白と白と

風城国子智

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蕎麦の花は今も白く

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 車窓の向こうに揺れる白い花に、口の端が歪む。
 この場所も、悪くはない。白に染まることは稀な山々に視線を移すと、心を吹き抜ける風は消えた。富士山は見えないが、蕎麦の花はある。
 紆余曲折の末、田舎の大学に常勤の職を得たのは、あの研究所の任期が切れた三年後のこと。今は、任期の定めが無い職場で、忙しさに追われている。
 研究分野が少し異なっている所為だろう、『東京』を去ってから、槙野にも遠藤にも、逢っていない。槙野に蕎麦を奢る約束は、反故にしてしまった。
 諦めにも似た感情が、心に小さな穴を開ける。
 だが、手元で踊るスマートフォン画面の文字に視線を落とすと、その感情は、小さくなって消えた。

 ……十年以上前の感情を引き摺るには、今は少し、忙しない。
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