ポンコツ聖女と呼ばないで

青の雀

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3.プロポーズ

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 ヴァナルガンドが持ち帰った獲物の肉は、アンドロメダ国の1か月分の食糧に該当する量に驚き、ジェニファーとチャールズは、それを広く臣民に下賜することに決める。

 当然、ヴァルナガンドはふくれっ面をしているが、気にしない。

 ジェニファーは、ヴァルナガンドの頭やカラダを「いい子ね。」と言わんばかりに撫でて終わりにする。

 それだけで、ヴァルナガンドも機嫌を直し、「我は、聖女様の神獣だから当然なのだ。」という顔をしている。単純な奴め。扱いやすくていいけど。

 その日のうちに歓迎パーティが開かれ、ヴァルナガンドとともに、出席することになった。

 今夜の料理の食材すべてがヴァルナガンドの獲物だったので、食べなければ損とばかりにヴァルナガンドは食らいついている。

 「ふむふむ。生で食べるより人間が調理したものを食うというのは、悪くない。美味い。」

 この獲物すべてをサラシア国から、獲ってきたと聞く。まあ、国境付近にいたから、近いと言えば、近い。

 チャールズ殿下は、ジェニファーの顔を見ながら「美しい。」をさっきから連発している。

 「そういえば、サラシアのフィリップ殿下は、聖女様と婚約していたと聞くが、何故、ジェニファー様は、国境付近に一人でいらっしゃったのでしょうか?」

 「フィリップ殿下は、他に思い人がお出来になられ、その方と結婚したいから邪魔になったわたくしを追い出し、婚約破棄の上、国外追放されたのです。」

 「なんと!それはまことか……?それならば、私がジェニファー様にプロポーズしても大丈夫だろうか?」

 ジェニファーは、困惑する。今度ばかりは、好きな男性と結婚したいと思っている。それをまた、聖女様だからと言って、婚約者に仕立て上げられるのは、もうごめんだ。

 だけど、うまくいけば今夜の宿がかかっているから、そこはあいまいに返事をすることにして、ただチャールズ殿下には微笑み返しをするだけにとどめたのだ。

 それを脈があると勝手に受け止められても困る。何かあれば、ヴァルナガンドの背中に乗って脱出すればいい。

 横を見ると、ヴァルナガンドは、食べ終わり眠そうにしている。いいわね。神獣は気楽で。

 翌朝目覚めると、朝いちばんに料理長が客室に来られ、

 「昨夜は聖女様のおかげで、久しぶりに皆お腹いっぱいの食事ができましたことをまずもって、お礼を致します。本日も、しばらく逗留していただけますかの確認で参りました次第で。」

 「ええ、そのつもりよ。まだ、アンドロメダ国に恩返しをしていませんもの。これから国中にわたくしの聖なる力を解放して、生きとし生けるものすべてに活力を与えなければ……、もしお肉が足りなければ、神獣に狩りに行ってもらうから、いつでもおっしゃってくださいね。」

 「ありがとうございます。」

 着替えて、朝食を頂く。パンとスープとサラダだけの簡素な食事だが、昨日、ご馳走を頂いたので、十分、お腹的に満足している。

 それに教会にいたころは、真夜中にたたき起こされ、ミサが行われる。朝食前から、朝の祈りを捧げ、朝食はパンとスープだけ、それも固くなったカビが生える寸前のような腐りかけのパンしかもらえなかった。

 昨夜、いただいた肉料理なんて、15年ぶりぐらい、まだ両親が県内で教会で暮らしていなかったとき以来、司祭様は豪勢な食事についていらっしゃるというのに、聖女様は血が濁りという理由で、簡素な食事しかさせてもらえない。

 だから、フィリップと婚約してから、王宮で出される豪華な食事やお菓子は、夢みたいな時間を与えてくれたのだが、優しかったのは、婚約当初だけで、その後は、とっかえひっかえ女遊びを楽しんでいらっしゃったみたい。

 それがセレンティーヌ様と出会われてからはというもの、ただの浮気と済まされないぐらいフィリップ殿下は、セレンティーヌ様に本気になっていかれることが、よくわかった。

 セレンティーヌ様は、じぇふぁにーを邪魔者扱いして、会うたびに「ポンコツ」「何もしていない聖女」ということを言い散らかさられる。

 次第に、罵詈雑言はフィリップ殿下にまで伝染し、二人して罵られると、ジェニファーは頭痛がしてくる。

 だから、婚約破棄も国外追放も黙って受け入れたのだ。

 これでやっと、頭痛から解放され、久しぶりに朝までぐっすり眠れたことが嬉しくて、しょうがない。

 だから、乞われれば、アンドロメダにいつまでもいたい気分だが、まずはやるべきことをやってから、滞在期間を考えることにする。
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