね!』
「もちろんだ!」

 スマフォンの通話が切れたのでストレージに入れる。

「と、取り敢えずパパママ問題は後でしっかり話し合おうか!」
「そ、そうだね!ご主人様頑張ってね!」
「おう!」

 これが試合が始まる前に起きた出来事だった。



「まさかシェミィが人になるとはな」
「そうっすね」
『パパ、そろそろ集中する』
「パパ呼びは変わらないんだな……あぁ、了解」

 影より僅かに顔を出して一声注意してくれるシェミィ、テイムが出来たので、シェミィは俺とカエデの影を自由に行き来する事が出来るようになったのだ。
 しかし、影に居たままだと声を出しても表に届かないので少しだけ影から顔を出して話してくれる。

「シェミィ、魔力は大丈夫なのか?」
『ん、パパの魔力が常に流れてくるから大丈夫、加減みて姿変えるようにする』
「分かった、力貸してくれシェミィ」
『ん!』

 シェミィは影に戻り、俺達は入場入り口からステージへ上がる。
 対戦相手が既にステージに上がっていた、男剣士と男タンクと女シーフの3人だった。

「さぁ!第5試合に出場する選手達が揃いました!今大会大注目、個人戦第3位のコウガ選手!団体戦ではカエデ選手とは別の仲間を引き連れて登場!どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!?」

 やはり個人戦第3位になってしまったからか、注目されているみたいだ。
 対戦相手の剣士がこちらに歩いてきた、若干だが緊張している様子だった。

「こ、コウガさん、お手柔らかにお願いします……」
「よろしくお願いします」

 握手を交わして離れていく剣士だが、少しぎこちない……
 剣士が戻った瞬間タンク男に「びびってたら試合にならないぞ!しっかりしろ!」と言われていた、狼だから耳立てたら聴こえちゃうんだよな。

「ご主人、あれどう思うっすか?」
「まぁ……俺達が騎士団に挑むような気持ちなんだろうな……個人戦3位の俺が相手なんだとな」
「何となく気持ちが理解出来たっす……ま、だからと言って手を抜かないっすけど」
「だな」

 俺達は司会から促される前に武器を構える、俺だけだけどな……メイランもソルトも素手だし。

「さぁ!武器を構えてください!」

 相手もそれぞれ武器を構えた。
 相手のタンクがシーフに耳打ちをし、シーフは頷いていた。

「団体戦第5試合始めます!レディーーーッ、GO!!」

 開始宣言された瞬間、相手のタンクとシーフが前進して来た。

「コウガに注意しつつ、後の2人を叩け!武器はねぇぞ!」
「了解!」

 タンクがそう叫んでタンクがソルトへ、シーフがメイランへと迫る。
 俺はメイランとソルトをチラ見し、2人の視線を見てから行動に出た。

「身体強化、アクセルブースト」

 俺はメイランのアレを試すべく、メイランへの攻撃を妨害する為にシーフの元へ。
 メイランも俺の動きに順応し、魔力を練り始める。

「アイスウォール!」

 シーフのナイフに合わせ、俺もアイスウォールを腕に展開してガードをする。

「影縫い!」

 ナイフがぶつかる直前、急にシーフの姿が消える、気付いた時にはシーフは俺の背後にすり抜けていた。

「なっ!?」
「貰った!」

 シーフのナイフがメイランに迫る、が。

「グレイヴ!」
「うわぁぁ!」

 俺は地面に手をついて魔法を発動させ、グレイヴにより地面が隆起してシーフを突き上げる。

「アクセルブースト!」

 突き上げられたシーフに追撃すべくアクセルブーストで加速、グレイヴで隆起した地面の先端へジャンプし、そこからシーフに向かって再度ジャンプ。

「装纏!」

 シェミィの魔力を消費し、片腕に纏わせる……魔力を全て纏う必要はない、これが俺流の獅子連打だ!

「獅子連打!」

 シェミィに似た獅子を纏わせて、ナイフの柄を突き出すように連打した。

「あぁぁぁぁっ!!ガハッ……」

 シーフは地面に叩き付けられる。
 その瞬間……剣士より放たれた斬撃が2つの内1つが俺に迫ってくるのが見えた。
 もう1つはメイランへ……

「!?」

 俺は空中で姿勢を変えて身体を逸らして回避する、しかしメイランに飛ばしている斬撃は防げそうにない。

「メイラン!」

 俺はそう叫ぶと、メイランは魔力の練りに集中しながらも翼を羽ばたかせ空へ回避した。

「さ、避けられた!」

 剣士は避けられるとは思っていなかったようだ。

「コウガ様!準備出来たわ!」
「了解!」

 俺はシーフの腕を掴み、剣士の方へ投げ付ける。

「!?」

 剣士は急な事に驚きつつも、心優しい人なのかシーフを真正面から受け止めて尻餅をついた。

「メイラン!やれ!!!」

 頷いたメイランは詠唱を開始する、圧縮され練り上げられた魔力により、中級より更に強い魔法の詠唱の言葉がメイランの頭に浮かび上がっていた。

「我に集いし劫火の炎よ、かの者を焼き尽くし、滅却せよ!!」

 バーンストライクよりも小さいが、この輝きは太陽ではないか?と思うくらいの輝かしい火球が出来上がっていた。

「ソルト!投げろ!」

 俺はソルトを呼びかけ、剣士とシーフのいる場所に指を刺して指示をした。

 ーーーソルトsideーーー

 試合開始と同時にタンクが自分に向かってきた。
 幸い1人しか向かってこなかったっすから、そのまま迎え撃つっす!
 チラ目で見ると、ご主人はメイランの応援に、メイランは……多分魔力練り上げてるっすね。
 なら、大魔法を期待して自分の仕事をやるっすか!!

「お前、武器も無しにタンク相手にどう戦うってんだ!?」

 タンクが剣を振り下ろしてくる、自分はそれを篭手に魔力を流してしっかりと防ぐ。

「なっ、そんな軽々と!?」
「はぁ、期待外れっす」

 攻撃を軽々と防がれた事に驚いてお腹や脚が隙だらけっす……自分は
 蹴りを1発タンクにぶち込んだ。

「ぐほぉっ……」

 数M吹き飛び、腹を押えるタンク。
 タンクと呼べるんすか……それ。

「ちなみに、チームランク何すか?」
「は、はぁ?Dだが文句あんのか?お前らだってDだろうがよ」
「はぁ……これだから嫌になるんすよ」
「あぁ!?てめぇ奴隷の癖に何言ってやがっ……ぐぼぉぁぁぁ!」

 本気の蹴りを腹に入れてやったっす、マジムカつくんで。

「話にならないっす、死んでくださいっす……瞬歩」

 自分は瞬歩でタンクに詰め寄り、蹴り上げからの空中3連撃を放ち、最後に踵落としで突き落とした。

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
「自分達を舐めない方がいいっすよ、ご主人の実力を知ってるなら尚更っす、ご主人やカエデだけが強いって思うなっす」
「ぐっ……」

 さて、どう仕留めようかと悩んでたら……

「ソルト!投げろ!!」

 ご主人の投げろって声が聞こえたのでチラ見すると。

「おお……神々しい火球っすね」

 なるほど、あれで3人まとめて焼く訳っすか、良いっすねご主人!チリ残さず焼きましょっす!

「チリ1つでも残ったら良いっすね!」
「ひ、ひぃ!!!!」
「瞬歩!」

 自分はタンクに詰め寄り、タンクを脚に挟んでそのまま剣士の元へ投げ付けてやったっす。
 バイバイっす、焼かれる感想聞けたら聞かせてくださいっすね。


 ーーーーーーーーーーー

 ソルトはタンクに瞬歩を繰り出し、脚でタンクを挟み込わんでそのまま剣士の元に投げつけた。

「メイラン!!今だ!!!」
「喰らいなさい!エクスプロージョンノヴァ!!!」

 小さな、それでもエネルギーはバーンストライクとは比にならない太陽のような火球が、相手の3人をまとめて焼き払った。 
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