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勇者は魔王を倒すしかない
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鈍い光が僕に迫りかかる。
僕はとっさに、自慢の剣『コキュートス』で防いだが、生憎と『ゲヘナ』とは相性が悪い。
「クラトス!?」
ニケが大きな声で僕の安否を確認している。
ありがたいことではあるが、僕はこれぐらいでは死ぬことはおろか傷つくことすら出来ない。だからこそ、これほどまでに苦労させられているのだから。
「大丈夫だ! それより、これは僕とこいつとの戦いだ。水をささないでくれよ?」
久しぶりに死ぬかもしれない戦いだ。それを邪魔されたとあったら、僕も正気ではいられないかもしれない。まあ、本当はそんなくだらないことで怒ったりはしないけど。一応、釘をさしておいた方がいいだろう。ニケはともかく、ヴラスカが目の前にいる魔王に食いかかったりしたら、返り討ちにあって殺される可能性すらある。
「私と2人きりで戦いたいと? 面白い……まだ私のことをなめているようですね」
男は怪しい笑みを浮かべて、さらに攻撃を強める。
確かに男の言うとおり、僕は男をなめていた。しかしそれはほんの数分前の話であり、今はそうでもない。
何とか、彼の剣をいなしながらも、攻撃に入るための隙をうかがう。
だがそれをあざ笑うかのように男は一切の隙を見せない。むしろ、隙をつかれないように本気で攻めてきていないとみえる。
「なめてないよ。お前は僕と非常に近しい存在だ。異世界人の血を引きながら、魔王の心に完全に支配されていない……もっとも、僕の中には魔王の意思なんてものは存在しないわけだが、だったらなおのことお前の精神力に眼福せざるを得ないだろう?」
「うれしいことを言ってくださる……ですがお分かりの通り、私の腕力……魔力……知略ですらあなたに劣るでしょう。このままでは拮抗も長くはもたないことは明白だ」
よく自分と僕との戦力差を理解している。
『知略で劣る』と口では言っているが、本当にそう思っているのか怪しいものだ。
「実力は知らないけど、剣の相性と、お前が神から与えられた恩恵を考えると、本当のところはどうなんだろうな?」
目の前に立つ男は、僕のことを知り尽くしている。
だからこそ、僕の剣『コキュートス』に対応した武器を用意したのだろう。異世界人が神から与えられる恩恵についてもそうだ。
人間種の体というやつは、どれほど丹念に鍛えたところで竜人などのポテンシャルの高さなどあるわけもなし、たかがしれている、
攻撃面からみても、悪魔には傷一つつけられないだろうし、防御面なんかは本気を出した亜人種の前にはないに等しい。
――そんなひ弱な人間が、いかにしてそのような猛者達と渡り合ってきたか……器用さだ。
何万何千という天才達が、自らの知恵と手先の器用さを掛け合わせて、作ってきたもの……それこそが『伝説の武具』であり、『多種族との共生』だ。
それができる存在が人間種だった。
しかし、異世界人はそれだけではすまない。
異世界人には、いつも神がついている。神から最高の寵愛を受けている。
神が愛してやまないからこそ、彼らは無理やりにこの世界へと引きずりこまれ、神による愛の証として『恩恵』を与えられている。
言ってしまえば、彼ら異世界人は人間の上位種というわけだ。そんな彼の持つ恩恵は、『隠密』だ。それもヴラスカとは比べものにならないほどに使いこなしている。
彼が一度気配を断てば、気づかぬうちに殺されている……なんてこともあり得るわけだ。
それなのに彼は気配を断つ様子がまるでない。
「不思議ですか? どうして恩恵を使わないのか? 理解出来ませんか? 私がやりたいことを?」
僕のことを馬鹿にしたかのように、彼は不敵な笑みを浮かべた。
それに対して僕は、「ハンデのつもりか?」と聞き返す。もちろんそんな訳がない。
「ふっふ、愚かな解答です。殺したい相手に気をつかうバカはいませんよ」
案の定、彼は否定した。
「同感だ。僕ならそんなことはしない」
僕はとっさに、自慢の剣『コキュートス』で防いだが、生憎と『ゲヘナ』とは相性が悪い。
「クラトス!?」
ニケが大きな声で僕の安否を確認している。
ありがたいことではあるが、僕はこれぐらいでは死ぬことはおろか傷つくことすら出来ない。だからこそ、これほどまでに苦労させられているのだから。
「大丈夫だ! それより、これは僕とこいつとの戦いだ。水をささないでくれよ?」
久しぶりに死ぬかもしれない戦いだ。それを邪魔されたとあったら、僕も正気ではいられないかもしれない。まあ、本当はそんなくだらないことで怒ったりはしないけど。一応、釘をさしておいた方がいいだろう。ニケはともかく、ヴラスカが目の前にいる魔王に食いかかったりしたら、返り討ちにあって殺される可能性すらある。
「私と2人きりで戦いたいと? 面白い……まだ私のことをなめているようですね」
男は怪しい笑みを浮かべて、さらに攻撃を強める。
確かに男の言うとおり、僕は男をなめていた。しかしそれはほんの数分前の話であり、今はそうでもない。
何とか、彼の剣をいなしながらも、攻撃に入るための隙をうかがう。
だがそれをあざ笑うかのように男は一切の隙を見せない。むしろ、隙をつかれないように本気で攻めてきていないとみえる。
「なめてないよ。お前は僕と非常に近しい存在だ。異世界人の血を引きながら、魔王の心に完全に支配されていない……もっとも、僕の中には魔王の意思なんてものは存在しないわけだが、だったらなおのことお前の精神力に眼福せざるを得ないだろう?」
「うれしいことを言ってくださる……ですがお分かりの通り、私の腕力……魔力……知略ですらあなたに劣るでしょう。このままでは拮抗も長くはもたないことは明白だ」
よく自分と僕との戦力差を理解している。
『知略で劣る』と口では言っているが、本当にそう思っているのか怪しいものだ。
「実力は知らないけど、剣の相性と、お前が神から与えられた恩恵を考えると、本当のところはどうなんだろうな?」
目の前に立つ男は、僕のことを知り尽くしている。
だからこそ、僕の剣『コキュートス』に対応した武器を用意したのだろう。異世界人が神から与えられる恩恵についてもそうだ。
人間種の体というやつは、どれほど丹念に鍛えたところで竜人などのポテンシャルの高さなどあるわけもなし、たかがしれている、
攻撃面からみても、悪魔には傷一つつけられないだろうし、防御面なんかは本気を出した亜人種の前にはないに等しい。
――そんなひ弱な人間が、いかにしてそのような猛者達と渡り合ってきたか……器用さだ。
何万何千という天才達が、自らの知恵と手先の器用さを掛け合わせて、作ってきたもの……それこそが『伝説の武具』であり、『多種族との共生』だ。
それができる存在が人間種だった。
しかし、異世界人はそれだけではすまない。
異世界人には、いつも神がついている。神から最高の寵愛を受けている。
神が愛してやまないからこそ、彼らは無理やりにこの世界へと引きずりこまれ、神による愛の証として『恩恵』を与えられている。
言ってしまえば、彼ら異世界人は人間の上位種というわけだ。そんな彼の持つ恩恵は、『隠密』だ。それもヴラスカとは比べものにならないほどに使いこなしている。
彼が一度気配を断てば、気づかぬうちに殺されている……なんてこともあり得るわけだ。
それなのに彼は気配を断つ様子がまるでない。
「不思議ですか? どうして恩恵を使わないのか? 理解出来ませんか? 私がやりたいことを?」
僕のことを馬鹿にしたかのように、彼は不敵な笑みを浮かべた。
それに対して僕は、「ハンデのつもりか?」と聞き返す。もちろんそんな訳がない。
「ふっふ、愚かな解答です。殺したい相手に気をつかうバカはいませんよ」
案の定、彼は否定した。
「同感だ。僕ならそんなことはしない」
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