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Ⅲ キャノーラ国

4 美少女横丁

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余程恐ろしかったらしい。
直ぐに”聖女横丁”は”美少女横丁”に改名され、通りの看板の女性達の胸が少し盛られた。
マリアはボリュームたっぷりの少女の絵も嫌だったらしい。

闇ギルドの幹部達が挨拶に飛んで来て、昨日の紹介所の親父も慌てて飛んで来た。
別の物件を紹介すると言われたが、遮音性の高いこの場所は凄く気に入っているので断った。

取り敢えず皇宮へ挨拶に行く事にしたのだが、ばらばらと周囲の店から男達が走り出て来て見送ってくれた。

「姐さん、ご苦労様です」

俺達の住み付いて店は都の中心地区の外れにあった。
昨日の夜は気が付かなかったが、見上げると皇城の尖塔が直ぐ側に聳え立っている。
裸の女性の看板の店は、通りを出ても延々と続いており、尖塔を借景に使った看板まであって、結構面白かった。

尖塔を目印に歩いて行くと、皇城風接待と大書され、媚を売る半裸のメイド服姿の女性の看板が並んでいる通りに出た。
通りには皇城裏門通りとの看板が掲げてあり、文字通り、真正面には皇城へ渡る橋が伸びていた。
橋の手前に検問があり、橋を渡ろうとする人達のチェックを行っていた。

「こら、お前達何の用だ」

怪しげな通りから出て来た俺達は、直ぐに咎められてしまった。

「竜討伐の祝宴の打ち合わせに来ました。俺達勇者と聖女です」
「面白く無い冗談だな。中庭に飾る子犬像の納品だな、庭師の爺さんが待ち兼ねていたぞ。倉庫は門を入って左を真っ直ぐだ。通って良し」

正門へ回る積りだったのだが、取り敢えず中に入ってから考えることにした。

裏門の守備兵に声を掛ける。

「あのー、俺達勇者と聖女なんですが」
「門を入って直ぐ左だ、爺さんが待ってたぞ」

うー、信じて貰えない。
仕方が無いから、門を入って左に向かう。

「おー、間に合ったか、良かった、良かった。注文通り十体だな。祝宴は今夜じゃ、忙しいからお前等も手伝え」

うわー、今夜何て聞いて無い、着る物もまだ用意してない。

「ほれ、早くこっちへ来い」

ワンコ達は、俺達が昨晩頑張り過ぎたんで良く寝ている、うん、眠り犬状態だ。
これも成り行きだ、眠っているワンコ達を庭師の指示に従って並べて行く。

「おし、次は鉢植えの搬入だ付いて来い」
「ケネスさん」

メイド服姿の女性が庭師に声を掛けて来た。

「なんじゃ、今は忙しいんじゃぞ」
「この子貸してくれる、給仕係の子達が食当りを起こしたの」
「そりゃ難儀じゃな。力仕事じゃから男が居れば足りるから、連れて行ってくれ」
「ありがとね、さっ、いらっしゃい。その男の子も後で貰いに来るわ」

マリアが連れ去られてしまった。

「こら、お前もグズグズするな」

重い植木鉢を持って走り回らせられた。
配置が決まって一息吐いていたら、先程の女性が迎えにきた。

「さあ急いで、着替えたら振付の練習をするわよ」

水色の背中に孔雀の羽の様な飾りが付いた服に着替えさせられ、練武場の様な場所に連れて行かれて振付を覚えさせられた。
俺の着ている服を勇者服と呼んでおり、来客の前で竜退治を模した踊りを披露する趣向らしい。

マリアも練武場で踊りの練習をしていた、背中に孔雀の羽の様な飾りを付けた金色の服を着ており、たぶんあれは聖女服なのだろう。
少し見ない間に、なんかマリアがやつれた様な気がする。

「あなた身軽そうだから、主役をやらせてあげるわ。最後に竜の張りボテに乗って首の後ろのスイッチにこの木剣差し入れるのよ。竜が爆発する仕掛けだから直ぐに逃げなさい」

なんかしらっと、とんでもない事を言っている。

「さー、本番よ。準備して」

抗議しようと思ったら、さっさと行ってしまった。

勇者役十五人、聖女役十五人が隊列を組んで祝宴会場の大広間に入場する。
会場がなんかざわめいている様に感じるのは、俺達の為に用意された席が空席になっている所為だろう。

会場中央に置かれた竜の張りボテの回りを、必死に振付を思い出しながら踊る。
本来六十人で踊る予定の振付を、三十人で竜を囲んでいるので踊っているので忙しい。
殆ど走り回っている様な感じだ。
客は、スピード感が有る踊りに喜んでいるが、踊っている方は息が切れそうだ。

長い、長い踊りが終わった。
五キロくらい走った様な気がする。
よたよたと竜の張りボテによじ登り、首の後ろの穴に木刀を差し入れる。

”カチッ”

俺は必死に逃げ出した。

”バン”

竜の張りボテが弾けて、会場一杯に紙吹雪が舞う。
客は喜んでいるが、これは相当な火力で本当に命懸けだ。
爆風に押されて、俺は会場の中を転げた。

注目されているのが判ったので、多少身体が痛かったが平然とした顔で立ち上がる。
立ち上がって、すました顔で周囲を見回すと、目の前で皇帝が唖然とした顔で座っている。
ばれた様だ、恭しく皇帝に向かって礼をして取り繕い、マリアを手招きする。
ちょこちょことマリア走り寄り、改めて並んで皇帝に礼をする。

皇帝は暫く固まっていたが、はっとして我に返る。

「うむ、面白い余興であった」

再び二人で頭を下げ、俺達の為に用意された席にすまし顔で向かう。
椅子に座ると、背中の孔雀の羽の様な飾りがカサカサ音を立てて煩かった。
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