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そして誰もいなくなった

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 「公爵令嬢ビビアン・バッファロー、貴様とは、今をもって婚約を破棄する。」

 学園の昼下がり、カフェで寛いでいたところ、突然、アシュリー・ブランド王太子殿下から宣言された。そばには、ふわふわピンクブロンドの男爵令嬢リリアーヌの姿がある。

 「一体、なんの騒ぎでございましょうか?」

 「貴様と婚約破棄すると申しておるのだが。」

 「わたくしの婚約者は別の方でございますわよ。何を寝ぼけたことを仰っておられますの?」

 「へ?」

 「ビビアンが婚約者でなければ、誰が婚約者だと言うのだ?」

 「そんなこと存じ上げませんわ。それより、婚約者ではない方から呼び捨てにされる覚えはございませんわ。以後、お控えくださいませ。」

 「ああ、すまなかったな。」

 すごすごとアシュリー殿下は、カフェを後にされた。
 残ったカフェの中では、アシュリーの噂でもちきりになっている。

 「もう今週で3回目ですわよ。」
 「ご自分の婚約者が誰かもわからないなんてね。」
 「上位貴族の令嬢は軒並み間違われて、お気の毒ですわ。」

 「あら、この前の王宮のパーティでは子爵家夫人にまで、婚約破棄するって宣言されていましたわよ。」

 「間違えるにしても、程がありますわよね。」

 「でも子爵家夫人、若い娘と間違わられて、ずいぶんお喜びでしたものね。」

 「福利厚生としては、いいのかもしれませんわね。」

 「リリアーヌ様も何がよろしくて、アシュレー様と引っ付いていらっしゃるのかしら。」

 「平民暮らしよりもいいと思っていらっしゃるのではないかしらね。」

 「あら、そういえば、この前リリアーヌ様のお兄様という方にお会いしましたのよ。少しコワイ職業の方みたいだったけど、校舎の陰でリリアーヌ様と揉めてらっしゃったみたい。」

 「お兄さんではなくて、恋人だったりして?」

 「あるかも?あまり似ていらっしゃらなかったから。」

 カフェできゃっ、きゃっうふふと話は続く。

 アシュレー王太子は、というと今日も婚約者殿に会えなかったことに落ち込んでいた。いったいいつになったら婚約破棄できるものやら。
 ひょっとして、俺の婚約者殿は、俺と婚約破棄されるのがイヤで逃げ惑っているのだろうか?それなら、側妃として、可愛がってやろうじゃないか。

 しかし、婚約者は一向に現れない。業を煮やした王太子は、母のところへ行き、婚約者殿のことを聞き出す。すると、今は隣国へ留学に行っているそうな。あーそれで、学園には居なかったわけだ。

 そうこうしているうちに、リリアーヌが孕んだ。
 リリアーヌとは、そういう関係だったが、避妊薬を飲ませているのになぜだ?と調べさせたら、俺以外にも男がいた。兄と称する男が学園に入り込んで、リリアーヌを犯していた。

 施設の防犯映像を見て、愕然とした。リリアーヌは退学していった。アシュリーは、遊びの女と妻になる女は違うことを学んだ。いくら愛想よく腰を振ったからと言って、俺に気があるわけではない。

 アシュリーは、留学先から婚約者が帰ってくるのを待ち望んでいた。そんな時、花売り娘だったルルアンヌが編入してきた。母親が男爵に見初められ、結婚した連れ子だった。天真爛漫な性格で楽しい時は大口を開けて笑い、悲しい時は涙をポロポロ流す娘だった。

 あっという間に男子学生たちのマドンナになったが、アシュリーだけはリリアーヌに懲りていて、手出しをしないまま、ルルアンヌも退学した。やはりどこの子供かわからない男とできていたのだ。

 もう、この学園は、淫売しかいないのかと思えるほど乱れていたのだ。

 やがて、婚約者が留学先から帰ってくる時期が来たが、いっこうに婚約者は戻ってこない。
 留学先の皇太子殿下からプロポーズされて、そのまま、かの国に残り結婚するそうだ。

 そしてアシュリーの前からは、誰もいなくなった。
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