彼女は、言葉の意味を知らないと言った。


はるか未来において、人類は「過去」を管理するネットワークを開発していた。

世界はやがて滅びる。

その運命に抗うためには、“過去を変える”必要があった。

しかし、それには問題がいくつかあった。

まず一つ、新しい未来を構築するためには、未来に存在するはずだった「記憶」を世界に返還する必要があった。

世界に流れている時間はたった一つだけであり、複数の時間を同時に交差させることはできない。

つまり未来を変えるには、これまでの時間を塗り替える必要があり、その意味で「記憶」を変換する必要があった。

もう一つが、「知脈(エビデンス・ライン)」と呼ばれる電磁波ネットワークへの侵入である。

過去を変えるには、人の遺伝子の中に流れる記憶を遡る必要があり、その「ネットワーク」を通じて過去へと戻る必要がある。

しかし、このネットワークに侵入することができるのは、生身の人間には不可能であった。

そのため、このネットワークに侵入することができる人工的な“知能”を生み出す必要があり、この知能を、人々は「返還者(ロスト・メモリーズ)」と呼んだ。

ロスト・メモリーズは、過去の人間の意識の中に潜り込み、その人間の人格を乗っ取ることができる。

『世界のゲート』と呼ばれる知脈を通じ、過去への扉を開く。

ロスト・メモリーズの使命は、かつて人々が開けなかった扉を、こじ開けること。

手に触れられなかった時間を、繋げることだった。
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