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連載2

決戦の時5

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 それからずっと何年も、エイドリーとの接触はなかった。
 ただ、ふと視線を感じた時はいつも、どこか遠くから私を見ているエイドリーがいて。
 まるで私に対して「その気になればいつでも殺せる」と知らしめているようで、怖かった。
 再びエイドリーと言葉を交わしたのは、私が15になった時。
 ダニエルがアニリドに送られ、精神的に追い詰められた私が、狂ったように国民の為に力を行使しはじめた頃だった。

『ーー先日、賊がルイス陛下を襲った時に腕の健をやられまして。回復に時間がかかっては、護衛騎士としての業務に支障をきたすので、お手数をおかけしますが治療していただけますか』

 初めて会った時よりも何倍も傷が刻まれた厳めしい顔をまっすぐに私に向けて、彼がそう頼んで来た時には、思わず眉間に皺が寄った。

『私は構いませんが……いいのですか。その……ルイス陛下がお許しにならないかと』

『陛下には先に許可を取っているので、ご安心ください。……アシュリナ様が、私の傷を治したくないというのなら仕方ありませんが』

『いえ、そういうことなら治癒させていただきます。腕をお貸しください』

 どれほどひどい傷をおったとしても、今までルイス陛下の配下のものが私の力を借りようとすることはなかった。ルイス陛下が、私を嫌っているから。
 それなのに、よりによって陛下の護衛騎士であるエイドリーが治癒を頼んでくるなんて、一体何を企んでいるのだろう。
 アルバートがルイス陛下から呼び出しを受けているタイミングだったこともあり、自然と体がこわばった。
 ーーそれでも私が、治癒を求めるものを拒絶することはけしてないのだけど。

『ああ。みるみる痛みが引いていきます。……貴女の力は相変わらず素晴らしい』

『……ありがとうございます』 

『初めてアシュリナ様にお会いした時は、驚きました。貴女のこの力の目の当たりにしたこと以上に……私を見て微笑んだ幼い貴女がまるで、春の訪れを告げる妖精のように、愛らしかったから』

 無表情のまま、淡々と似合わないおべんちゃらを口にしたエイドリーは、あの獲物を狙う猟犬のような瞳を私に向けた。

『けれど、今の貴女は春の女神のようだ。……美しくなられましたね』

『……ありがとうございます。私には華がないので、そう言っていただけて嬉しいです』

 治癒が終わったので、かざしていた手を引っ込めようとしたが、不意に彼の大きな手が私の手を掴んだ。

『……エイドリー、様?』

『……貴女のその素晴らしい力を、万人の為ではなく、ルイス陛下の為にだけお使いになるつもりはありませんか?』

 その気になれば私の手首など簡単にへし折ってしまえるだろう強い力で、エイドリーが私の手を握りしめる。

『アシュリナ様。貴女がその気なら、私が陛下にお口添えします。……陛下は感情よりも実利を重んじる方。貴女が従順な駒になるならば、けして貴女を害すことはしないでしょう。どうか、賢い選択をなさってください』
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