フィックスド辺境伯家の秘密(元夫の隠し子は、私が立派に育ててみせます‼︎)

星 佑紀

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とある暴走族のリーダー、就職する‼︎

0004:喜びと不穏な空気

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【side ノア・フィックスド(就職したヤンキー)】


 ──ノアのアルバイト先が決まって六日目の午前中。──

 ──ここは、フィックスド辺境伯領一の郵便局裏側。──


「先輩、こんな感じで良いですか?(住所振り分け用機械に通した後のハガキを、教育係に見せる真摯なノア)」

「……そうですわね。いいでしょう。(とある女性)」

 皆さんこんにちは、ノア・フィックスドです。俺は今、パトリック殿下の紹介で、とある郵便局のアルバイターをしている。

「それではこれを、目視で再確認しつつ、各住所の棚へ振り分けていきましょう。(的確に指示を出すとある女性)」

「はい‼︎(素直にとある女性の指示に従うノア)」

 俺は、目の前にいる先輩から、ここでのノウハウを教えてもらっている。……本当は、先輩のお名前を聞きたいのだが、初対面での挨拶で遠回しに駄目だと言われてしまった。



【回想 始】

『こんにちは、はじめまして。これから一緒にお仕事をします。よろしく。(仕事に燃えたぎっている、とある女性)』

『よろしくお願い致します! 俺の名は……。』

『(ノアの言葉を遮って)大丈夫! ……ここでは、名乗らなくてもよろしいのですのよ‼︎(両手に持ったハガキをシャッフルしてパフォーマンスを始める、とある女性)』

『えっ……?(言わなくていいの⁉︎ 戸惑うノア)』

『本来、短期アルバイターというものは、身柄を隠してコソコソする人の為のものですわ。……特に、お外で働いてはいけない貴族様たちのね。……したがって、お互いに本名とは違った名前で呼び合いましょう‼︎(シャッフルしたハガキの中から一枚を取り出してノアに渡す、とある女性)』

『そそそうですね……。(図星だ。 ショックを受けながら、とある女性からハガキをもらう貴族ノア)』

『ふふふ。……ということで、今日からあなたのお名前は、さんですわよ‼︎(ノアにウインクする女性)』

『……ペン、ですか⁉︎(なななんでー⁉︎ 困惑ノア)』

『何故ならば、ペンさんのお洋服の背中側に、ペンギンさんのワッペンが縫われていらっしゃるからです‼︎(嬉しそうな、とある女性)』

『……。(そういえば、特攻服の穴が空いたときに、セバスチャンがペンギンさんのワッペンを縫い付けてたな。 何故だか恥ずかしくなって赤面するノア)』

『改めましてペンさん、……これからよろしくお願い致します。(笑顔の眩しい、とある女性)』

『よろしくお願い致します、‼︎(赤面ノア)』


【回想 終】



 ……先輩は、はじめての出逢いから、とても眩しくて、美しくて、俺にとっての女神だった。……一目惚れというか、なんというか、……とにかく先輩を見るだけで、胸が高鳴り、ドキドキする。……はじめての恋なんだ。

「ペンさん、次は私が機械に通してきますので、ペンさんは、仕分けをお願いしますわ。(的確な指示を出す先輩)」

「はい! 任せてください‼︎(張り切るノア)」

 俺が恋をするだなんて思いもよらなかった。仲間に報告したら、みんな驚くかな。……でも、この気持ちに嘘はつけない。先輩は、明日をもってこの職場から離れるみたいだから、今日こそ、……今日こそは、ご飯のお誘いをしたい。

「先輩、あの…………。」

「(ノアの言葉を遮って)ノア君! お友達が来てくれたみたいだよ‼︎(ノアに抱きつく小太り局長)」

「局長さん⁉︎(ええええっ⁉︎ 邪魔をされたノア)」

「休憩室に案内してるから、会いに行ってあげて‼︎」

「……はい‼︎(グッと気持ちを抑えるノア)」

「もうすぐお昼休みだから、そのままご飯食べてもいいからね‼︎(優しい局長)」

「わかりました! ありがとうございます!(ノア)」

 ──局長は、奥へトコトコ戻っていった。──

「先輩、あの……。」

「大丈夫ですわ。ペンさんはご友人方と面会なされて、そのままお昼休憩に入ってくださいな。(手を止めて、ノアに微笑みかける先輩)」

「ちが、…………あの、……今日、仕事が終わったら、一緒にお食事をしてくれませんか?(内心ドギマギなノア)」

「…………お食事ですか?(きょとんな先輩)」

「はい。……俺、先輩から色々教えてもらったんで、最後にお礼をしたいんです‼︎(必死なノア)」

「……そうですわね。明日で最後になりますから、今日くらい、羽目を外したっていいかもしれませんね。(先輩)」

「────っ‼︎ お店は俺が予約してるんで、任せてください‼︎ では、ちょっと抜けます! お願いします!(ペコリと頭を下げて休憩室に走る赤面ノア)」

「…………ふふふ。……今晩は楽しみですわ。(先輩)」

 走りながら、身体中がアツいことに気づいた。……やっと、言えた。ギリギリだったが、ちゃんと先輩にお誘いできた。それだけがとても嬉しい。…………恋というものは、なんて切なくて、心躍るものなのだろう。

 ……俺はこのとき、かなり浮かれていた。……仕事の楽しさ、先輩との運命の出逢い、理解ある局長さんとのお話、……どれもが、俺にとって都合の良いものであり、キラキラと輝いていた。


 ◇  ◇  ◇


 ──ここは、郵便局裏側の休憩室。──

 ガチャっ(ノアが扉を開く音)

「「アニキっ‼︎(立ち上がる二人)」」

「おう、ハリーとヘンリー、元気にしてたか?(ノア)」

「はい! 各々おのおのの仕事場で頑張ってます‼︎(ハリー)」

「アニキも元気そうですね‼︎(ヘンリー)」

 ──ちなみに、ハリーとヘンリーは双子である。──

「そうだな。……職場の上司や先輩方からよくしてもらっているから楽しいよ。(アニキ顔のノア)」

「それはよかったです。……アニキ、……ちょっと確かめたいことがあるのですが、いいですか?(ハリー)」

「…………いいけど、どうした?(嫌な予感なノア)」

「実は、……ハリーが、仕事場に入った日に、忘れ物を取りに一度キャンプ場に戻ったんですが、……見てしまったんです。(神妙な表情のヘンリー)」

「……何を?(冷や汗が背中をつたうノア)」

「パトリック殿下を引きずって、フィックスド辺境伯家のお屋敷の中へ入っていく副長モヒカンの姿を……。(神妙なハリー)」

「────っ⁉︎(驚きに目を見開くノア)」

「アニキは副長のことを知ってましたよね? 知ってて副長のことを放置してたんですよね?(確信に迫るヘンリー)」

「………………。(無言を貫くノア)」

 ハリーとヘンリーから強い眼差しを向けられた俺には、副長モヒカンもとい、キースを庇う言葉を出せなかった。

「………………アニキ。(ヘンリー)」

「……パトリック殿下の身が危険です。(ハリー)」

「………………。(…………ここまでか。 ノア)」


 ……俺は、大馬鹿野郎だ。


 ──ノアが知っている、副長キースの秘密とは⁉︎──
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