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第1部 第1章
従者の特別な仕事 1
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そして、その日の夜。僕は何度か深呼吸をして、セラフィンさまの私室に向かう。
王城の中でも、王族のプライベートなお部屋が並ぶフロア。ここには、王族以外だと王族の専属従者や侍女しか、入ることが許されない場所。フロアの前には兵士が二人立っていて、身分証の提出を求めるほどなのだ。
僕は二人の兵士に「セラフィンさまのお仕事の手伝いをする」と伝える。それから、自分の身分証を見せる。
すると、二人は特になにかを言うことなく通してくれた。なので、僕は縮こまりつつ兵士たちの隣を通り抜ける。
(……セラフィンさまは、本当になんていうか、根回しが上手というか)
セラフィンさまは、僕が来る日は周囲に「夜まで執務をするつもりだ」と説明されている。だから、僕の立場は『王太子殿下の執務をサポートするために私室に呼ばれている、専属従者』となっているのだ。
周囲は憐れんだような目を向けてくるけれど、僕にとっては別に構わないことだ。
ただ、あえて言うのならば。うん、ちょっと心臓に悪いと言うか……。
「……よ、し」
セラフィンさまの私室の前に立って、僕は何度か深呼吸。平常心を装ったら、僕は扉を三回ノックする。
「あぁ、いいよ」
お部屋の中からそんな声が聞こえてきて、僕はゆっくりと扉を開けた。
「今日も悪いね、ルドルフ。……やっておきたい執務が、終わっていなくてね」
にこやかな笑みを浮かべて、セラフィンさまが僕を招き入れる。……嘘もここまで来ると白々しい。恩人に対して、僕は無礼にもそう思ってしまった。
「いつも通り、着替えは持ってきたよね?」
「……はい」
「じゃあ、とりあえず身を清めて、着替えておいで」
セラフィンさまが笑みを崩さずに、そうおっしゃる。
……反論することなんて許されないから、僕は従者の礼を執って、セラフィンさまの私室にある浴室へと向かった。
(こ、こういうのは、従者のお仕事じゃないんだけど……)
浴室の前に立って、セラフィンさまのほうを振り向く。彼は、じっと僕を見つめている。
その目は柔和に細められていて、僕の身体が沸騰したように熱くなる。
でも、それを必死にこらえて。僕は、浴室の扉を開けた。
浴室の中は、相変わらず広い。蛇口をひねればお湯が出るシャワーというものとか、広々としたバスタブとかが置いてある。
僕は少し指先を震わせながら、衣服を脱いだ。今度は下着の類も脱いで、シャワーの前に移動する。
「わっ」
蛇口をひねれば、温かいお湯が出てきた。
それで流れ作業みたいに身体を洗って、髪の毛も洗って。汚い部分なんてないようにする。だって、そうじゃないか。
――セラフィンさまと寝台を共にするのだから、汚い部分があってはいけない。
(って、この言い方だと誤解を生みそう……)
心の中でそう呟いて、僕は身体についた泡を流していく。
(えぇっと、この後は……)
この後はいつも通りのことを行うだけなのだろう。
……ただ、それが多少なりとも。いや、かなり恥ずかしいだけだ。
「けど、特別な給金を出してもらえるし、引き受けないなんて選択肢はないんだよなぁ……」
僕はいつか使用人棟を出て一人で暮らしたい。そんな、夢があるのだ。
だから、お金はいくらあっても困らないし、足りない。家賃とか、継続的に払う必要があるのだから。
「あんまり、セラフィンさまにご迷惑をかけることもできないし、お世話にもなりたくないし……」
今まで、幾度となく僕のことを助けてくださった。迷惑をかけても、笑って許してくださった。
彼は僕が頑張っているのを見るのが好きとおっしゃるけれど、やっぱり王族専用の従者なんて。
もっと、てきぱきとしていて、要領のいい人がなるべきだろう。それは、わかる。
「だから、僕は僕にできることを、やるしかないんだ……」
その一つが、今からセラフィンさまと寝台を共にすることなのだけれど。
まぁ、ほら。……僕が引き受けることを決めたのだから、自己責任だ。うん、そう。
王城の中でも、王族のプライベートなお部屋が並ぶフロア。ここには、王族以外だと王族の専属従者や侍女しか、入ることが許されない場所。フロアの前には兵士が二人立っていて、身分証の提出を求めるほどなのだ。
僕は二人の兵士に「セラフィンさまのお仕事の手伝いをする」と伝える。それから、自分の身分証を見せる。
すると、二人は特になにかを言うことなく通してくれた。なので、僕は縮こまりつつ兵士たちの隣を通り抜ける。
(……セラフィンさまは、本当になんていうか、根回しが上手というか)
セラフィンさまは、僕が来る日は周囲に「夜まで執務をするつもりだ」と説明されている。だから、僕の立場は『王太子殿下の執務をサポートするために私室に呼ばれている、専属従者』となっているのだ。
周囲は憐れんだような目を向けてくるけれど、僕にとっては別に構わないことだ。
ただ、あえて言うのならば。うん、ちょっと心臓に悪いと言うか……。
「……よ、し」
セラフィンさまの私室の前に立って、僕は何度か深呼吸。平常心を装ったら、僕は扉を三回ノックする。
「あぁ、いいよ」
お部屋の中からそんな声が聞こえてきて、僕はゆっくりと扉を開けた。
「今日も悪いね、ルドルフ。……やっておきたい執務が、終わっていなくてね」
にこやかな笑みを浮かべて、セラフィンさまが僕を招き入れる。……嘘もここまで来ると白々しい。恩人に対して、僕は無礼にもそう思ってしまった。
「いつも通り、着替えは持ってきたよね?」
「……はい」
「じゃあ、とりあえず身を清めて、着替えておいで」
セラフィンさまが笑みを崩さずに、そうおっしゃる。
……反論することなんて許されないから、僕は従者の礼を執って、セラフィンさまの私室にある浴室へと向かった。
(こ、こういうのは、従者のお仕事じゃないんだけど……)
浴室の前に立って、セラフィンさまのほうを振り向く。彼は、じっと僕を見つめている。
その目は柔和に細められていて、僕の身体が沸騰したように熱くなる。
でも、それを必死にこらえて。僕は、浴室の扉を開けた。
浴室の中は、相変わらず広い。蛇口をひねればお湯が出るシャワーというものとか、広々としたバスタブとかが置いてある。
僕は少し指先を震わせながら、衣服を脱いだ。今度は下着の類も脱いで、シャワーの前に移動する。
「わっ」
蛇口をひねれば、温かいお湯が出てきた。
それで流れ作業みたいに身体を洗って、髪の毛も洗って。汚い部分なんてないようにする。だって、そうじゃないか。
――セラフィンさまと寝台を共にするのだから、汚い部分があってはいけない。
(って、この言い方だと誤解を生みそう……)
心の中でそう呟いて、僕は身体についた泡を流していく。
(えぇっと、この後は……)
この後はいつも通りのことを行うだけなのだろう。
……ただ、それが多少なりとも。いや、かなり恥ずかしいだけだ。
「けど、特別な給金を出してもらえるし、引き受けないなんて選択肢はないんだよなぁ……」
僕はいつか使用人棟を出て一人で暮らしたい。そんな、夢があるのだ。
だから、お金はいくらあっても困らないし、足りない。家賃とか、継続的に払う必要があるのだから。
「あんまり、セラフィンさまにご迷惑をかけることもできないし、お世話にもなりたくないし……」
今まで、幾度となく僕のことを助けてくださった。迷惑をかけても、笑って許してくださった。
彼は僕が頑張っているのを見るのが好きとおっしゃるけれど、やっぱり王族専用の従者なんて。
もっと、てきぱきとしていて、要領のいい人がなるべきだろう。それは、わかる。
「だから、僕は僕にできることを、やるしかないんだ……」
その一つが、今からセラフィンさまと寝台を共にすることなのだけれど。
まぁ、ほら。……僕が引き受けることを決めたのだから、自己責任だ。うん、そう。
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