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【第一部】五章 ロイのポーション屋さんと工房

72 エリクサーと進化2

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 パァアッとフラスコが眩く光り、蒼色の輝く液体が出来上がった。

「プラム! これ飲んで!」
『ぷるぅ……?』

 よろよろと手を伸ばし、プラムがフラスコの中身をゆっくりと体内に飲み込んだ。するとプラムの体が光り出し、いつもの薄紫色に戻った。

「治った……!?」

 だけどプラムは『エリクサー』の蒼色の輝きを体内に残したまま、まだぐったりとしている。
 これは……治り切っていない? ああ、よく見れば核にまだ傷が残っているし、膜も再生してない。

 僕は祈るような気持ちで、キラキラ輝くその軌跡を目で追っていた。

「……あれ?」

 結晶と同じ色のキラキラが、傷付いていた核をシュルシュルと包み込んでいく。そして――。

『ポヨ』

 プラムが首を上げたような仕草を見せた。

「プラム……?」
『プルル? プルッ!』

 プラムはギュスターヴさんの腕をスルリと抜けて、ピョン! と大きく飛び跳ねた。その体は傷一つなく、なんだかまだ少しキラキラしていて前より鮮やかな色にも見える。

「あらぁ……? この子、なんだか凄い魔力を持っちゃったんじゃない?」
「元々ちょっと変わっていたが……こりゃ、もう普通のスライムじゃあねえな。プラム、お前進化しちゃっただろう?」

 プラムの薄紫色の体には、蒼色が混在しキラキラと光まで包容している。もちろん、丸見えだった核は輝く蒼に包まれ、しっかり隠されている。

 僕の脳裏には『チカチカ』と何かが笑い掛けているような、そんな不思議な感覚が届いている。一人じゃない。大勢の、なんだか懐かしい――。

 もしかして、前世むかしの僕の仲間たち……?

 僕はじっとプラムを見つめる。

 プラムは自分を覗き込む大人たちを見上げ、『プルルルル』と楽しそうに震え笑うと、僕にぺとん! と飛びついた。
 すると、プラムから『ありがとう』という声が聞こえた気がした。

「え……プラム? 今のプラムが言ったの!?」
『くぷぷ。そうだよ!』

 プラムはプルプル震えながら、僕だけに聞こえる声でくふくふと笑った。


 ◆


 プラムの無事を確認したら、次は放置していた若旦那さんだ。

 あの人は麻痺毒で動けないし、喋れない。だけど僕はもう近寄りたくなくて、壁際でプラムを抱え遠巻きにしていた。あとは大人二人に任せよう。


「ふぅん? 『影縫い石』に『スライム専用斬り』『隷属のコテ』ねぇ……。物騒だわぁ?」

 ベアトリスさんは、麻痺して動けない若旦那さんを転がしたまま、珊瑚色の唇をニィッと弓なりにさせ呟いた。


『影縫い石』は、街で買える普通の錬金魔道具だ。だけど『スライム専用斬り』に『隷属のコテ』なんて錬金魔道具は聞いたことがない。
 多分、迷宮で見つかった古王国時代の『迷宮遺物』だ。

 でも、迷宮遺物の価値は高い。お値段も高い。
 滅多に見つからないし、動くものは稀。そんな、普通はなかなか手にできないお宝だ。

「でも、そんなものを若旦那さんが持ってるなんて……」
『だれかに、わたされたんじゃない?』

 プルンと、プラムが腕の中で揺れた。
 そうだ。若旦那さん、あの魔道具を持ち出した時――。

『な~んで『スライム用のナイフ』なんかと思ったが、そのスライム意外と強いらしいな? でも、もう関係ないな! あっはは!』

 たしか、そんなふうに言っていた!

 そっか、そもそも若旦那さんたちは、どこからか『粗悪品の古文書レシピ』を手に入れたんだった。

「同じところから……?」
『どこからかなあ?』

「まだ何か裏があるのかな……嫌だなあ」

 俯いてしまう。すると、プラムがにゅっと手を伸ばし頬に触れた。

『だいじょうぶだよ、ロイ。まもるからね』

 プルン! ぺたぺた。
 プラムは体の中の光りを揺らし、くふくふ笑いながら僕を勇気づけてくれた。


「ぐ……ぐぅ!」

 そのうめき声に、僕はハッと顔を上げた。
 若旦那さんの横には、女王様然としたベアトリスさんが立っている。

「ぐぅ! うぅっ!!」
「やぁね。『ぐぅ』じゃないでしょお? 『ぶひぃ』って言うのよ、お馬鹿さん?」

 ガツン! ベアトリスさんの尖った爪先が、転がる若旦那さんのおとがいにめり込んだ。

 さすがに痛そうで、うわぁって思い見ていると、ギュスターヴさんが若旦那さんをヒョイと肩に担ぎ上げた。

「ちょっとぉ」
「ベアトリス、遊ぶのは後にしろ。一旦街へ戻って、コイツを衛兵に渡してから存分に遊べばいい」

 横顔のギュスターヴさんは、眼帯のせいでどんな目で言っているのかはよく見えない。だけど口元はニヤリと上がっているように見える。

「そうね。色々気になることがあるから、たぁっぷり聞かなくちゃ。うふふ」

 うん。僕には向かないや。あとのことは大人たちに任せよう!


 そして僕らはいつもの壁の隙間から脱出し、街道へ出ると――。

「ロイ!!」

 馬に乗った衛兵たちの中から、リディが大きな声を上げた。

「えっ、リディ!?」

 リディは乗せてもらっていた馬から飛び降りると、僕へ駆け寄り、両手を広げて抱きついた。
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