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本編
03.爛れてる【※】
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◇
俺の元でエルが従者として働き始めて、あっという間に五年と少しが経った。
その間に俺は十九歳を迎え、エルも十八歳を迎えた。当時は小さかったエルも、たくさん食べてたくさん寝て。そのおかげかぐんぐん成長して、今では身長も俺より十センチほど高い。
顔立ちもすごく凛々しくなって、性格の苛烈さも和らいだ。だからなのか、女の使用人たちの中にはエルに恋慕にも似た感情をぶつけている者が一定数いる。
そりゃそうだ。主とかよりも。同僚先輩後輩。それくらいのほうが、アプローチしやすいから。
ただ、問題があるとすれば。エルが、そんな女たちにちっとも興味を示さないっていうことだろうか。
クラインハインツ公爵邸には、離れがある。それは、『とある事情』を持つ俺のために建てられたものであり、俺と俺の専属の使用人以外は滅多なことでは立ち入らない。
そのため、俺とエルが二人きりになる場所は決まってここの一室だった。
離れにある寝室に足を踏み入れれば、エルが俺の身体を後ろから抱きしめてくる。自身よりも上にある端正な顔を見つめて、俺は唇の端を吊り上げた。
「なに? 欲しいの?」
挑発的に笑ってそう問いかければ、エルが無言でうなずく。かと思えば、俺の膝裏に腕を入れて、俺の身体を抱き上げる。いわゆる、お姫様抱っことかいう奴だ。
(っていうか、これは華奢な女がされるからいいんだよな……)
俺は男にしては華奢だけれど、抱きかかえられているほうも男っていう時点で絵にはならないだろう。
「欲しいっていうか、今日、そういう日ですよね」
エルが不満そうにそう言ってくる。……まぁ、それはそうなんだけれど。
「別に、嫌だったらいいんだけど。俺は、なくても不便しないし」
寝台に優しく身体を下ろされるとほぼ同時に、そう言ってみる。エルが、眉間にしわを寄せた。
「ラザファムさまは、本当に意地の悪い人ですね」
エルが俺の肩を掴んで、俺の身体を寝台に押し倒してくる。男にしては長い黒色の髪の毛が、さらりと寝台に広がる。
「意地なんて悪くないよ。……俺は、性格が良いで通っているし」
「いいえ、意地の悪い人だ」
「そっか。……褒めてくれて、ありがと」
エルの言葉にそう返せば、奴は悔しそうに表情を歪める。……その表情が、たまらなく好きだった。
(あと何度、この顔を見れるんだろう)
着々と近づく、約束のとき。そのときが来たら、俺はこの世からいなくなるから。
……こいつのこんな表情も、もう見れないんだろうなって。
「褒めてないです」
俺の言葉に時間差で返事をしたエルが、俺のシャツのボタンを外していく。ぷつり、ぷつり。ゆっくりと外されるボタンの音が、生々しい。そう思う。
「っていうか、一々こんなことしなくてもいいんだけど?」
俺のシャツをはだけさせたエルに、そう伝える。実際、そうだ。これは俺のための行為じゃない。
エルのためだけの行為なのだから。
「さっさと抱けば――」
そう言おうとした俺の言葉は、続かない。エルが乱暴に口づけてくるから。
何度も何度も唇を重ねられる。まるで、抗議の言葉を飲み込もうとしているかのようだ。
(本当、こいつ、こういうの好きだよな――)
頭の中でそんなことを思って、唇を開ける。エルの舌が、俺の口腔内に入ってくる。
「んんっ、んぅ」
どんどんエルの舌の動きが大胆になる。徐々に口元から聞こえるくちゅくちゅって水音が、大きくなっていく。
自らエルの舌に自信の舌を絡めれば、エルの身体がびくんと跳ねた。
「……な、も、やろ」
ゆっくりと離れたエルの顔を見て、俺は笑った。すると、エルの手が俺の胸を這う。
するりと撫でられる胸は、平だ。女みたいなふくらみもなければ、男らしい筋肉もない。平坦で、薄っぺらい胸。
そこをまるで壊れ物でも扱うかのように優しく撫でられて、背筋がゾクゾクとする。自然と喉から高い声が漏れてしまう。
「んっ、エル、そこ、ばっか……」
胸の突起に触れられると、身体が反応してしまう。何度も何度も重ねた身体。だから、エルには全部見透かされている。
「……ラザファムさまは、ここがお好きですよね?」
「んっ、す、き、だけど……」
ぎゅっとつままれて、背中がのけ反る。
「けど?」
「もっと、気持ちよくして……」
こうなると、もう自分の意思じゃ止められない。貪欲に快楽を欲して、エルに縋ることしか出来ない。
エルのためにしていることなのに。これじゃあまるで――俺自身も望んでいるみたいじゃないか。
(別に、いいんだけど……)
どうせ、俺は――いや、このことは考えないで行こう。
「な? も、下触ろ……?」
若干上目遣いになりつつ誘えば、ちょっと戸惑ったエルが頷く。
エルの手が、俺からスラックスと下穿きを素早く脱がせる。そのままエルは、寝台の隣にある棚から、小瓶を取り出す。
「冷たいですよ」
「んっ」
その小瓶の中の液体を俺の身体に垂らす。そのまま、それを自身の指に纏わせ、俺の後孔に指を押し込む。
「ぁ、あっ……」
ぬるっとした液体を潤滑油にして、俺の身体の奥にエルの指が挿ってくる。
その指は、しばらく俺の身体の中で単調に動く。でも、俺が痛がっていないことに気が付いたからなのか、指が二本に増えたのがわかってしまった。
「っはぁ、あっ、ああっ!」
二本の指が俺の身体の中でうごめいている。その感覚が気持ちよくて、どんどん息が上がっていく。
自然とエルの背中に腕を回して、そのたくましい身体をぐいっと自身のほうに引き寄せた。
「ぁあっ、あぅ、んぁ」
「っはぁ、ラザファムさま、気持ちいいですか……?」
そう問いかけるエルの指は、止まることを知らない。俺の感じるところを容赦なくさすってくる。
「ぁあっ、しってる、くせに……」
自分の身体は自分がよくわかっている。けど、この場合。俺の身体を一番理解しているのは、俺よりもエルなんだ。
「だって、聞きたいんで」
悪びれもなくそう言うエルに、若干腹が立つ。こいつのほうが、ずっと意地が悪いだろうに。
だけど、まぁ。俺の頭はとことん快楽に弱い。あと、この先にある快楽を知っているから。エルの言葉には従順になってしまう。
「ん、いい、気持ちいい……」
上ずったような声でそう告げれば、エルが笑ったのがわかった。
「ほんと、ラザファムさま、可愛い……」
エルのその言葉は、本心なのか。はたまた、表向きだけなのか。それは、俺にはわからない。そもそも、俺はエルの本心をわかろうともしていないのだから、当然だ。
俺の元でエルが従者として働き始めて、あっという間に五年と少しが経った。
その間に俺は十九歳を迎え、エルも十八歳を迎えた。当時は小さかったエルも、たくさん食べてたくさん寝て。そのおかげかぐんぐん成長して、今では身長も俺より十センチほど高い。
顔立ちもすごく凛々しくなって、性格の苛烈さも和らいだ。だからなのか、女の使用人たちの中にはエルに恋慕にも似た感情をぶつけている者が一定数いる。
そりゃそうだ。主とかよりも。同僚先輩後輩。それくらいのほうが、アプローチしやすいから。
ただ、問題があるとすれば。エルが、そんな女たちにちっとも興味を示さないっていうことだろうか。
クラインハインツ公爵邸には、離れがある。それは、『とある事情』を持つ俺のために建てられたものであり、俺と俺の専属の使用人以外は滅多なことでは立ち入らない。
そのため、俺とエルが二人きりになる場所は決まってここの一室だった。
離れにある寝室に足を踏み入れれば、エルが俺の身体を後ろから抱きしめてくる。自身よりも上にある端正な顔を見つめて、俺は唇の端を吊り上げた。
「なに? 欲しいの?」
挑発的に笑ってそう問いかければ、エルが無言でうなずく。かと思えば、俺の膝裏に腕を入れて、俺の身体を抱き上げる。いわゆる、お姫様抱っことかいう奴だ。
(っていうか、これは華奢な女がされるからいいんだよな……)
俺は男にしては華奢だけれど、抱きかかえられているほうも男っていう時点で絵にはならないだろう。
「欲しいっていうか、今日、そういう日ですよね」
エルが不満そうにそう言ってくる。……まぁ、それはそうなんだけれど。
「別に、嫌だったらいいんだけど。俺は、なくても不便しないし」
寝台に優しく身体を下ろされるとほぼ同時に、そう言ってみる。エルが、眉間にしわを寄せた。
「ラザファムさまは、本当に意地の悪い人ですね」
エルが俺の肩を掴んで、俺の身体を寝台に押し倒してくる。男にしては長い黒色の髪の毛が、さらりと寝台に広がる。
「意地なんて悪くないよ。……俺は、性格が良いで通っているし」
「いいえ、意地の悪い人だ」
「そっか。……褒めてくれて、ありがと」
エルの言葉にそう返せば、奴は悔しそうに表情を歪める。……その表情が、たまらなく好きだった。
(あと何度、この顔を見れるんだろう)
着々と近づく、約束のとき。そのときが来たら、俺はこの世からいなくなるから。
……こいつのこんな表情も、もう見れないんだろうなって。
「褒めてないです」
俺の言葉に時間差で返事をしたエルが、俺のシャツのボタンを外していく。ぷつり、ぷつり。ゆっくりと外されるボタンの音が、生々しい。そう思う。
「っていうか、一々こんなことしなくてもいいんだけど?」
俺のシャツをはだけさせたエルに、そう伝える。実際、そうだ。これは俺のための行為じゃない。
エルのためだけの行為なのだから。
「さっさと抱けば――」
そう言おうとした俺の言葉は、続かない。エルが乱暴に口づけてくるから。
何度も何度も唇を重ねられる。まるで、抗議の言葉を飲み込もうとしているかのようだ。
(本当、こいつ、こういうの好きだよな――)
頭の中でそんなことを思って、唇を開ける。エルの舌が、俺の口腔内に入ってくる。
「んんっ、んぅ」
どんどんエルの舌の動きが大胆になる。徐々に口元から聞こえるくちゅくちゅって水音が、大きくなっていく。
自らエルの舌に自信の舌を絡めれば、エルの身体がびくんと跳ねた。
「……な、も、やろ」
ゆっくりと離れたエルの顔を見て、俺は笑った。すると、エルの手が俺の胸を這う。
するりと撫でられる胸は、平だ。女みたいなふくらみもなければ、男らしい筋肉もない。平坦で、薄っぺらい胸。
そこをまるで壊れ物でも扱うかのように優しく撫でられて、背筋がゾクゾクとする。自然と喉から高い声が漏れてしまう。
「んっ、エル、そこ、ばっか……」
胸の突起に触れられると、身体が反応してしまう。何度も何度も重ねた身体。だから、エルには全部見透かされている。
「……ラザファムさまは、ここがお好きですよね?」
「んっ、す、き、だけど……」
ぎゅっとつままれて、背中がのけ反る。
「けど?」
「もっと、気持ちよくして……」
こうなると、もう自分の意思じゃ止められない。貪欲に快楽を欲して、エルに縋ることしか出来ない。
エルのためにしていることなのに。これじゃあまるで――俺自身も望んでいるみたいじゃないか。
(別に、いいんだけど……)
どうせ、俺は――いや、このことは考えないで行こう。
「な? も、下触ろ……?」
若干上目遣いになりつつ誘えば、ちょっと戸惑ったエルが頷く。
エルの手が、俺からスラックスと下穿きを素早く脱がせる。そのままエルは、寝台の隣にある棚から、小瓶を取り出す。
「冷たいですよ」
「んっ」
その小瓶の中の液体を俺の身体に垂らす。そのまま、それを自身の指に纏わせ、俺の後孔に指を押し込む。
「ぁ、あっ……」
ぬるっとした液体を潤滑油にして、俺の身体の奥にエルの指が挿ってくる。
その指は、しばらく俺の身体の中で単調に動く。でも、俺が痛がっていないことに気が付いたからなのか、指が二本に増えたのがわかってしまった。
「っはぁ、あっ、ああっ!」
二本の指が俺の身体の中でうごめいている。その感覚が気持ちよくて、どんどん息が上がっていく。
自然とエルの背中に腕を回して、そのたくましい身体をぐいっと自身のほうに引き寄せた。
「ぁあっ、あぅ、んぁ」
「っはぁ、ラザファムさま、気持ちいいですか……?」
そう問いかけるエルの指は、止まることを知らない。俺の感じるところを容赦なくさすってくる。
「ぁあっ、しってる、くせに……」
自分の身体は自分がよくわかっている。けど、この場合。俺の身体を一番理解しているのは、俺よりもエルなんだ。
「だって、聞きたいんで」
悪びれもなくそう言うエルに、若干腹が立つ。こいつのほうが、ずっと意地が悪いだろうに。
だけど、まぁ。俺の頭はとことん快楽に弱い。あと、この先にある快楽を知っているから。エルの言葉には従順になってしまう。
「ん、いい、気持ちいい……」
上ずったような声でそう告げれば、エルが笑ったのがわかった。
「ほんと、ラザファムさま、可愛い……」
エルのその言葉は、本心なのか。はたまた、表向きだけなのか。それは、俺にはわからない。そもそも、俺はエルの本心をわかろうともしていないのだから、当然だ。
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