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40新王都

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 翌日になり、アンダルシア国は、正式にマギーランド国となる。

 バーモンドとオリビアの躯を埋葬していた時、司祭様よりお声がかかり、昨日の戦についてのあらましを話したら、アンダルシアに対し激怒されて、急遽、国教会が新たな王として、マーガレットを指名してきたのだ。

 王都は今までの辺境領に移されることとなり、今までの親アンダルシア派が旧王都にて、巻き返しの好機を狙っているという噂で混乱している。

 しかし、ほぼ焼け野原となった旧王都から、先に新王都に入ったものからの連絡によれば、新王都は、以前の王都よりはるかに文明が発達していて、とても太刀打ちができないと知らされる。

 「そんなバカな!バーモンドより、新領地を賜ってから、まだ数年でそこまで発達できるものなのか?」

 「百聞は一見に如かずと申しますから、一度、御覧になればよろしいかと?それに早くいかなければ、我が侯爵家のタウンハウスの置き場所がなくなってしまいます。」

 「な、なんだと!それで、他の貴族はこぞって移転していったのか?」

 さらに噂によれば、今までの貴族階級の見直しをしている。ということで、移民者であっても、平民であったとしても、働きに応じて、新しく貴族階級が与えられるというから、マギーランドドリームを夢見て、新王都に押しかける者が後を絶たないという。

 「出遅れた。早馬を飛ばして、はせ参じようではないか。女子供は、後から馬車でゆっくり行けばいい。」

 今迄の領地や身分を取り上げてしまわれるかもしれないと、焦って新王都を目指す。

 もう親アンダルシアなどと、誰も言わない。親アンダルシアと噂されただけで、家督をすべて召し上げされかねないから。

 この侯爵家、実はアンダルシア王の王妃殿下を輩出した名門スバルスだから、今までアンダルシア王妃の威光で、ずいぶんと甘い汁を吸って来たのだ。それがゼロになるばかりか、家督が没収となれば、たまったものではない。

 しかし、早馬はすでにほかの貴族が買われていて、手に入らない。仕方なく、馬車を切り離し、必死に駆け付けたものの、到着順位では最後となってしまった。

 「スバルスでございます。遅くなりましたが、女王陛下にお取次ぎを。」

 新王都の門番のところで大声を張り上げるも、移民や、平民からブーイングが起こる。

 「みんな並んでいるんだよ、アンダルシアの旧貴族様かなんだか知らないが、後ろへ並んでおくれ。」

 今までなら、「無礼者」と叫び、切り捨てれば済む話だったのが、そんなことをしたら、新政府からどんなお咎めがあるかわからない。

 それに新王都の塀は、やたら高い塀が張り巡らされていて、外の喧騒が聞こえないような造りになっている。

 だから、スバルスを非難する声がいくら大きくても、それを擁護してくれる人間はいない。

 と思っていたら、マリンストーン公爵が文のところから、顔を出して覗いてくれたのだ。

 「誰かと思えば、スバルス殿ではないか?」

 「遅くなりました。女王陛下の御目通りは、難しいでしょうか?」

 「うむ。娘は忙しいからな。国教会により、ここが新王都となってからは、婚家との兼ね合いもあり、べったり、こちらにはおらんのだよ。だから倅のロバートが新王都の留守居役になっておってな。でも倅も忙しいから、旧貴族の面会は順番待ちと言うところだ。」

 「なんと!女王陛下はすでにご結婚されておるのか?それはめでたい。おめでとうございます。」

 相手は誰だ?と詮索したいところだが、藪蛇になるかもしれないので、黙っている。

 「まぁ、こんなところで立ち話もなんだから、今夜の宿へ案内しよう。あいにくどこも満杯でな、供の者と相部屋でも構わぬか?」

 「それはもちろんのことだ。」

 相部屋……来る途中の宿場でさんざん言われてきたから、もう慣れた。

 それにしても、この人気はなんだ?いくら新王都になったからと言って、ここまで人が集中するとは?

 馬駐に馬を繋ぎ、スカイマリーンの後からついていく。

 平屋のこぢんまりとした建物の中へ案内される。そこの貴賓室と書かれたドアを入ると、中は変わったカフェになっていたのだ。

 「ようこそ、マギーランド国新王都へ。ここにあるものは、すべて無料だから、好きな席に座り、好きに食っていいぞ。セルフサービスと言って、娘が考案したものだ。辺境領であった時から、娘は自分のことは自分でするというコンセプトだったからな。こんなことぐらいで使用人の手を煩わせたくないという思いから、こういうサービスを思いついたらしいよ。」

 それでもマリンストーンは、高価な磁器でお茶だけは淹れてくれ、スバルスの前に置く。

 「まぁ、ここで休憩したら、宿へ案内するよ。儂はここのサンドイッチの贔屓でな。うまいぞ、これは。」

 そう言いながら、食品棚から無造作にサンドイッチを取り、1個をスバルスへ投げてくる。

 慌てて受け取り、一口かじると今まで食べたことがないほど肉が柔らかくジューシーだった。

 マリンストーンは今まで公爵で、自分よりも高位貴族だから、高位貴族からの申し出には従わなければならなかったので、毒見などできるものではない。

 「確かに、こんなうまいもの食ったことがない。」

 「だろ?ここへ来た奴は皆、必ずそう言うのだ。でも、美味いものはこれだけではないぜ。これから面白いもの、楽しいもの、早いもの、便利なモノがいっぱいなんだぜ。まぁ、楽しんでくれたまえ。」

 「?」

 サンドイッチを食べ終わり、紅茶を飲み干した頃を見計らって、マリンストーンは席を立つ。

 「では、そろそろ参ろうか?」

 馬車で移動するのか?と思っていたら、小さな狭い箱の中へ入らされる。

 「これはエレベーターという乗り物で、これから地下へ向かう。」

 着いた空間は、地下とは思えないぐらい明るい。王城にも地下室はあったが、暗くジメジメした牢があり、なんとなく居心地が悪かったものだ。

 壁面には、色とりどりのタイル?が貼られていて、モザイク壁画のようになっている。

 「これからあの地下鉄に乗り、領主の館前駅で降りる。まだ、王城はできていないのだ。いろいろ忙しくてな。王城の建設予定地は、別のところなのだが……。まぁ、とにかく今夜はゆっくりしてくれ。」

 言われた通り、金属でできたモグラ?の中へ乗り込む。その中は貸し切りにしたと公爵が言っていただけで、誰も乗ってこなかった。

 途中何度もいくつかの駅?で停まるが、扉が開くことはなく、誰も乗ってこないがらんとした車両は、変わることがなかった。

 ほどなくして、「領主の館前」に到着する。

 それから、またあの小さな箱に乗り、着いたところは、カフェの店内のようなところ。

 ここでお茶を飲むこともなく、また狭い箱に乗せられる。ちょっと耳が痛くなるようなキーンとした音が耳の奥で響くと、次に扉が開いたときは、黒いスーツに蝶ネクタイをした男が頭を下げていた。

 「わたくしが、当ホテルの支配人でクリントンと申します。お部屋へご案内いたしますから、どうぞ、こちらへ。それと当ホテル内の備品は少々説明を要すものでして、お部屋にお着き次第、ご説明させていただきます。」

 「では、クリントン、後のことはよろしく頼む。」

 マリンストーン公爵は、後ろ手を振りながら、出ていかれた。

 相部屋だと聞いていた割には、供の部屋が別にあり、広い空間が広がっている。今までの宿場とは、違う。

 バストイレ、洗面所、テレビ、冷蔵庫、ビデオデッキ、エアコン、内線電話と初めて見る機器もあり、何がなんだかよくわからないが、クリントンは丁寧に説明してくれる。

 「アメニティグッズ」という無料の石鹸やリンスインシャンプー、歯磨き、髭剃りは人数分の用意がある。

 護衛の騎士は、使わずに家族へお土産にしようと考えているようだった。

 「御用がありましたら、内線1番へお電話ください。お食事は、この上21階のスカイレストランをご用意しております。」
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