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5、八千代17歳、菊華23歳─初冬
34.その感情も恋のうち③
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マンションに着くなり、菊華はエレベーターの壁に押しつけられた。八千代からさらわれるようなキスをされて、プチパニックだ。
「家まで我慢……できなかった」
つり目を切なげに細めた八千代の表情は、劣情を隠していない。熱を持った少年の顔。菊華はと言えば、急に熱を移されてうまく息ができないでいる。
何度もキスをしてきたのに、こんなに強引にされるのは初めてだった。
「俺の部屋、来るよな?」
舌を絡められて返事ができないでいる菊華は、返事のかわりに八千代の首に腕を回した。
ルームライトが月のような柔らかな光で、八千代を暗闇から浮かび上がらせている。既に菊華には、八千代の陰影も、部屋の陰影も滲んでぼやけて見えている。ふわふわしてなにもかも曖昧だった。
気持ちがいいのに声が出せなくて苦しいのは、口を押さえているからだ。家に八千代の両親がいるのに、淫らな声をあげられない。
「ふ、ぁ……あ」
菊華の震える手の隙間から声が漏れる。八千代が全身を舐めて吸ってを繰り返し、ときどき素肌に歯を立てるせいだ。
キスをしながら服を脱がされたのに、菊華は下着姿のまま。菊華がひどく感じる場所を避けて行為を続けているのだから、八千代は執拗だ。
「やっくん……はぁ。怒って、るの?」
くまなく背中にくちづけられているのに、見当違いも甚だしく菊華が口にする。
意地悪されているのは、これが初めてではないけれど、ここまで徹底的に触られないのが初めてになる。
「怒る? どうして?」
八千代は含み笑いをしながら、菊華の腹に手を回して抱き寄せる。肩から首筋にかけての場所なんて性感帯ではないと思っていたのに、八千代が口をつけるとおかしなぐらい身体が反応してしまう。抑えているにも関わらず、また息と声が漏れた。
「嫉妬やプライドの……見せちゃ、いけないのに……」
見せちゃった。
私の嫌なところを見て怒ったんだよ。
菊華の言いたいことは全部涙に変わって、はらはらと零れ落ちた。泣きたくなんかないのに。
「ばかだな、菊華」
呆れたように言われて菊華の身が竦んだ。そのままぎゅっと抱きしめられ、言葉と態度が違っていることに菊華は目をしばたかせた。
「怒っているならキスなんかしないだろ」
身体を少し倒されると、涙の向こうにいる八千代と目が合った。
「印が付けられるものなら、菊華の全身に俺のだって刻みたい。誰が見てもわかるように。けど、現実はそんなことなんかできないだろ」
キスを繰り返す八千代は、子供なのか大人なのかわからない気持ちを零す。
本当のところ、八千代に余裕なんかない。二重に三重に欲に施錠していても、菊華が思いもよらない方法で解錠してしまう。
今日だってそうだ。久々に顔を見たのだからゆっくり話をするはずで、こんなことする気じゃなかったのだ。なんて言い訳がましく責任を菊華に擦りつけてしまう。
「怒っているとすれば、たやすく菊華をほしがる俺自身にだよ」
菊華は、震える手を伸ばして八千代のシャープなフェイスラインに触れた。
じゃあ、ほしがってくれたらいいのに。そう言おうとしたタイミングで、ブラジャーをたくし上げられ胸を揉みしだかれた。急な仕打ちが菊華に歓喜の声をあげさせる。
「は、ぁ――ぁあっ」
これ以上ないぐらい身体の熱が上がる。もうほとんど溶けてしまいそうなのに。
「菊華の気持ちが嬉しかったんだ。今も、嬉しくてたまらない」
十分にジンジンしている胸の先を抓まれると、目の前がチカチカして気持ちいい。でも胸だけでこうなるなんておかしい。つながりたいと思っているけど、これじゃ淫乱だ。認めたくないからか、菊華はいやいやと首を振る。
「あっ、んん、やだ。や。あ」
ごちゃごちゃ考えるのもできなくなって、与えられる刺激に身を任せるしかできなかった。
「いいよ、もう気持ちいいことしかしないから」
「あっ!」
ショーツに忍び込んだ手が、過敏になっている女芯に触れた。
ちがうの、やっくん。こんなの私じゃないよ。思いと裏腹に身体は解き放たれていく。足の指先まで丸めて身体をこわばらせた。
「ぃ……くぅ……」
切ないぐらい痺れているのに、八千代は女芯をくちくち扱くのをやめない。
引かない余韻と強い刺激で、菊華は喘ぐのがやっとだ。
「かわいい、菊華」
金魚のようにはくはく口を動かしても、出るのはやっぱり喘ぐ声で。
ほんとは、一緒に気持ちよくなりたいの。
霞む意識のなかでは、それが言えたのかわからなかった。
目が覚めた菊華は、なぜか全身が筋肉痛だった。
「おはよ」
隣で笑う八千代はTシャツとスウェットのパンツで、抱きしめられている菊華は、ぶかぶかのトレーナーしか着ていない。
どうやってシャワーを浴びに行けばいいの?
だって、ここは八千代の部屋なのだ。一呼吸開けて、昨夜に大きな声を出したのを思い出し、サッと顔色を青くなる。
果たして学生らしいお付き合いを逸脱しているのか。――たぶん、ではなく、明らかに学生らしくない。
「こ、こえっ。私……どうしよう」
「父さんと母さんには、夜のうちに連絡しといたから誰もいないよ」
「え?」
掠れた声で菊華は聞き返した。
「カノジョが泊まりに来るから気を遣ってほしいってメッセ送ったんだ。その後すぐに映画のオールナイト行ってくるって返信があったよ」
もろバレであった。いや、元々バレているだろうがこんな気の遣われかたをされていいのか。いいやよくないと、菊華は頭を抱えた。
だけど、あれ?
はたと気づく。八千代の言葉。
『菊華が泊まりに来るから』ではなく、『カノジョが』なのだ。
本当に今更なのだが、八千代が両親に『カノジョ』と言ったのだ。嬉しくてちょっと恥ずかしい。
現状を考えればいい事だと思えないから、あからさまに喜ぶのをぐっと堪えた。年上なのだからしっかりしなくては。
「武史さんと都子さんに悪いから、もうこういうのはダメだよ」
緩む口元を押さえて言っていては、説得力は皆無である
はたして、菊華が年上らしくふるまえることがあるだろうか。
「家まで我慢……できなかった」
つり目を切なげに細めた八千代の表情は、劣情を隠していない。熱を持った少年の顔。菊華はと言えば、急に熱を移されてうまく息ができないでいる。
何度もキスをしてきたのに、こんなに強引にされるのは初めてだった。
「俺の部屋、来るよな?」
舌を絡められて返事ができないでいる菊華は、返事のかわりに八千代の首に腕を回した。
ルームライトが月のような柔らかな光で、八千代を暗闇から浮かび上がらせている。既に菊華には、八千代の陰影も、部屋の陰影も滲んでぼやけて見えている。ふわふわしてなにもかも曖昧だった。
気持ちがいいのに声が出せなくて苦しいのは、口を押さえているからだ。家に八千代の両親がいるのに、淫らな声をあげられない。
「ふ、ぁ……あ」
菊華の震える手の隙間から声が漏れる。八千代が全身を舐めて吸ってを繰り返し、ときどき素肌に歯を立てるせいだ。
キスをしながら服を脱がされたのに、菊華は下着姿のまま。菊華がひどく感じる場所を避けて行為を続けているのだから、八千代は執拗だ。
「やっくん……はぁ。怒って、るの?」
くまなく背中にくちづけられているのに、見当違いも甚だしく菊華が口にする。
意地悪されているのは、これが初めてではないけれど、ここまで徹底的に触られないのが初めてになる。
「怒る? どうして?」
八千代は含み笑いをしながら、菊華の腹に手を回して抱き寄せる。肩から首筋にかけての場所なんて性感帯ではないと思っていたのに、八千代が口をつけるとおかしなぐらい身体が反応してしまう。抑えているにも関わらず、また息と声が漏れた。
「嫉妬やプライドの……見せちゃ、いけないのに……」
見せちゃった。
私の嫌なところを見て怒ったんだよ。
菊華の言いたいことは全部涙に変わって、はらはらと零れ落ちた。泣きたくなんかないのに。
「ばかだな、菊華」
呆れたように言われて菊華の身が竦んだ。そのままぎゅっと抱きしめられ、言葉と態度が違っていることに菊華は目をしばたかせた。
「怒っているならキスなんかしないだろ」
身体を少し倒されると、涙の向こうにいる八千代と目が合った。
「印が付けられるものなら、菊華の全身に俺のだって刻みたい。誰が見てもわかるように。けど、現実はそんなことなんかできないだろ」
キスを繰り返す八千代は、子供なのか大人なのかわからない気持ちを零す。
本当のところ、八千代に余裕なんかない。二重に三重に欲に施錠していても、菊華が思いもよらない方法で解錠してしまう。
今日だってそうだ。久々に顔を見たのだからゆっくり話をするはずで、こんなことする気じゃなかったのだ。なんて言い訳がましく責任を菊華に擦りつけてしまう。
「怒っているとすれば、たやすく菊華をほしがる俺自身にだよ」
菊華は、震える手を伸ばして八千代のシャープなフェイスラインに触れた。
じゃあ、ほしがってくれたらいいのに。そう言おうとしたタイミングで、ブラジャーをたくし上げられ胸を揉みしだかれた。急な仕打ちが菊華に歓喜の声をあげさせる。
「は、ぁ――ぁあっ」
これ以上ないぐらい身体の熱が上がる。もうほとんど溶けてしまいそうなのに。
「菊華の気持ちが嬉しかったんだ。今も、嬉しくてたまらない」
十分にジンジンしている胸の先を抓まれると、目の前がチカチカして気持ちいい。でも胸だけでこうなるなんておかしい。つながりたいと思っているけど、これじゃ淫乱だ。認めたくないからか、菊華はいやいやと首を振る。
「あっ、んん、やだ。や。あ」
ごちゃごちゃ考えるのもできなくなって、与えられる刺激に身を任せるしかできなかった。
「いいよ、もう気持ちいいことしかしないから」
「あっ!」
ショーツに忍び込んだ手が、過敏になっている女芯に触れた。
ちがうの、やっくん。こんなの私じゃないよ。思いと裏腹に身体は解き放たれていく。足の指先まで丸めて身体をこわばらせた。
「ぃ……くぅ……」
切ないぐらい痺れているのに、八千代は女芯をくちくち扱くのをやめない。
引かない余韻と強い刺激で、菊華は喘ぐのがやっとだ。
「かわいい、菊華」
金魚のようにはくはく口を動かしても、出るのはやっぱり喘ぐ声で。
ほんとは、一緒に気持ちよくなりたいの。
霞む意識のなかでは、それが言えたのかわからなかった。
目が覚めた菊華は、なぜか全身が筋肉痛だった。
「おはよ」
隣で笑う八千代はTシャツとスウェットのパンツで、抱きしめられている菊華は、ぶかぶかのトレーナーしか着ていない。
どうやってシャワーを浴びに行けばいいの?
だって、ここは八千代の部屋なのだ。一呼吸開けて、昨夜に大きな声を出したのを思い出し、サッと顔色を青くなる。
果たして学生らしいお付き合いを逸脱しているのか。――たぶん、ではなく、明らかに学生らしくない。
「こ、こえっ。私……どうしよう」
「父さんと母さんには、夜のうちに連絡しといたから誰もいないよ」
「え?」
掠れた声で菊華は聞き返した。
「カノジョが泊まりに来るから気を遣ってほしいってメッセ送ったんだ。その後すぐに映画のオールナイト行ってくるって返信があったよ」
もろバレであった。いや、元々バレているだろうがこんな気の遣われかたをされていいのか。いいやよくないと、菊華は頭を抱えた。
だけど、あれ?
はたと気づく。八千代の言葉。
『菊華が泊まりに来るから』ではなく、『カノジョが』なのだ。
本当に今更なのだが、八千代が両親に『カノジョ』と言ったのだ。嬉しくてちょっと恥ずかしい。
現状を考えればいい事だと思えないから、あからさまに喜ぶのをぐっと堪えた。年上なのだからしっかりしなくては。
「武史さんと都子さんに悪いから、もうこういうのはダメだよ」
緩む口元を押さえて言っていては、説得力は皆無である
はたして、菊華が年上らしくふるまえることがあるだろうか。
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