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30、アレンさんとウサギ

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 アレンさんは執事のロートンさんの案内で、屋敷の中や周囲の状況を確認することになったみたい。
 そう言えば、このお屋敷の細かい部分って私も把握してない。
 ゲームで出てくるような部屋は知ってるんだけどね。

 ちょっと興味があったので、一緒について行ってもいいか頼んでみる。
 ロートンさんは首を傾げていたけどOKしてくれた。
 そしたら、レアン君がウサギを抱えて少し重いのかチョコチョコとついて来る。
 ……可愛すぎるんですけど。
 どうしてレアン君はいつも私のツボをとらえてくるのだろう。
 メルファが私にそっと耳打ちする。

「レアン様のお気持ち分かります。今までも本当はシャルロッテ様に遊んで頂きたくて、お気に入りのティーカップを触ってみたり、内緒でお部屋に入ってあの子を捕まえたりされていたんだと思います」

 ……そうだよね、お姉ちゃんに遊んでほしかっただけなんだよね、きっと。
 もし全く興味が無くて本当に嫌ってたなら、私の物をわざわざ触ったりしないもの。
 今ならまだ間に合うよきっと。
 
「お姉様は僕のことは嫌いなんだって、しょんぼりされていたことが御座いますから。あっ……私余計なことを……」

 私はメルファに微笑んだ。

「いいんだよメルファ。ありがとう教えてくれて」

 私はレアン君の方を向いて、頭を下げた。
 そして、キュッと抱きしめる。
 一瞬レアン君の体が固くなるのを感じたけど、腕に抱えたウサギと一緒に抱きしめる。

「ど、どうしたんですかお姉様……」

「ううん、何でもない。レアンがその子を大事に守ってくれるのがお姉様嬉しくて。ごめんね、もうレアンのこと絶対叩いたりしないから、約束する」

 レアン君付きの侍女、エリンが少し驚いたような顔をしてメルファを見ている。
 メルファは嬉しそうに笑っていた。
 私は立ち上がるとレアン君が私にウサギを渡してくれた、そしてそのままアレンさん達と屋敷の中の散策を続ける。

 いざとなった時の為に、私の部屋や家族の部屋の場所を細かく把握しておきたいみたい。
 私も公爵家の大きな厨房や、沢山の客室そして家に住み込みで働いているみんなの為の部屋を見て回った。
 我が家ながら大きなお屋敷だよ。

 レアン君が私のスカートをキュッと握っているのが可愛い。
 私はウサギを抱えながらアレンさんを見上げた。
 時々この子を気にしているアレンさんを見て、私は思わずクスクスと笑った。

「フュリーマ様、触ってごらんになりますか?」

 アレンさんの精悍な顔に、動揺の色が浮かぶのが見て取れる。
 部下の人達には隠してるつもりなんだよねアレンさん。
 でもアレンさんの動物好きは、周りの人はみんな知ってる。
 エトスさんとジルレットさんが、コホンと咳ばらいをして私に言った。

「シャルロッテ様、可愛いウサギで御座いますな」

「そうで御座いますね。私も少し触らせて頂いても宜しいでしょうか?」

 エトスさんは栗毛で逞しくて、いかにも剣士っていう感じの人。
 ジルレットさんは髪はグリーンで、細身だけど剣や弓の名手。
 二人ともアレンさんを尊敬している。
 エトスさんと、ジルレットさんがウサギの頭を撫でると、ヒクヒクと鼻を動かしながらウサギが顔を寄せる。

「可愛いものですなウサギとは。アレン様もいかがです? 馬とはまた違った毛並みでいいものですよ」

 毛並みを馬と比べるのが職業柄が出ていて、少し可笑しい。
 アレンさんが触りやすいように気を使ってあげる二人。
 
「そ、そうか? ……それでは。失礼いたしますシャルロッテ様」

 やっぱり少し咳ばらいをしながら、アレンさんもこの子に手を伸ばす。
 大きな体を少し前かがみにして優しくウサギを撫でるアレンさんを見て、メルファとエリンがキャイキャイ言っている。

 ウサギを撫でているその瞳は、とても穏やかだ。
 メルファやエリンがすぐファンになりそう。
 アレンさんは言ってみれば、ギャップ系男子だよね。


 家の中を見て回って今度は外に出ると、お父様が屋敷の護衛として雇っている人達がアレンさんの噂を聞きつけて側に集まってくる。
 王国の聖騎士様で剣の達人のアレンさんは、護衛の人から見ると憧れの存在のようだ。
 赤毛と頬の傷がトレードマークだからどこに行っても目立つよね。

「光栄で御座います。王国の聖騎士でいらっしゃるフュリーマ様がいらっしゃるとは」

「どうか宜しくご指導下さいませ」

 王都は治安がいいから護衛を雇ってない貴族もいるんだけど、お父様は手広く商売をしているからそうもいかないみたい。
 ゲームではそんな説明があった気がする。
 あの狸には商売敵とかいそうだもんね。
 そんなことを考えていたら、屋敷に向かって馬車が走ってくるのが見えた。

「旦那様がお帰りのようですな。皆さま参りましょう」

 私は頷いた。
 今日のお父様は結構素敵だったものね。
 きちんとお出迎えぐらいしないと。
 それにアレンさん達のことも説明しないといけないだろう。

 馬車が止まるとお父様が降りてくる。
 お父様の護衛の為に一緒に出掛けていた人達も、アレンさんに気が付いてお辞儀をした。

「おお! シャルロッテ、わざわざ出迎えてくれたとは。ん? レアンどうした? そんなに姉上に甘えておっては立派な男になれんぞ」
 
 この狸……余計な事を言わないで!
 ほら、せっかくドレスのスカートを握っていた私の天使の手が離れていく。

「あ、甘えてなんかいません!」

 そう言って頬を膨らませるレアン君を見て、メルファとエリンがほわっとなっている。
 勿論私もね。
 そしてお父様は、アレンさん達に気が付いたようで三人に歩み寄る。
 アレンさん達は膝をついて一礼する。

「ドルルエ公爵様。アドニス殿下の命により我ら三人、公爵家の護衛につくこととあいなりました」

「なんですと! 殿下が。ありがたいことだ、王国の聖騎士殿を護衛につけて下さるとは。ロートン! フュリーマ殿達の為に部屋や必要なものを用意せよ。大切な客人として丁重にもてなすように」

 お父様の言葉にロートンさんは、お辞儀をすると屋敷に入っていく。
 多分メイドの子達にアレンさん達の部屋を用意させるんだと思う。
 そしてお父様は私に満面の笑みで言った。

「シャルロッテ。公社のシンボルを描いてくれる画家が見つかったぞ。明日の午後には家にやって来るだろう」

 そう言えばそんなことお父様言ってたよね。
 私をモデルにするって……。
 ちょっと不安になる。

 でもなんだか楽しみだよ、自分の絵を描いてもらうなんて初めてだし。
 どんな人が来るんだろう?
 私はそんなことを考えながらみんなと一緒に屋敷に入っていった。
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