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我慢なんてできない二人 ※
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プロポーズまがいのことをしてしまったものの、可愛らしいデート作戦は功を奏して、その後のルドガーは順調にヴィルヘルミーナとのデートを繰り返していた。
庭園デートや互いの家のティールームでのお茶会、最初のデートに失敗した街の散策デートも、今度は適度にヴィルヘルミーナを休ませながら成功を納めた。実に順調に距離を詰められている。近頃は別れ際に口づけを交わすのが約束事になった。
メイドが傍にいることもあり、全くのふたりきりのデートはあまりないが、それでもルドガーは構わなかった。
相変わらず元彼女からは手紙が来ていたが、一度きっぱり断りの手紙を送った後は、全て送り返している。そのことだけが気がかりではあったが、ヴィルヘルミーナはいつ会っても可愛いし、おかげでやる気が出て仕事は順調だしで、この時のルドガーは無敵だった。
そうしてルドガーを更に有頂天にする出来事が起きたのは、ルドガーがヴィルヘルミーナの家に遊びに行った日のことである。
いつもならティールームに通されるところだが、その日案内されたのはなぜかヴィルヘルミーナの部屋だった。高位の貴族であれば普通は居室と寝室を分けるものだが、子爵家であるシュルツ家は贅沢を好まない上、ヴィルヘルミーナは執務室を必要とするような跡継ぎでもない。だから、居室を別に設けない代わりにかなり広い寝室にデスクやちょっとしたお茶をするために小さな猫足テーブルや、ソファセットなどもある。
ごくごく親しい同性の友人ならば、自室に案内されることも珍しくはないし、そもそも先日だって寝室に見舞いに来ていたうえ、二人は婚約者同士なのだから全く問題ない。そのはずなのだが。
(……どういうつもりだ?)
交際は順調で、見舞いに行った夏から季節は秋にさしかかりつつある。とはいえまだまだ気温は高く、薄着が心地良い。そのためなのか、今日のヴィルヘルミーナは珍しくも、コルセットのないゆったりとしたサマードレスを着ていた。シフォン生地を重ねて作られた半袖タイプのドレスである。これはいわゆる室内着で、通常は客を迎えるような服ではない。
繰り返しになるが、ルドガーとヴィルヘルミーナは婚約者同士だ。だから、室内着でも問題はない。だがしかし。
(胸元がゆるすぎないか?)
今は猫足のミニテーブルで向かい合わせに座ってボードゲームをしているが、先ほどからヴィルヘルミーナが駒を動かすために前かがみになる度に、胸元の生地がたわんで隙間ができ、彼女の乳房が見えそうになる。むしろ谷間は見えているくらいだ。
普段は首元も腕も覆われたドレスばかり着ているから、彼女の真っ白なデコルテと腕が覗いているだけで刺激が強いのに、揉み心地の良さそうな胸元を見せつけられては、下半身に血が集中しないようにするので手一杯だ。
「ルドガー様の番ですよ?」
「あ、ああ……」
駒に手を伸ばしかけて、盤面がもはやルドガーの圧倒的な負けになっていることに気付く。
「……俺の負けだ」
溜め息を吐いたルドガーに対して、ヴィルヘルミーナは心配そうな顔つきになった。
「ルドガー様、お疲れなのでは……?」
彼女の心配はもっともだ。こんな風にして既に負けるのが三度目である。
「少しあちらのソファでお茶にしませんか?」
「そうだな」
頷いたルドガーは、谷間から目を逸らすため、ソファに移動して座った。当然向かい合わせに座るだろうと思ったヴィルヘルミーナは、そっとルドガーの隣に座った。
「ヴィルヘルミーナ!?」
思わず動揺で愛称をつい忘れたルドガーは、隣のヴィルヘルミーナを見た瞬間に彼女の谷間がすぐ近くにあることに気付いて、ぎょっとする。向かい合わせで座っていたときよりよほど胸が見える。
「ルドガー様……」
甘やかな声と共に、ヴィルヘルミーナの腕がゆっくりとルドガーに絡みつく。エスコートで慣れた腕組みではあるが、それよりも更に身体を密着させたヴィルヘルミーナは、おずおずとルドガーを上目遣いで見上げる。
「……いや、ですか?」
いやな訳がない。
むにゅう、と押し付けられ、腕の圧で寄せられた胸元は更に谷間を強調している。わずかに開いた唇から緊張で漏れる吐息、そして煽情的な上目遣い。全てが彼女からのお誘いを示しているようにしか思えない。
こんな全身全てが可愛い婚約者のことが、いやであるはずがないのだ。
(押し倒したい)
ズボンを押し上げる熱を感じたものの、ルドガーは奥歯をぐっと噛んで、苦笑を浮かべた。
「少し、困るな……」
「……っ」
彼の返事に、ヴィルヘルミーナは震えて、きゅ、と口を結ぶと俯いた。
「……そう、ですか。すみません」
「お前が可愛すぎて、困る」
そっと外されかけた腕を捕まえて、ルドガーはヴィルヘルミーナの身体を引き寄せた。
「こういうことを言うのは情けないが……正直さっきからお前を抱きたくて仕方ない」
「本当ですか……?」
ぱっと顔をあげたヴィルヘルミーナの唇に、軽く口づけて、深く吸いかけたのをかろうじてルドガーは我慢した。
「ああ」
至近距離のヴィルヘルミーナの驚いている表情は、やがて満足そうな笑みになった。
「……では、ルドガー様をその気にさせるというわたくしの作戦は成功ですわね」
「うん?」
怪訝そうなルドガーに、ヴィルヘルミーナは口を尖らせる。
「だ、だってルドガー様……口づけしかされないから……わたくしのこと、飽きたのかな、って……わたくしも努力が必要なのかな、と思って……」
「待て、俺をわざと誘惑していたということか?」
「そっ」
かっと赤くなったヴィルヘルミーナは大きな声を上げそうになって、しゅんと萎む。
「そういう破廉恥な言い方はやめてください……」
大胆な服を着ていたのも、今日に限って寝室に招いているのも、全て、そういうことだ。
ルドガーは大きな溜め息を吐いて、もう一度唇を重ねた。
(この部屋に入ってからの俺の努力は一体なんだったんだ)
「んん……」
舌をさしこめば、くぐもった吐息が更にルドガーを煽る。
「……俺はミーナと順を追って、付き合いたいと思っている。その、手を出しておいてなんだが。俺はお前をよく知っているが、ミーナは俺のことを知らないだろう。だから、互いによく知るまで我慢しよう……と思ってたんだがな」
唇を離してから、こつ、と額を合わせると、すかさずヴィルヘルミーナの方から唇を重ねられた。
「お互いのことはもう充分に知っていると思います」
「そうか?」
「そう、です」
ルドガーの懐疑的な顔に、ヴィルヘルミーナははっきりと肯定する。
『充分に知っている』
その言葉に違和感を覚えないわけでもなかったが、好意を示してくれているのは純粋に嬉しかった。
「それに……わたくしが、我慢できません」
ここまで言われて襲わないのは、もはや失礼だ。結局我慢なんかできないのは、二人ともだった。
「俺がお前をいやらしくしたのか?」
「なっん……っ」
苦笑しながら、ルドガーは再び唇を重ねる。彼女は文句を言おうとしていた割には、積極的に舌を絡めてきて、それが可愛かった。身体に手を触れないまま深い口づけを繰り返していると、次第にヴィルヘルミーナはつま先をもじもじと動かし始めた。彼女の身体の奥に熱が灯って、疼いているのだろう。
「ミーナ、膝に来てくれ」
「えっ」
戸惑いの声をあげた彼女に、わざとリップ音をたてて唇を落とす。
「もっと近くでお前に触りたい」
耳元で囁くと、顔を真っ赤にしたヴィルヘルミーナが頷いて、おずおずとソファを立ち上がる。しかし、ヴィルヘルミーナはどうしていいのか判らない様子で、ルドガーの前に立ってそわそわと視線をさまよわせた。
そんな彼女のふ、と笑って、ルドガーは太ももに手を添える。
「ル、ドガー様……」
ぴくんと震えはしたが、ルドガーが何をするのか、彼女は待っている。シフォン生地のスカートは薄い。手を添えられるとその熱がすぐにじんわりと伝わって、それだけでヴィルヘルミーナの心を昂らせるらしい。
ルドガーは彼女のスカートを両側からするするとたくしあげると、膝が見えるくらいまでのところで手をとめて、ヴィルヘルミーナに笑ってみせる。
「ほら、持ち上げておいてやるから、乗ってみろ」
「わ、わたくしが……」
「俺の膝をまたいで……そうだ」
ぎこちない動きで、片膝をソファに乗り上げたヴィルヘルミーナは、そこで止まって助けを求めるようにルドガーを見た。足を出されているだけでも恥ずかしいだろうに、これ以上は無理だとでも言わんばかりだ。もっとも、このいやらしい行為を求めてきたのは彼女である。
「しょうのないやつだな」
「きゃっ」
スカートをつかんでいた手を離したルドガーは、彼女の腰をぐっと引き寄せて、膝に座らせた。ルドガーをまたいだ形で対面に座った彼女のスカートは、股を割っているので足の付け根付近までたくしあげられ、ドロワーズまで丸見えだ。恥ずかしすぎる格好にヴィルヘルミーナの顔はもはやゆでだこである。
「これ以上のことをするのに大丈夫か?」
ぐぐっと彼女の腰を更に引き寄せ、下半身を押し付ける。既に熱を持って固くなったそこがヴィルヘルミーナのドロワーズに押し付けられ、彼女の割られた秘部は、くちゅ、と小さな音を立てた。
「あっ」
「なんだ、もう触って欲しくなってるのか」
言いながら首筋に唇を這わせる。
「そんな……言わないでください」
「可愛いからつい言いたくなる。少し待て」
「……っ」
ちゅ、と繰り返しリップ音をたてて、首筋から鎖骨にかけて柔肌を味わう。少し汗ばんだ肌はしょっぱいが、それすらも興奮を催す。
(痕をつけたくなるな……)
この白い肌に所有印をつけたら、それは鮮やかに赤く浮き上がることだろう。ルドガーの執着を見せつけて、誰も彼女に手出しできないのだとアピールしてやりたい。子どもの頃はちょっかいをかけてヴィルヘルミーナをいじめようとしてた男どもが、こぞって彼女に欲めいた目を向けているのをルドガーは知っている。もっとも、ヴィルヘルミーナはそんな男どもの目線など気にしていなさそうではあるのだが。
(……結婚してれば付けられるのにな)
婚約者同士が身体の関係を持つことは公然の秘密ではあるものの、やはり褒められたものではない。淑女は結婚初夜に乙女を捧げることが美徳とされるし、婚姻までに身体の関係を持つのならば結婚まではそれを隠し通すのが常だ。
痕をつけられない口惜しさをリップ音に変えて、繰り返し口づけを落とす。しかしまだ他の部分には触れないでいる。
「ん、ルドガー様……」
「どうした?」
ルドガーが口を離して目線を合わせてやると、彼女は泣きそうに目を潤ませて、押し付けるように腰を揺らしてきた。
「い、意地悪を、しないでください……」
秘部をこすられれば気持ちがいいことを、ヴィルヘルミーナはもう知っている。だから口づけを落とされて焦らされる度に、身体の奥が切なくなるのだろう。
「意地悪なんかじゃない。もっと、悦くするための準備だ」
「準備、ですか?」
「ああ。ほら」
ルドガーは彼女の胸のすぐ下で結ばれているリボンに手をかけると、ヴィルヘルミーナに見せつけるようにゆっくりと、時間をかけて引っ張る。するり、とリボンの輪が抜けると、途端に胸元の生地が緩んで、はらりとドレスの合わせが開かれた。ドレスの下にはさらに肌着を着ているが、肌が透けるほどに薄いそれは、彼女の胸の中央の色づいたところをくっきりと浮かび上がらせていた。
「あ、ま、待って……」
「だめだ」
羞恥で胸を隠そうとした彼女の手を捕まえて、掌に唇を落とす。
「順を追いたい、と言っただろう。前は性急すぎたからな」
ヴィルヘルミーナの腕を首に回させて、ルドガーは下着越しの彼女の腹に触れる。
「じっくり、お前の身体を暴いてやる」
ひそ、と耳元で囁いて、ルドガーは彼女の身体に愛撫を始めたのである。
庭園デートや互いの家のティールームでのお茶会、最初のデートに失敗した街の散策デートも、今度は適度にヴィルヘルミーナを休ませながら成功を納めた。実に順調に距離を詰められている。近頃は別れ際に口づけを交わすのが約束事になった。
メイドが傍にいることもあり、全くのふたりきりのデートはあまりないが、それでもルドガーは構わなかった。
相変わらず元彼女からは手紙が来ていたが、一度きっぱり断りの手紙を送った後は、全て送り返している。そのことだけが気がかりではあったが、ヴィルヘルミーナはいつ会っても可愛いし、おかげでやる気が出て仕事は順調だしで、この時のルドガーは無敵だった。
そうしてルドガーを更に有頂天にする出来事が起きたのは、ルドガーがヴィルヘルミーナの家に遊びに行った日のことである。
いつもならティールームに通されるところだが、その日案内されたのはなぜかヴィルヘルミーナの部屋だった。高位の貴族であれば普通は居室と寝室を分けるものだが、子爵家であるシュルツ家は贅沢を好まない上、ヴィルヘルミーナは執務室を必要とするような跡継ぎでもない。だから、居室を別に設けない代わりにかなり広い寝室にデスクやちょっとしたお茶をするために小さな猫足テーブルや、ソファセットなどもある。
ごくごく親しい同性の友人ならば、自室に案内されることも珍しくはないし、そもそも先日だって寝室に見舞いに来ていたうえ、二人は婚約者同士なのだから全く問題ない。そのはずなのだが。
(……どういうつもりだ?)
交際は順調で、見舞いに行った夏から季節は秋にさしかかりつつある。とはいえまだまだ気温は高く、薄着が心地良い。そのためなのか、今日のヴィルヘルミーナは珍しくも、コルセットのないゆったりとしたサマードレスを着ていた。シフォン生地を重ねて作られた半袖タイプのドレスである。これはいわゆる室内着で、通常は客を迎えるような服ではない。
繰り返しになるが、ルドガーとヴィルヘルミーナは婚約者同士だ。だから、室内着でも問題はない。だがしかし。
(胸元がゆるすぎないか?)
今は猫足のミニテーブルで向かい合わせに座ってボードゲームをしているが、先ほどからヴィルヘルミーナが駒を動かすために前かがみになる度に、胸元の生地がたわんで隙間ができ、彼女の乳房が見えそうになる。むしろ谷間は見えているくらいだ。
普段は首元も腕も覆われたドレスばかり着ているから、彼女の真っ白なデコルテと腕が覗いているだけで刺激が強いのに、揉み心地の良さそうな胸元を見せつけられては、下半身に血が集中しないようにするので手一杯だ。
「ルドガー様の番ですよ?」
「あ、ああ……」
駒に手を伸ばしかけて、盤面がもはやルドガーの圧倒的な負けになっていることに気付く。
「……俺の負けだ」
溜め息を吐いたルドガーに対して、ヴィルヘルミーナは心配そうな顔つきになった。
「ルドガー様、お疲れなのでは……?」
彼女の心配はもっともだ。こんな風にして既に負けるのが三度目である。
「少しあちらのソファでお茶にしませんか?」
「そうだな」
頷いたルドガーは、谷間から目を逸らすため、ソファに移動して座った。当然向かい合わせに座るだろうと思ったヴィルヘルミーナは、そっとルドガーの隣に座った。
「ヴィルヘルミーナ!?」
思わず動揺で愛称をつい忘れたルドガーは、隣のヴィルヘルミーナを見た瞬間に彼女の谷間がすぐ近くにあることに気付いて、ぎょっとする。向かい合わせで座っていたときよりよほど胸が見える。
「ルドガー様……」
甘やかな声と共に、ヴィルヘルミーナの腕がゆっくりとルドガーに絡みつく。エスコートで慣れた腕組みではあるが、それよりも更に身体を密着させたヴィルヘルミーナは、おずおずとルドガーを上目遣いで見上げる。
「……いや、ですか?」
いやな訳がない。
むにゅう、と押し付けられ、腕の圧で寄せられた胸元は更に谷間を強調している。わずかに開いた唇から緊張で漏れる吐息、そして煽情的な上目遣い。全てが彼女からのお誘いを示しているようにしか思えない。
こんな全身全てが可愛い婚約者のことが、いやであるはずがないのだ。
(押し倒したい)
ズボンを押し上げる熱を感じたものの、ルドガーは奥歯をぐっと噛んで、苦笑を浮かべた。
「少し、困るな……」
「……っ」
彼の返事に、ヴィルヘルミーナは震えて、きゅ、と口を結ぶと俯いた。
「……そう、ですか。すみません」
「お前が可愛すぎて、困る」
そっと外されかけた腕を捕まえて、ルドガーはヴィルヘルミーナの身体を引き寄せた。
「こういうことを言うのは情けないが……正直さっきからお前を抱きたくて仕方ない」
「本当ですか……?」
ぱっと顔をあげたヴィルヘルミーナの唇に、軽く口づけて、深く吸いかけたのをかろうじてルドガーは我慢した。
「ああ」
至近距離のヴィルヘルミーナの驚いている表情は、やがて満足そうな笑みになった。
「……では、ルドガー様をその気にさせるというわたくしの作戦は成功ですわね」
「うん?」
怪訝そうなルドガーに、ヴィルヘルミーナは口を尖らせる。
「だ、だってルドガー様……口づけしかされないから……わたくしのこと、飽きたのかな、って……わたくしも努力が必要なのかな、と思って……」
「待て、俺をわざと誘惑していたということか?」
「そっ」
かっと赤くなったヴィルヘルミーナは大きな声を上げそうになって、しゅんと萎む。
「そういう破廉恥な言い方はやめてください……」
大胆な服を着ていたのも、今日に限って寝室に招いているのも、全て、そういうことだ。
ルドガーは大きな溜め息を吐いて、もう一度唇を重ねた。
(この部屋に入ってからの俺の努力は一体なんだったんだ)
「んん……」
舌をさしこめば、くぐもった吐息が更にルドガーを煽る。
「……俺はミーナと順を追って、付き合いたいと思っている。その、手を出しておいてなんだが。俺はお前をよく知っているが、ミーナは俺のことを知らないだろう。だから、互いによく知るまで我慢しよう……と思ってたんだがな」
唇を離してから、こつ、と額を合わせると、すかさずヴィルヘルミーナの方から唇を重ねられた。
「お互いのことはもう充分に知っていると思います」
「そうか?」
「そう、です」
ルドガーの懐疑的な顔に、ヴィルヘルミーナははっきりと肯定する。
『充分に知っている』
その言葉に違和感を覚えないわけでもなかったが、好意を示してくれているのは純粋に嬉しかった。
「それに……わたくしが、我慢できません」
ここまで言われて襲わないのは、もはや失礼だ。結局我慢なんかできないのは、二人ともだった。
「俺がお前をいやらしくしたのか?」
「なっん……っ」
苦笑しながら、ルドガーは再び唇を重ねる。彼女は文句を言おうとしていた割には、積極的に舌を絡めてきて、それが可愛かった。身体に手を触れないまま深い口づけを繰り返していると、次第にヴィルヘルミーナはつま先をもじもじと動かし始めた。彼女の身体の奥に熱が灯って、疼いているのだろう。
「ミーナ、膝に来てくれ」
「えっ」
戸惑いの声をあげた彼女に、わざとリップ音をたてて唇を落とす。
「もっと近くでお前に触りたい」
耳元で囁くと、顔を真っ赤にしたヴィルヘルミーナが頷いて、おずおずとソファを立ち上がる。しかし、ヴィルヘルミーナはどうしていいのか判らない様子で、ルドガーの前に立ってそわそわと視線をさまよわせた。
そんな彼女のふ、と笑って、ルドガーは太ももに手を添える。
「ル、ドガー様……」
ぴくんと震えはしたが、ルドガーが何をするのか、彼女は待っている。シフォン生地のスカートは薄い。手を添えられるとその熱がすぐにじんわりと伝わって、それだけでヴィルヘルミーナの心を昂らせるらしい。
ルドガーは彼女のスカートを両側からするするとたくしあげると、膝が見えるくらいまでのところで手をとめて、ヴィルヘルミーナに笑ってみせる。
「ほら、持ち上げておいてやるから、乗ってみろ」
「わ、わたくしが……」
「俺の膝をまたいで……そうだ」
ぎこちない動きで、片膝をソファに乗り上げたヴィルヘルミーナは、そこで止まって助けを求めるようにルドガーを見た。足を出されているだけでも恥ずかしいだろうに、これ以上は無理だとでも言わんばかりだ。もっとも、このいやらしい行為を求めてきたのは彼女である。
「しょうのないやつだな」
「きゃっ」
スカートをつかんでいた手を離したルドガーは、彼女の腰をぐっと引き寄せて、膝に座らせた。ルドガーをまたいだ形で対面に座った彼女のスカートは、股を割っているので足の付け根付近までたくしあげられ、ドロワーズまで丸見えだ。恥ずかしすぎる格好にヴィルヘルミーナの顔はもはやゆでだこである。
「これ以上のことをするのに大丈夫か?」
ぐぐっと彼女の腰を更に引き寄せ、下半身を押し付ける。既に熱を持って固くなったそこがヴィルヘルミーナのドロワーズに押し付けられ、彼女の割られた秘部は、くちゅ、と小さな音を立てた。
「あっ」
「なんだ、もう触って欲しくなってるのか」
言いながら首筋に唇を這わせる。
「そんな……言わないでください」
「可愛いからつい言いたくなる。少し待て」
「……っ」
ちゅ、と繰り返しリップ音をたてて、首筋から鎖骨にかけて柔肌を味わう。少し汗ばんだ肌はしょっぱいが、それすらも興奮を催す。
(痕をつけたくなるな……)
この白い肌に所有印をつけたら、それは鮮やかに赤く浮き上がることだろう。ルドガーの執着を見せつけて、誰も彼女に手出しできないのだとアピールしてやりたい。子どもの頃はちょっかいをかけてヴィルヘルミーナをいじめようとしてた男どもが、こぞって彼女に欲めいた目を向けているのをルドガーは知っている。もっとも、ヴィルヘルミーナはそんな男どもの目線など気にしていなさそうではあるのだが。
(……結婚してれば付けられるのにな)
婚約者同士が身体の関係を持つことは公然の秘密ではあるものの、やはり褒められたものではない。淑女は結婚初夜に乙女を捧げることが美徳とされるし、婚姻までに身体の関係を持つのならば結婚まではそれを隠し通すのが常だ。
痕をつけられない口惜しさをリップ音に変えて、繰り返し口づけを落とす。しかしまだ他の部分には触れないでいる。
「ん、ルドガー様……」
「どうした?」
ルドガーが口を離して目線を合わせてやると、彼女は泣きそうに目を潤ませて、押し付けるように腰を揺らしてきた。
「い、意地悪を、しないでください……」
秘部をこすられれば気持ちがいいことを、ヴィルヘルミーナはもう知っている。だから口づけを落とされて焦らされる度に、身体の奥が切なくなるのだろう。
「意地悪なんかじゃない。もっと、悦くするための準備だ」
「準備、ですか?」
「ああ。ほら」
ルドガーは彼女の胸のすぐ下で結ばれているリボンに手をかけると、ヴィルヘルミーナに見せつけるようにゆっくりと、時間をかけて引っ張る。するり、とリボンの輪が抜けると、途端に胸元の生地が緩んで、はらりとドレスの合わせが開かれた。ドレスの下にはさらに肌着を着ているが、肌が透けるほどに薄いそれは、彼女の胸の中央の色づいたところをくっきりと浮かび上がらせていた。
「あ、ま、待って……」
「だめだ」
羞恥で胸を隠そうとした彼女の手を捕まえて、掌に唇を落とす。
「順を追いたい、と言っただろう。前は性急すぎたからな」
ヴィルヘルミーナの腕を首に回させて、ルドガーは下着越しの彼女の腹に触れる。
「じっくり、お前の身体を暴いてやる」
ひそ、と耳元で囁いて、ルドガーは彼女の身体に愛撫を始めたのである。
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