4 / 18
『欲しいのならば、全部あげましょう』
わたしに頂戴!
「お姉さま!そのドレスわたしに頂戴!」
妹は今日も私の私物を強請りにやって来ます。
今日はドレスですか。これは今月末のわたくしの誕生日の夜会用にとお祖父様がわざわざオーダーメイドして下さったものなのだけど。
「いいでしょうお姉さま!その綺麗な空色はわたしにとっても似合うと思うの!」
似合うかも知れないけれど、貴女にはサイズが合わないわよ?
「ねえ頂戴、お姉さま!」
ああ、これはもう言っても聞かないわね。
「良いではないか。お前は姉なのだから、可愛い妹のお願いを聞いてやるべきだといつも言っているだろう?」
ええ、まあお父様はこの子を溺愛なさっているからそう仰るわよね。
「ドレスの一着や二着なんですか。誕生日用ならまた仕立てればいいではありませんか」
ええ、お義母様はこの子の実母ですから当然そう仰るわよね。分かってますとも。
そして、そんなこと言いながら新しいドレスは仕立てて下さらないのよね。
「いい加減ワガママはお止めになりませんと、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」
というか、貴女わたくしの専属侍女よね?どうして貴女までこの子の味方をしているの?
「あら、だって私を含めてこのお邸の使用人たち全員、妹君が大好きですから!」
ああそう。
そういうことですか。
まあ使用人たち全員、お義母様が来てから雇われた者たちですものね?
「お返事がないってことは、お許しが出たってことよね?ありがとうお姉さま!月末のお誕生日パーティーはこのドレスで出席しますから、楽しみにしていてね!」
「あっ、ちょっと待ちなさい!」
慌てて止めるが、引き止める間もなく妹はドレスを奪い去って行ってしまいました。
今日はドレスだったけれど、妹が欲しがるのはそれだけではありません。
彼女はとにかくわたくしの物は何でも欲しがるのです。昨日はピアス、一昨日はお気に入りのティーセット、その前は指輪、その前は絵画、その前は………。
ああ、考えるほど腹が立って来ましたわ。
なんでこうも奪われなければならないのかしら。
妹が出て行ったので、満足したのかお父様もお義母様も侍女もみんな部屋を出て行って、わたくしはひとりになります。周囲に誰の気配もないことを確認して、わたくしはクローゼットを開きます。
残っているドレスはあと僅か。普段着用のワンピースとブラウスやスカートの他は、夜会に着て行けるものが二着、お茶会に着られるものが三着だけですか………。
その残り少ないドレスを左右に掻き分けて、わたくしはクローゼットの奥壁を手探りで探し、小さな窪みを見つけて指で押し込みます。
ガコ、と音がして、隠し扉が開きます。その奥にはいまだ無事なドレスがひい、ふう、みい…………47着ですか。これは見つからないようにしないとね。
さて、それはそれとしてあの子どうしましょうか。
クローゼットを元通り隠しながら私は思案します。これが見つかってないのなら屋根裏の隠し金庫も壁の裏の隠し書庫も床下の隠し貯蔵庫も見つかってないと思うのだけど、いくら囮用とはいえあの子の奪っていったアクセサリーやドレス、本や絵画はどれも全部価値のある本物ばかり。奪われたままというのも、ねえ?
ですがとうとう、あの子は奪ってはならないものまでわたくしから奪っていこうとしたのです。
だったらもう、遠慮も容赦もいりませんわね?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それはわたくしの誕生日パーティーでのことでした。正確には、その始まる少し前のこと。
わたくしは主賓ですから、当家主催とはいえこの日ばかりは何もせず饗される側に収まっています。妹大好きな侍女たちでさえそこは弁えているようで、わたくしは朝から徹底的に磨かれてピカピカです。
「お嬢様、その見たこともない藍色のドレスはどうなさったんです?」
「ああ、これ?あの子がドレスを持って行ってしまったから、仕方なくお祖父様にお願いしてもう一着仕立てて頂いたの」
「まあそうですか」
まあ嘘ですけどね。これは去年からわたくしが自分で仕立てて隠しておいたものですが、わざわざそんな種明かしはしませんよ。
というかお祖父様には敢えてお知らせしておりません。このパーティーにも来てくださる予定だし、わたくしがあのドレスを着ていないのを見ればそれだけで色々と察して下さるでしょうから。
そして案の定、あの子はあのドレスを着ておりませんわね。
「お姉さま!?何それそのドレス素敵!」
「あげませんわよ?」
「えっなんで!?お姉さまひどい!」
「だってこれ借り物ですもの。わたくしのものでないのだから、貴女にはあげられないわ」
まあ嘘ですけどね。
「くっ……、借り物なら仕方ないわね……」
あら、騙されてくれたわ。
「それよりも、貴女あのドレスはどうしたの?今日着てくると言ってたわよね?」
貴女があれを着ててくれたら、話が早かったのだけど。
「ああ、あれ?」
けれど妹は事もなげに言ったのです。
「あれ不良品だったわ。ちょっと無理して着ようとしたら腰回りが裂けちゃったもの」
そりゃ貴女はわたくしよりもふっくらしてますからね、無理して着ようとすればそうなりますわよ。せめて少しくらい痩せる努力をすればいいのに。
「でもねわたし、もういいの!それよりも今日は別のものが欲しいの!」
「それよりも」ですって?その言い方は無いんじゃない?
というか、今度は何なのかしら?
と、そこへやって来たのはわが婚約者さま。
「相変わらず美しいな、君は」
………ん?この方わたくしを褒めたことなどあったかしら?
って、妹なぜ彼の腕に抱きついているの?そして彼もなぜ目尻を下げているの?
「お姉さま!」
訝しむわたくしに、妹は言ったのです。
「この素敵な婚約者さまが欲しいわ!この方をわたしに頂戴!」
あなたにおすすめの小説
婚約破棄した令嬢の帰還を望む
基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。
実際の発案者は、王太子の元婚約者。
見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。
彼女のサポートなしではなにもできない男だった。
どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。
これは一周目です。二周目はありません。
基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。
もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。
そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
うまくやった、つもりだった
ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。
本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。
シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。
誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。
かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。
その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。
王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。
だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。
「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」
その言葉はそのまま返されたもの
基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。
親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。
ただそれだけのつまらぬ人生。
ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。
侯爵子息アリストには幼馴染がいる。
幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。
可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。
それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。
父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。
幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。
平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。
うんざりだ。
幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。
彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。
比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。
アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。
まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。