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グラウンド・ゼロ
第14話
しおりを挟む空。
ナギサの眼下には、広大な空が広がっていた。
かなとこ雲が、塔のように聳えている。
E・ゲートに突入した直後、彼女の体は分子レベルに分解され、断層の中に流れる“海”に漂流した。
この「海」とは、量子世界の海、——及び“時空の歪み”のことを指す。
E・ゾーンの中では絶えず無数の世界線が入り混じっており、並行世界の断層が何重にも折り重なっている。
それは服の繊維のように複雑に絡み合いながら、果てしない地平線の中に広がるぶ厚い「層」を帯のように形成していた。
科学上で説明される学術的な認識では、ここは「海」ということになっているが、初めてそれを目にする者にとっては、この場所を「空」と認識することも少なくないだろう。
水の気泡でできた鯨と、群をなして泳いでいく無数の魚が、透明な体を煌めかせながらパタパタと鰭を動かしていた。
いくつもの渦や、波の流れ。
今自分が上にいるのか、下にいるのかもわからないほどの“広さ”が、弾ける泡と気流の最中に掠めていった。
「青」だ。
眼下には、奥行きもわからないほどの深い青が横たわっていた。
彼女のいる場所が、水の中ではないことは明白だった。
かといって、その場所が“どの空間に属しているか“は、定かではなかった。
ハタハタとゆらめく髪。
凄まじい勢いですれ違っていく風。
重力が下に向かって吹いている。
…いや、あるいは、上に向かって”伸びている”。
視界の隅々まで行き渡った半透明の気体が、液体のように薄く引き伸ばされながらプクプクと浮かんでいた。
色調はさらに濃く、深くなっていった。
重力に逆らいながら泳いでいる鯨は、その尾鰭を曲げて低い喉笛を鳴らしていた。
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