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第1部
45話 王家のお茶会 3
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「まだ時間はあるな。ここからは気軽に、茶と会話を楽しもうではないか」
国王陛下をまとう空気が変わりました。威圧感が消えた、とても砕けたご様子に。
王妃陛下と王太子殿下もです。お三方はニコニコと笑っています。
「二人とも、礼儀作法は気にせず楽にしてくれ」
「ええ。先ほどからお菓子を食べていないようだけど、遠慮せずどうぞ。プランティエ伯爵は果物のお菓子が好きと聞いたから、たくさん用意したの」
「ベルダール辺境伯も甘いものは好きだったよね?このクッキーがおすすめだよ」
「は、はい」
「頂きます」
圧倒されつつ、お茶とお菓子を頂いてお話しします。
「ほう。開墾地で薬草と野菜の栽培実験か。面白そうだ。余も農業の心得がある。春の訪問の際、見学することは出来るだろうか?」
国王陛下の素晴らしいご提案に、アドリアン様と目を合わせました。
アドリアン様も嬉しそうです。
「もちろんです。ぜひお越しください」
「ええ。国王陛下と王太子殿下に訪問頂ければ、皆も喜ぶでしょう」
「おお!それは重畳!なんなら開墾も手伝わせてくれ!余の土属性魔法はなかなかの物だぞ!」
「国王陛下。気持ちはわかりますが、出しゃばり過ぎてはいけませんよ。……ああ、駄目だ。話を聞いてない。すまないね。ベルダール辺境伯、プランティエ伯爵」
「国王陛下とシャンティリアンが羨ましいわ。私もミゼール領の様子をこの目で見に行きたい」
気安くお話しされるお三方に、緊張がほぐれていきます。
なんと言いますか、お三方とも威厳と高貴さはありますが、包容力と安心感も凄いといいますか……。
【王にとっての我が子とは、すなわち民草である】という言葉がストンと納得できました。
しかし、油断は禁物でした。
「ところで、下世話なことを聞くのだけれど二人はいつ結婚するのかしら?」
「はい?!」
「お、王妃陛下!?」
「ちょっと母上……王妃陛下、本当に下世話ですよ」
「いいじゃないですか。貴方たちも気になっていたでしょう?」
「いや、その通りだが……」
国王陛下と王太子殿下は、好奇心が隠せていません。私はどうしたらいいか分からず泣きそうです。アドリアン様も固まっています。
王妃陛下が少し寂しげな顔を浮かべます。
「ごめんなさいね。ベルダール辺境伯には、ここまで気にかける方はいなかったから……」
「お気になさらないでくださいませ」
私は王妃陛下の鮮やかな青い瞳と見つめ合い、あることを確信します。
私から口にした方がいいでしょう。
「皆様はベルダール辺境伯閣下のお身内ですから」
アドリアン様の鮮やかな青い瞳が、驚愕で見開かれました。
王太子殿下も少し驚かれているご様子ですが、両陛下は平静そのものでした。
「やっぱり貴女は気づいていたのね」
「なぜ気づいたか教えてもらえるか?ベルダール辺境伯……アドリアンが余の息子。シャンティリアンの双子の弟だと」
国王陛下がはっきりと言葉にされたことで、場の緊張が高まります。私は気圧されそうになりつつ、素直に説明しました。
お三方が、以前からアドリアン様と辺境騎士団にお心を砕かれていること。
アドリアン様の生家ブルーエ男爵家が、王妃陛下の生家のサフィリス公爵家にお仕えしていること。
また、同じくお仕えしているアメティスト子爵家がアドリアン様の養育に深く関わっていたこと。
「ほほう。なるほどな。卿はアドリアンとその周囲を良く観察していたようだ」
「はい。それにベルダール辺境伯閣下のお髪の色は国王陛下と王太子殿下に、瞳の色と形は王妃陛下に良く似ていらっしゃいます。
……そして何より、皆さまは微笑まれた時のお顔がそっくりです」
「!」
私以外の全員が驚いた顔になりました。
ああ、そのお顔もよく似ていらっしゃいます。そういえば、怒ったお顔もとてもよく似ていらっしゃいました。言いませんが。
私はなんだか嬉しくて、自然と笑顔になりました。
こんな風に似ているのはきっと。
「血の繋がりばかりではなく、皆様が想いあっていらっしゃるからでしょう。家族は似るというのは本当ですね」
「そう。私たちは似ているのね……アドリアン……!ううっ……!」
「母上!」
王妃陛下が涙をこぼされ、王太子殿下が声を上げました。国王陛下は、そっと王妃陛下の背に手を回します。
私は余計なことを言ってしまったのかと血の気が引きましたが、国王陛下は首を横に振ります。
「卿のせいではない。余が至らなかったせいだ。プランティエ伯爵、何があったか聞いてもらってもいいだろうか?」
「国王陛下、あまりにも踏み込んだ話です。無関係なプランティエ伯爵に話すのは……」
アドリアン様は止めますが、私は頷きました。
「お聞かせください。私は、アドリアン様のことを知りたいのです」
前半を国王陛下に、後半をアドリアン様に告げました。アドリアン様は不安そうな顔ですが、しっかりと手を繋いで見つめます。
「アドリアン様。私は、アドリアン様にとって無関係な存在ではいたくないのです。いけないことでしょうか?」
「い、いや、いけなくはない」
アドリアン様は頬を赤らめてたじろぎます。
不謹慎ですが、お可愛らしくてときめきました。
「しかし王家の秘密を知ってしまえば、君の将来の選択肢は少なくなるし、行動に制限がついてしまう」
「いまさらでは無いでしょうか?【特級ポーション】のレシピを開発し、【新特級ポーション】を作成できるのが私だけな時点で、選択肢は多くないと思いますが?」
「そ、それはそうなのだが……!この秘密を知ってしまうと、結婚相手も選べなくなってしまう。つまり……」
スッと、心が冷えました。結婚相手。貴方以外を選べということでしょうか?
アドリアン様も私を想って下さっている。そう思っていましたが、思い上がりの勘違いなの?
『魔力無しのルルティーナ!あんたはクズ!クズなのよ!』
元アンブローズ侯爵令嬢の高笑いが頭の中に響き、息が上手く出来な……。
「おっ俺が!俺が君を離せなくなる!今以上に束縛して囲い込んでしまう!」
「……はい?」
アドリアン様の、繋いでいない方の手が私の頬を包みます。
頬を包みます?は?
「そうなったらいいと願ってはいたが、しかし君の意思を奪ってはならないと自戒もしていた。だけど、君が自ら王家の秘事を知り俺の全てを知ってくれるだなんて俺はもう我慢できない」
何!?初めてされました!がっしりと大きくて固い手がわ、わた、私の頬をつつんででで!
腰を抱かれたり密着したりはありましたが服越しでした!素手を握ったり重ねたりも何度もしていますが、これは違います!
私の頬の感触を確かめるように、愛おしむように包んで撫でて……!
「あああああ!あの?!アドリアン様?!」
「ルルティーナ嬢!俺は……!」
アドリアン様がさらに身を寄せます。そして唇が近づいて……。
「……コホン!アドリアン、そこまでになさい!身内とはいえ人前よ!プランティエ伯爵も困ってるわ!」
「そうだぞアドリアン。プランティエ伯爵を困らせたら、私のイザベルも黙っていないぞ」
「っ!?し、失礼しました」
王妃陛下と王太子殿下のお言葉で、アドリアン様は身を離しました。
「る、ルルティーナ嬢。困らせてすまない。気持ちが昂ったとはいえ……」
「い、いえ。あの、大丈夫です。ただ、恥ずかしくて……」
嫌ではないのだと伝わるよう、繋いだままだった手に手を重ねます。
アドリアン様の顔が真っ赤に染まりました。
「初々しくて微笑ましいのう」
国王陛下のお言葉がいたたまれません。
「改めて聞くが、プランティエ伯爵よ。昔話を聞いてもらえるだろうか?」
一瞬、アドリアン様と目を見合わせてから頷きました。
「はい。もちろんです」
「うむ。始まりは二十四年前。先王が逝去して、余が王位を継いだばかりの頃だ。
先々王は健在で、余と王妃を支えてくれていた」
戦乱の時代を乗り切った先々王は、明君として慕われていらっしゃいました。そのため、まだ若かった両陛下にとって心強い後ろ盾でした。
そんな折、王妃陛下の懐妊が判明したのです。
「これで我が国も安泰だ。そう安心していた。
しかし臨月に入り、双子を妊娠しているとわかって一変した。
先々王は【双子の王族は乱を呼ぶ】という迷信を持ち出し、片方を殺せと命じたのだ」
◆◆◆◆◆
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国王陛下をまとう空気が変わりました。威圧感が消えた、とても砕けたご様子に。
王妃陛下と王太子殿下もです。お三方はニコニコと笑っています。
「二人とも、礼儀作法は気にせず楽にしてくれ」
「ええ。先ほどからお菓子を食べていないようだけど、遠慮せずどうぞ。プランティエ伯爵は果物のお菓子が好きと聞いたから、たくさん用意したの」
「ベルダール辺境伯も甘いものは好きだったよね?このクッキーがおすすめだよ」
「は、はい」
「頂きます」
圧倒されつつ、お茶とお菓子を頂いてお話しします。
「ほう。開墾地で薬草と野菜の栽培実験か。面白そうだ。余も農業の心得がある。春の訪問の際、見学することは出来るだろうか?」
国王陛下の素晴らしいご提案に、アドリアン様と目を合わせました。
アドリアン様も嬉しそうです。
「もちろんです。ぜひお越しください」
「ええ。国王陛下と王太子殿下に訪問頂ければ、皆も喜ぶでしょう」
「おお!それは重畳!なんなら開墾も手伝わせてくれ!余の土属性魔法はなかなかの物だぞ!」
「国王陛下。気持ちはわかりますが、出しゃばり過ぎてはいけませんよ。……ああ、駄目だ。話を聞いてない。すまないね。ベルダール辺境伯、プランティエ伯爵」
「国王陛下とシャンティリアンが羨ましいわ。私もミゼール領の様子をこの目で見に行きたい」
気安くお話しされるお三方に、緊張がほぐれていきます。
なんと言いますか、お三方とも威厳と高貴さはありますが、包容力と安心感も凄いといいますか……。
【王にとっての我が子とは、すなわち民草である】という言葉がストンと納得できました。
しかし、油断は禁物でした。
「ところで、下世話なことを聞くのだけれど二人はいつ結婚するのかしら?」
「はい?!」
「お、王妃陛下!?」
「ちょっと母上……王妃陛下、本当に下世話ですよ」
「いいじゃないですか。貴方たちも気になっていたでしょう?」
「いや、その通りだが……」
国王陛下と王太子殿下は、好奇心が隠せていません。私はどうしたらいいか分からず泣きそうです。アドリアン様も固まっています。
王妃陛下が少し寂しげな顔を浮かべます。
「ごめんなさいね。ベルダール辺境伯には、ここまで気にかける方はいなかったから……」
「お気になさらないでくださいませ」
私は王妃陛下の鮮やかな青い瞳と見つめ合い、あることを確信します。
私から口にした方がいいでしょう。
「皆様はベルダール辺境伯閣下のお身内ですから」
アドリアン様の鮮やかな青い瞳が、驚愕で見開かれました。
王太子殿下も少し驚かれているご様子ですが、両陛下は平静そのものでした。
「やっぱり貴女は気づいていたのね」
「なぜ気づいたか教えてもらえるか?ベルダール辺境伯……アドリアンが余の息子。シャンティリアンの双子の弟だと」
国王陛下がはっきりと言葉にされたことで、場の緊張が高まります。私は気圧されそうになりつつ、素直に説明しました。
お三方が、以前からアドリアン様と辺境騎士団にお心を砕かれていること。
アドリアン様の生家ブルーエ男爵家が、王妃陛下の生家のサフィリス公爵家にお仕えしていること。
また、同じくお仕えしているアメティスト子爵家がアドリアン様の養育に深く関わっていたこと。
「ほほう。なるほどな。卿はアドリアンとその周囲を良く観察していたようだ」
「はい。それにベルダール辺境伯閣下のお髪の色は国王陛下と王太子殿下に、瞳の色と形は王妃陛下に良く似ていらっしゃいます。
……そして何より、皆さまは微笑まれた時のお顔がそっくりです」
「!」
私以外の全員が驚いた顔になりました。
ああ、そのお顔もよく似ていらっしゃいます。そういえば、怒ったお顔もとてもよく似ていらっしゃいました。言いませんが。
私はなんだか嬉しくて、自然と笑顔になりました。
こんな風に似ているのはきっと。
「血の繋がりばかりではなく、皆様が想いあっていらっしゃるからでしょう。家族は似るというのは本当ですね」
「そう。私たちは似ているのね……アドリアン……!ううっ……!」
「母上!」
王妃陛下が涙をこぼされ、王太子殿下が声を上げました。国王陛下は、そっと王妃陛下の背に手を回します。
私は余計なことを言ってしまったのかと血の気が引きましたが、国王陛下は首を横に振ります。
「卿のせいではない。余が至らなかったせいだ。プランティエ伯爵、何があったか聞いてもらってもいいだろうか?」
「国王陛下、あまりにも踏み込んだ話です。無関係なプランティエ伯爵に話すのは……」
アドリアン様は止めますが、私は頷きました。
「お聞かせください。私は、アドリアン様のことを知りたいのです」
前半を国王陛下に、後半をアドリアン様に告げました。アドリアン様は不安そうな顔ですが、しっかりと手を繋いで見つめます。
「アドリアン様。私は、アドリアン様にとって無関係な存在ではいたくないのです。いけないことでしょうか?」
「い、いや、いけなくはない」
アドリアン様は頬を赤らめてたじろぎます。
不謹慎ですが、お可愛らしくてときめきました。
「しかし王家の秘密を知ってしまえば、君の将来の選択肢は少なくなるし、行動に制限がついてしまう」
「いまさらでは無いでしょうか?【特級ポーション】のレシピを開発し、【新特級ポーション】を作成できるのが私だけな時点で、選択肢は多くないと思いますが?」
「そ、それはそうなのだが……!この秘密を知ってしまうと、結婚相手も選べなくなってしまう。つまり……」
スッと、心が冷えました。結婚相手。貴方以外を選べということでしょうか?
アドリアン様も私を想って下さっている。そう思っていましたが、思い上がりの勘違いなの?
『魔力無しのルルティーナ!あんたはクズ!クズなのよ!』
元アンブローズ侯爵令嬢の高笑いが頭の中に響き、息が上手く出来な……。
「おっ俺が!俺が君を離せなくなる!今以上に束縛して囲い込んでしまう!」
「……はい?」
アドリアン様の、繋いでいない方の手が私の頬を包みます。
頬を包みます?は?
「そうなったらいいと願ってはいたが、しかし君の意思を奪ってはならないと自戒もしていた。だけど、君が自ら王家の秘事を知り俺の全てを知ってくれるだなんて俺はもう我慢できない」
何!?初めてされました!がっしりと大きくて固い手がわ、わた、私の頬をつつんででで!
腰を抱かれたり密着したりはありましたが服越しでした!素手を握ったり重ねたりも何度もしていますが、これは違います!
私の頬の感触を確かめるように、愛おしむように包んで撫でて……!
「あああああ!あの?!アドリアン様?!」
「ルルティーナ嬢!俺は……!」
アドリアン様がさらに身を寄せます。そして唇が近づいて……。
「……コホン!アドリアン、そこまでになさい!身内とはいえ人前よ!プランティエ伯爵も困ってるわ!」
「そうだぞアドリアン。プランティエ伯爵を困らせたら、私のイザベルも黙っていないぞ」
「っ!?し、失礼しました」
王妃陛下と王太子殿下のお言葉で、アドリアン様は身を離しました。
「る、ルルティーナ嬢。困らせてすまない。気持ちが昂ったとはいえ……」
「い、いえ。あの、大丈夫です。ただ、恥ずかしくて……」
嫌ではないのだと伝わるよう、繋いだままだった手に手を重ねます。
アドリアン様の顔が真っ赤に染まりました。
「初々しくて微笑ましいのう」
国王陛下のお言葉がいたたまれません。
「改めて聞くが、プランティエ伯爵よ。昔話を聞いてもらえるだろうか?」
一瞬、アドリアン様と目を見合わせてから頷きました。
「はい。もちろんです」
「うむ。始まりは二十四年前。先王が逝去して、余が王位を継いだばかりの頃だ。
先々王は健在で、余と王妃を支えてくれていた」
戦乱の時代を乗り切った先々王は、明君として慕われていらっしゃいました。そのため、まだ若かった両陛下にとって心強い後ろ盾でした。
そんな折、王妃陛下の懐妊が判明したのです。
「これで我が国も安泰だ。そう安心していた。
しかし臨月に入り、双子を妊娠しているとわかって一変した。
先々王は【双子の王族は乱を呼ぶ】という迷信を持ち出し、片方を殺せと命じたのだ」
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