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第1部
46話 王家のお茶会 4
しおりを挟む双子のどちらかを殺す!?なんて残酷なことを!
国王陛下は当然突っぱねました。同時に、王妃陛下が双子を妊娠していることを隠しました。
しかし。
「アデライール……アデラと双子は常に危険にさらされた」
王妃陛下に堕胎薬が盛られたり、暗殺されそうになる事件が続いたそうです。証拠はありませんが、先々王とその側近の仕業なのは明らかです。
しかし、王妃陛下は臨月を迎えています。監視が厳しいこともあり、王城から移動することはできません。
国王陛下は、先々王と周囲を幽閉あるいは暗殺することも考えましたが。
「先々王を黙らせたところで問題は解決しない。先々王と同じく、【双子の王族は乱を呼ぶ】という迷信を信じる者は多い。他の者がアデラと双子に危害を加えるのは目に見えていた。おまけに、余は今ほど権力を持っていなかった。下手に動けば、最悪国を割っていただろう」
両陛下は断腸の思いで決意しました。
「出産時、シャンティリアンの誕生を大々的に公表した。そうして、産まれたばかりのアドリアンを城外に逃したのだ。
赤子の死体を用意し、先々王に、『双子の片方』は死産だったと信じ込ませた上でな」
王妃陛下の生家サフィリス公爵家の協力もあり成功しました。
アドリアン様はこうして、サフィリス公爵家の臣下であるブルーエ男爵家の三男としてお育ちになられたのです。
「アドリアンが余とアデラの子と知っているのは、一握りの者だけだった。本人すら知らされずに育てられた。
アドリアンに出生の秘密を教えたのは、九年前だ。理由は」
九年前?その年は……。
「国王陛下」
アドリアン様が口を挟みました。
「国王陛下。その理由については、私が場を改めて説明したいと思います」
「……ふむ。そうか。お前が望むのならば……。プランティエ伯爵もそれで良いか?」
「ルルティーナ嬢。この後、時間をもらえるだろうか?先日の伝えたいことと共に話したいんだ」
不安そうに話されて、【夏星の大宴】での会話を思いだします。
アドリアン様は『両陛下とのお茶会後、君だけに告げるよ。待たせてしまうけど、許してもらえるだろうか?』と、仰いました。
あの時も思いましたが、本当にずるいと思います。
だから、少しだけ意地悪しました。
「そんなお顔で仰られたら、あの時のように許すしかありませんね」
「は?そ、そんな顔ってどういうことだ?」
「うむ。わかるぞプランティエ伯爵。なかなかの破壊力だった」
「アドリアンって、甘え上手なのねえ。プランティエ伯爵が頼りになる子でよかったわ」
「はっはっは!まったくですね!母上!」
お三方の反応に、アドリアン様は赤面したまま小さくなっていきます。
「は、その、情け無いところを……」
「アドリアン様は情け無くないです。ちょっとお可愛らしいところがあるだけですよ」
「うーむ。プランティエ伯爵、擁護になっとらんぞ」
「え?」
アドリアン様の眉毛がへにゃりと下がります。
「いいんだ。俺が君に甘えっぱなしなのは事実だよ」
「そうだよプランティエ伯爵。……君がこのお茶会に参加すると言わなければ、アドリアンは参加しなかっただろう」
王太子殿下のお言葉に納得しました。やはり、アドリアン様はお三方と交流されていなかったのですね。
「こうやって家族そろって団欒したのは九年ぶりさ!……アドリアンが私たちを家族と思えないのも無理はないけど、寂しかったよ」
「ええ。貴方に苦労をさせておいて、今さらだとはわかっていますが……」
「全くだ。アデラとシャンティリアンはともかく、余を疎ましく思って当然……」
「いいえ!疎ましく思ったことなどありません!」
アドリアン様ははっきりと宣言しました。
「両陛下と王太子殿下は、離れていても私を守り育てて下さいました。皆様のお招きにお応えしなかったのは、ひとえに合わせる顔がなかっただけです」
「合わせる顔が無いですって?アドリアン、誰かに何か言われたの?名前を言いなさいな。今すぐ氷漬けにして……」
「アデラ、落ち着け。冷気が出ている」
「違います!九年前の私は未熟者でしたので、一人前になるまではお会いしないと決めていたのです」
王太子殿下が首を傾げます。
「いや、なら何で九年も会ってくれなかったんだ?とっくの昔に騎士として身を立てていただろう?」
「はい。それはそうなのですが……」
アドリアン様はためらいつつ白状しました。
「その、お会いするのを控えている内に、今さら家族としてお会いするのはどうかと思うようになりまして……。高貴な皆様に引き換え、野卑に育った自覚もありましたし……。
つまり、お会いしない内に気まずくなってしまったんです」
叱られた男の子の顔で、アドリアン様は口を閉ざしました。お三方は脱力しました。
「気まずいってなんだよそれえ!子供か!」
「本当ですよ。私たちはずっと悩んでいたのに」
「す、すみません」
「いや、許さん」
国王陛下は重々しく呟き、アドリアン様を睨みます。
「お前が余を父、アデラを母、シャンティリアンを兄と呼ばねば許さぬ」
そうきましたか!
茶目っ気たっぷりな国王陛下に笑いを堪えます。
「え?いえ、しかし私は臣下……」
「ええ、私も許さないわ」
「私もだ。内輪の席ではシャンティ兄上と呼びなさい」
後でお聞きしましたが、両陛下がシャンティリアン王太子殿下につけた愛称は、【リアン】ではなく【シャンティ】だそうです。
【リアン】が身内にだけ許された愛称というのは、どこかからか広がったデマだとか。
「しゃっ!?い、いえそれは……!」
「うむ。良い考えだ。余もシャンティに賛成だ」
「私も賛成よ。アディ、シャンティ兄上の言うことを聞きなさいな」
「あで!?」
狼狽えるアドリアン様。私はもうこらえきれずに笑ってしまいました。
「うふふっ!……失礼しました。アドリアン様、素直になられてはいかがですか?せっかく仲の良いご家族でいらっしゃるのですから」
「ルルティーナ嬢……」
アドリアン様は少し切なげな顔をされました。私は視線だけで語りかけます。
私と私の血縁は、最後まで家族になれませんでしたが貴方は違う。
アドリアン様は頷き、お三方に向き直ります。
「あ……その……」
決意がほとばしっておりますが、緊張でなかなか言葉が出ない様子。私は繋いだ手の力を込めます。
大丈夫ですよ。そう心で囁きながら。
しばらくして、ようやくアドリアン様の唇が言葉を紡ぎました。
「ち、父上、母上……あ、兄上」
お三方の反応と言ったら!その後、お茶会が大いに盛り上がったのは言うまでもありません。
どれくらい時間が経ったのかわからなくなってきた頃、お茶会はお開きになりました。
「アディ、プランティエ伯爵。改めて感謝する。こんなに楽しいお茶会は初めてだった」
「……私もです。父上」
お三方とアドリアン様は、秋にお会いすることを約束されました。
喜びにあふれた笑顔はそっくりで、私まで笑顔になってしまいました。
「プランティエ伯爵の予定もあるでしょうから、詳しい日程は後日ね。ああ楽しみ!また美味しいお菓子を用意するわね!」
何故か私も同行することになっていますが、アドリアン様とご一緒できるのは嬉しいので問題ありません。
王太子殿下が「アディごと囲い込む気だな」と、仰いましたが聞かなかったことにします。
どちらにせよ、私にとっては願ってもないことですので。
◆◆◆◆◆
私とアドリアン様は、お三方より先に退出しました。再びアドリアン様にエスコートされ、侍従長様に案内されます。
このまま帰宅するのかと思いましたが。
「侍従長殿、寄りたい場所があるので案内はここまでで良い。
……ルルティーナ嬢、少し寄り道していこう」
あの話をするつもりだと、すぐにわかりました。私は頷き、アドリアン様と二人で歩きます。
しばらくして到着したのは、九年前の春【蕾のお茶会】が開催された庭園でした。
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