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30話 ヴォルムを置いて、単独魔法大国ネカルタスへ
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「入国はループト公爵令嬢御一人となっております」
「なんだって?」
諸島を経由してついに魔法大国ネカルタスへ入国となった本日、ヴォルムが取り乱した。
前は侍女のソフィーも護衛のヴォルムも一緒に入れたのに、今回は私一人のみの入国許可しか出ない。
テュラのいつでもネカルタス入れます券は人数に縛りはなく、御一行扱いならいつでもいけたはずだ。
「理由を伺っても?」
「現在申し上げる事が出来ません」
「近隣国と何かあった、とか?」
「申し上げられません」
海賊と違い、一切揺らぎなく応える入国審査官に感心する。一定レベルの鎖国を維持し、限りある交易を続けるなら、最初の関門はこのぐらいでないと示しがつかない。
けど、今回は少し様相が違う。海沿いからの入国は一ヵ所だけど、警備の数が倍になっている。何に警戒しているのやらだ。
「ここで待つ分には問題ないでしょうか?」
「はい。宿泊施設は整っておりますので、一人二泊のみ承っております。宿泊の際、監視はつきますのでご了承下さい」
二日をすぎたら入国者に確認の上、待機者はネカルタス王国を出ていく。ひとまず二人には諸島リッケリに滞在できるようその場で書面を用意して渡した。
「お待ち下さい。俺も行きます」
「ヴォルム、駄目なんだって」
「ディーナ様を守るのが俺の仕事です」
「ぶっちゃけネカルタス王国の中にいる方が安全だよ」
賓客として入国すれば一番安全な王城に滞在する。となると精鋭とも呼べる魔法使いがいる場所で守られるべき重要人物として扱われ、安全が保証されるわけだ。鎖国しているこの国になにかの企みを持った人間は入れない。全て魔法で筒抜けだからだ。
「なるたけ二日以内に連絡いれるから。連絡なければリッケリ諸島に戻って待機ね」
「ディーナ様!」
黙って頷くソフィーと対照的になにがなんでも一緒に行きたいヴォルム。珍しい姿だ。大人しく黙って斜め後ろにいた頃とは大違いね。
「うーん……行くわ!」
「お待ち下さい!」
唸って悩んで苦渋の顔を滲ませる。
「ディーナ様、せめてこれを」
服の中に隠してあったネックレスを取り出した。銀色に輝くシンプルなものだ。
「いいの?」
「これがあればディーナ様がどこにいても追えます」
「逆に怖いわ」
追跡機能付き?
入国審査官に視線を寄越すと「問題ありません」と回答してくれた。瞬時にネックレスの中身をみて確認したのね。魔法すごい。
「手段を選ばなければ俺だって入国ぐらい」
「そこまでしないで。ここで待ってて」
埒が明かないのでネックレスを首に下げて入国することにした。
ネカルタス王国の規則に則った結果、ヴォルムが入国できないのであれば仕方ない。
「では王城スタルテルスにご案内致します」
「はい」
魔法大国ネカルタスで楽なのは移動が魔法による転移であるところだ。入国の門を通って広間の魔法陣に立てばすぐに王城目の前というハイテクなシステム。
「ドゥエツ王国ループト公爵令嬢ですね」
「はい」
「伺っています。こちらへ」
情報もすぐ入っている。おかげで目的の人物にすぐに会えた。
「おーす、ディーナ」
応接間には私の来訪を分かりきっている魔法使いが待っていた。
「久しぶり、ヴェルディス」
魔法大国ネカルタスにおける最強の魔法使いヴェルディス・グラクティコスを目の前にした。彼は最強の魔法使いでありながら国の要職にも就いていて、こうした外交特使の対応にも出てくる。年も近いからテュラと同じくざっくばらんに話せて楽だ。
「随分厳しい入国制限してるわね」
「分かってんだろ?」
テュラと同じく気さくだけど、ヴェルディスの方が態度が不遜でぱっと見た目は不機嫌に見える。テュラが笑い癖ひどいだけかもしれないけど。
「入国厳しかったのは侵略の危険とスパイ対策?」
「それもあるが、一番はこれだ」
ヴェルディスが持っていた書面を開くと中身は宣戦布告文。
ソッケ王国から魔法大国ネカルタスへのものだった。
「嘘でしょ」
「偽造だがな。紙質はそっちの三国にはねーし、王印も全然ちげーし」
魔法陣による仕掛けもあって、そこは入国前に無効化したらしい。
「キルカス王国の時と同じね」
「スパイは入り込んでねーから魔法薬は一つも出てねーぞ」
「これ?」
キルカス王国から一本預かった魔法薬を取り出す。
「持ち込めたから、おかしいとは思ってたのよ」
「テュラには返事しとくよう言ったぞ」
「ありがと。で? これが体調不良になるやつ確定ね?」
「そーだな」
魔法薬で引き起こされる魔力暴走による体調不良。
海賊の出現。
魔法陣の使用。
宣戦布告文の偽造。
「ヴェルディス、ルーラという令嬢に思うところはある?」
キルカス王国に現れ、推測と言えど南端ラヤラ領で魔法大国ネカルタスの王女の監禁に関わっている。キルカス王国内中枢で起きた魔法薬による体調不良も一枚噛んでそうで怪しい。
このシャーリーの義妹であり乙女ゲームの正ヒロイン・ルーラが単独で戦争を起こそうとしている、となったとしても規模が大きく個人でやるにしても現実味がない。ルーラが絡んでいるとすれば実行役、つまり海賊と同等扱いだろう。
「そいつの件についてはディーナに話がある奴がいる」
「今、会う?」
「いや、その時が来たら会えるさ」
また不思議なことを言うのね。
「まー、この話は後にしようぜ。それよりもディーナ。お前の考える答えを教えろよ」
「単刀直入に話すけどいい?」
「おー」
「海賊も魔力暴走による体調不良も、魔法薬も魔法陣も全てセモツ国が原因ね?」
不遜な魔法使いの機嫌が良くなった。口元が弧を描く。
「大当たりだ」
「セモツ国がファンティヴェウメシイ王国に敗戦した後、方法を変えて攻め始めたわけ?」
「おー」
「戦争を起こして隙を狙って他国を乗っとるってこと?」
不遜な態度の魔法使いの機嫌がさらに良くなった。
「目的はうちだ」
正確には魔法大国ネカルタスを滅ぼすこと。
「なんだって?」
諸島を経由してついに魔法大国ネカルタスへ入国となった本日、ヴォルムが取り乱した。
前は侍女のソフィーも護衛のヴォルムも一緒に入れたのに、今回は私一人のみの入国許可しか出ない。
テュラのいつでもネカルタス入れます券は人数に縛りはなく、御一行扱いならいつでもいけたはずだ。
「理由を伺っても?」
「現在申し上げる事が出来ません」
「近隣国と何かあった、とか?」
「申し上げられません」
海賊と違い、一切揺らぎなく応える入国審査官に感心する。一定レベルの鎖国を維持し、限りある交易を続けるなら、最初の関門はこのぐらいでないと示しがつかない。
けど、今回は少し様相が違う。海沿いからの入国は一ヵ所だけど、警備の数が倍になっている。何に警戒しているのやらだ。
「ここで待つ分には問題ないでしょうか?」
「はい。宿泊施設は整っておりますので、一人二泊のみ承っております。宿泊の際、監視はつきますのでご了承下さい」
二日をすぎたら入国者に確認の上、待機者はネカルタス王国を出ていく。ひとまず二人には諸島リッケリに滞在できるようその場で書面を用意して渡した。
「お待ち下さい。俺も行きます」
「ヴォルム、駄目なんだって」
「ディーナ様を守るのが俺の仕事です」
「ぶっちゃけネカルタス王国の中にいる方が安全だよ」
賓客として入国すれば一番安全な王城に滞在する。となると精鋭とも呼べる魔法使いがいる場所で守られるべき重要人物として扱われ、安全が保証されるわけだ。鎖国しているこの国になにかの企みを持った人間は入れない。全て魔法で筒抜けだからだ。
「なるたけ二日以内に連絡いれるから。連絡なければリッケリ諸島に戻って待機ね」
「ディーナ様!」
黙って頷くソフィーと対照的になにがなんでも一緒に行きたいヴォルム。珍しい姿だ。大人しく黙って斜め後ろにいた頃とは大違いね。
「うーん……行くわ!」
「お待ち下さい!」
唸って悩んで苦渋の顔を滲ませる。
「ディーナ様、せめてこれを」
服の中に隠してあったネックレスを取り出した。銀色に輝くシンプルなものだ。
「いいの?」
「これがあればディーナ様がどこにいても追えます」
「逆に怖いわ」
追跡機能付き?
入国審査官に視線を寄越すと「問題ありません」と回答してくれた。瞬時にネックレスの中身をみて確認したのね。魔法すごい。
「手段を選ばなければ俺だって入国ぐらい」
「そこまでしないで。ここで待ってて」
埒が明かないのでネックレスを首に下げて入国することにした。
ネカルタス王国の規則に則った結果、ヴォルムが入国できないのであれば仕方ない。
「では王城スタルテルスにご案内致します」
「はい」
魔法大国ネカルタスで楽なのは移動が魔法による転移であるところだ。入国の門を通って広間の魔法陣に立てばすぐに王城目の前というハイテクなシステム。
「ドゥエツ王国ループト公爵令嬢ですね」
「はい」
「伺っています。こちらへ」
情報もすぐ入っている。おかげで目的の人物にすぐに会えた。
「おーす、ディーナ」
応接間には私の来訪を分かりきっている魔法使いが待っていた。
「久しぶり、ヴェルディス」
魔法大国ネカルタスにおける最強の魔法使いヴェルディス・グラクティコスを目の前にした。彼は最強の魔法使いでありながら国の要職にも就いていて、こうした外交特使の対応にも出てくる。年も近いからテュラと同じくざっくばらんに話せて楽だ。
「随分厳しい入国制限してるわね」
「分かってんだろ?」
テュラと同じく気さくだけど、ヴェルディスの方が態度が不遜でぱっと見た目は不機嫌に見える。テュラが笑い癖ひどいだけかもしれないけど。
「入国厳しかったのは侵略の危険とスパイ対策?」
「それもあるが、一番はこれだ」
ヴェルディスが持っていた書面を開くと中身は宣戦布告文。
ソッケ王国から魔法大国ネカルタスへのものだった。
「嘘でしょ」
「偽造だがな。紙質はそっちの三国にはねーし、王印も全然ちげーし」
魔法陣による仕掛けもあって、そこは入国前に無効化したらしい。
「キルカス王国の時と同じね」
「スパイは入り込んでねーから魔法薬は一つも出てねーぞ」
「これ?」
キルカス王国から一本預かった魔法薬を取り出す。
「持ち込めたから、おかしいとは思ってたのよ」
「テュラには返事しとくよう言ったぞ」
「ありがと。で? これが体調不良になるやつ確定ね?」
「そーだな」
魔法薬で引き起こされる魔力暴走による体調不良。
海賊の出現。
魔法陣の使用。
宣戦布告文の偽造。
「ヴェルディス、ルーラという令嬢に思うところはある?」
キルカス王国に現れ、推測と言えど南端ラヤラ領で魔法大国ネカルタスの王女の監禁に関わっている。キルカス王国内中枢で起きた魔法薬による体調不良も一枚噛んでそうで怪しい。
このシャーリーの義妹であり乙女ゲームの正ヒロイン・ルーラが単独で戦争を起こそうとしている、となったとしても規模が大きく個人でやるにしても現実味がない。ルーラが絡んでいるとすれば実行役、つまり海賊と同等扱いだろう。
「そいつの件についてはディーナに話がある奴がいる」
「今、会う?」
「いや、その時が来たら会えるさ」
また不思議なことを言うのね。
「まー、この話は後にしようぜ。それよりもディーナ。お前の考える答えを教えろよ」
「単刀直入に話すけどいい?」
「おー」
「海賊も魔力暴走による体調不良も、魔法薬も魔法陣も全てセモツ国が原因ね?」
不遜な魔法使いの機嫌が良くなった。口元が弧を描く。
「大当たりだ」
「セモツ国がファンティヴェウメシイ王国に敗戦した後、方法を変えて攻め始めたわけ?」
「おー」
「戦争を起こして隙を狙って他国を乗っとるってこと?」
不遜な態度の魔法使いの機嫌がさらに良くなった。
「目的はうちだ」
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