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Episode02:This is my wife

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 出勤時間になると、ジャンは萌衣を助手席に乗せて車を発車させた。

「君は朝っぱらから、あの満員電車に乗りたいのですか?」と怪訝そうな表情のジャンに尋ねられてしまうと、萎縮せざるを得ない。

「乗りたいわけではないですけど……」

 日本のことは嫌いではないが、あの満員電車だけは理解できないと主張するジャンの言葉に従って、萌衣はジャンと一緒に車で通勤することになったのだ。

「どうぞ」

 ドアを開けられて、助手席に座るように促されると、やはりこの冷酷上司もレディーファーストの国で生まれたのだなと思う。

「ありがとうございます」

 萌衣が座ってシートベルトをしたことを確認すると、丁寧にドアを閉め、隣の運転席にジャンは座った。

 ジャンから洋梨のいい香りがする。

 萌衣の好きな香りだった。

 朝起き抜けに、横に座っている男と抱き合っていたのだということを、ふいに思い出して顔が熱くなる。

 今後そういうこと・・・・・・も込みでの展開になっていくのだと思うと、どうも動揺してしまう。

「朝ご飯はああいうので口に合いましたか?」

 突然話題を振られて、慌てて「美味しかったです」と答える。

「本当は和食の方がお口に合うと思ったのですが、私のやり方に合わせてしまった」

「いえ、私も朝ご飯はパンのことが多いので嬉しかったです」

「そうですか」

「今夜は、私が作りますね。ハンバーグとかどうでしょう」

 上司にばかり料理を作らせるわけにはいかない。

 今のところ帰る場所もないのだから、一緒に住む相手には上機嫌でいてほしかった。

 どんくさいところもあるが、萌衣は料理が苦手な方ではないのだ。

「それは楽しみですね」

 ジャンの顔が、一瞬嬉しそうに微笑んだように見えた。 

 今まで見たことがなかったジャンの表情に、萌衣は胸が締め付けられるような感覚に陥った。

 それを萌衣は、意外な反応されると驚くよな。と心の中で処理をした。

 会社に到着すると、ジャンはさっと降りて、萌衣の助手席のドアを開けた。

「ここから先は、別々で行きましょうか」

「はい」

「では、書類にも記載していた通り」

 人気のない地下駐車場で、ジャンは萌衣のことを抱きしめると頬にキスをして去って行ってしまった。

「え?」

 突然の抱擁とキスに驚きを隠せずに、萌衣は呆然とする。

 そういえば、契約書に出掛ける際と帰宅した際には、ジャンの国の文化の方法を取り入れると記載してあったような気がする。

 あの冷酷上司が萌衣を抱きしめて頬にキスをするなんて、今まで想像できただろうか。

 そもそも、そういったコミュニケーションをジャンができるということを初めて知った。

 顔が熱い。

 地下駐車場に設置されているトイレに入ると、顔が真っ赤に染まっていた。


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