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別れ。そして

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 反乱軍が東南の砂漠地帯で動きを止めた。五つの州の兵力が集まったので、ここで王都軍を迎え撃つ準備をしているのだろう。

 現在、王都軍と反乱軍との間には、三日ほどの距離がある。兵力は巨大化したものの、二つの州には魔王率いる王都組が勝利し、アイルウォール州の軍は、指揮官を失ったからだろうが、いまだに動く気配はない。正直なところ、ばらばらに闘いを挑まれるよりも、まとまってくれた方が次を気にせずマナと体力を遠慮なく使える。下手な小細工をするよりも、威力のある魔法で一気に蹴散らす方がアルオの性には合っていた。

(……数は、単純に考えて五倍か)

 とにかく、明日も早い。もう寝てしまうかと思考を無理やり終え、天幕内でマントにくるまり、目を閉じた。少し経ってから、ふいに気配を感じ、傍に置いてあった剣を取った。

(見張りがいるはずだが、気のせいか……いや)

 天幕の入り口に人影を見つけ、アルオは立ち上がった。殺気はない。誰だ。気配をよんでいる間に、人影は迷いもなく天幕内に入ってきた。月明かりを背に立つその人物は。

「アールオ」

 やけにご機嫌な声が天幕内に響き、アルオは目を疑った。

「……魔王? 何で此処に……というより、どうやって位置を」

「ふふん。黒い鳥によく似た使い魔が、わらわにはいるのじゃ。そやつに探してもらった。約束通り、ちゃんと王都は守ってやったぞ?」

「それは知っているが……」

 陰の者から、報告は来ていた。二つの州の軍勢を、ほとんど一人で相手にしていたとか。手加減など一切なし。慈悲もなし。さすが陛下の師よと、魔法士や兵士は褒め称えていたそうな。

「なあ、アルオ。わらわ、ずっと飛行してきたゆえ、もう眠いのだが」

 すり寄ってくる魔王。だがアルオは、別のことに驚愕していた。

「……おい。王都から此処まで、ずっと風の魔法で飛行してきたのか?」

「そうじゃが?」

 何か? 見たいな顔をされた。こいつ、十五年前の一騎討ちのとき、実は手を抜いていたのではあるまいな、という考えが一瞬過ったが、口には出さなかった。

「言っておくが、寝台などないぞ。凍死する心配もないから毛布もない。その辺にマントにくるまって好きに寝ろ」

 臣下には、せめて簡易な寝台をと言われたが、荷物を増やしたくないとアルオが却下した。野宿は慣れている。

 わたしももう寝る。
 背を向け転がると、魔王がぴとっと背中にくっついてきた。少し苛ついたが、一つ大きな貸しをつくってしまったアルオは何も言わずに、再び目を閉じた。


「アルオ様、失礼します。そろそろ起きて、出立の準備を──」

 夜明け前。天幕の入り口の布を捲ったモンタギューは、言葉を切ってからそっと天幕の中に入り、マントにくるまって寝転がるアルオの傍に膝をついた。そのアルオの背中にぴったりとくっつき、幸せそうに眠る女性をとっくりと見詰めた。

(……魔王様、ですよね)

 何故ここに。一体いつから。というかこの状況は。もしや逢い引きでは。様々な思考を巡らしていると、アルオが目を覚ました。

「……ああ、もう出立の時刻か」

 言いながら、上半身を起こした。魔王はアルオのマントを引っ張りながら「……もう少し」と寝ぼけている。

「アルオ様。まさか魔王様を正妻に娶るつもりでは……」

 モンタギューの真剣な声音に「そんなわけあるか」とアルオは冷静に応えた。

「だいたい、こいつは強い奴が好きなだけであって、わたし自身を好いているわけではないだろう。そんな奴、まともに相手にしていられるか」

 まあ、今回のことに関しては感謝しているがな。そう言って、アルオは立ち上がり、天幕の外へと出ていった。

 そんな風に考えていたのか。
 モンタギューは肯定も否定も出来ず、幸せそうに眠る魔王を、何とも言えない気持ちで見詰めた。


「わらわは馬には乗れん」

 さあ、東南に向かって出立だ。
 みなが準備を終えた中、魔王は馬上にいるアルオに向けて自信満々に言い放った。

「何だ。まだ手を貸してくれるのか」

「うむ。格下とはいえ、数が集まればやはり戦は楽しいからの。最後まで付き合うぞ。まだ約束も果たされてないしのぉ」

 くふふ。
 意味ありげに魔王が笑う。それをさらっと無視し、アルオは後ろに並ぶ軍勢に向けて叫んだ。

「誰か。こいつを乗せて走ってくれないか」

 男所帯の兵士たちは、ぴんと背筋を正した。得体の知れない相手ではある。まして陛下の魔法の師でもある。正直、怖い。おっかない。けれど、美しく、胸の大きい女性を乗せて走りたい。その欲の方が勝った数十の兵士たちが、手を真っ直ぐ上に伸ばそうとした。だが。

「アルオじゃないと嫌じゃ!」

 嫌じゃ、嫌じゃ。
 騒ぐ魔王に「あーうるさい!」と吐き捨て、とっとと後ろに乗れとアルオは舌打ちした。

「え、何あれ」「……もしや、恋人?」等々。兵士たちはざわざわした。

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