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第四十三話 ルクディアさん

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 今、オクタヴィノール殿下と一番確実に会えそうなところ。

 それは、わたしが十八歳になって以降に開催される王室の舞踏会。

 わたしは今の三月時点で十七歳。

 五月で十八歳になる。

 わたしは、もともと十八歳からの参加予定だった。

 わたしが参加しようと思っているのは、七月開催の舞踏会、

 後四か月を切っているところだ。

 この間に、この学校内での評判を良くしておかなくてはいけない。

 今の状況では、これから努力しても間に合うかどうか、わからない。

 わたしの出発点である人生を振り返ってみても、やや短気な性格なところがあった。

 心穏やかな性格とまではいえなかった。

 体が弱かったことが、心を穏やかにする上での妨げになっていたことが、理由としてはあげられる。

 もちろん、転生一度目や、今までの人生よりはましだとは言える。

 ただ、これからの人生においては、もともとわたしがもっているやや短気な性格が、表面に出てくると、

「結局リディテーヌ様は傲慢で怖い人」

 と思われてしまい。評判を良くしようとする努力が無駄になってしまう可能性がある。

 そう思うと、前途は厳しいもののように思える。

 気が滅入りそうになってくる。

 しかし、わたしはすぐに思い直す。

 わたしは今を生きている人間だ。

 今までの転生、そして今、までの人生がどうであっても、これからは、心穏やかな人生を歩んでいかなくてはならない。

 わたしがそう思っていると、

「リディテーヌさん、ごきげんよう」

 という声が聞こえてくる。

 ブルトフィーノ公爵家令嬢ルクディアさんだ。

 取り巻きの女性を二人従えている。

「あら、今日も一人でここに座っておられますの? 周囲の方々は楽しそうにおしゃべりをしているというのに。相変わらず人望がなくお気の毒な方ですわ。わたしはこうして、いつも二人を連れておりますのに」

 ルクディアさんはそう言うと、わたしをあざ笑った。

 取り巻きの二人も、

「ルクディア様に比べて、なんとかわいそうなことでしょう」

 と一緒になって笑う。

 それだけではなく、ルクディアさんは。

「わたしはあなたの何倍も美しい。この王国でも指折りの存在と言っていいわ。そのことをきちんと認めなさい。そ
 して、今すぐにわたしの軍門に降りなさい」

 と言ってくる。

 二人も

「ルクディア様は誰よりも美しいお方。そのお方とあなたを比べること自体、おそれ多いこと。ルクディア様がおっしゃるように、今すぐ軍門に降るべきだわ」

 と言ってきた。

 学校では毎日、朝、こうしてルクディアさんたちはリディテーヌに嫌味を言いにきていた。

 今までのリディテーヌだと、

「わたしは一人でいるのが好き。それで毎日十分満足している。それをあなたに言われる筋合いはないわ。それに、美しさはわたしの方がはるかに上なの。わたしほどの美しさを持った女性は、そう多くはないでしょうね」

 と言い返し、ルクディアさんたちをあざ笑っていた。

 その度に、ルクディアさんたちは腹を立てる。

 そして、ルクディアさんは、

「わたしこそ美しい!」

 と言い返すのだけれど、それに対しリディテーヌは、

「わたしの方こそ美しい!」

 と言い返して、応戦するということを続けてきた。

 今までのリディテーヌであれば、言い返すことをしなければ、ルクディアさんに負けてしまうという意識がいつもあった。

 それはルクディアさんの方も同じだったのだろう。

 もともとボードリックス公爵家とブルトフィーノ公爵家は家格がほぼ同格。

 家どうしはライバル関係にあった。

 リディテーヌとルクディアさんの仲が悪いのも、この関係が影響していると言っていい。

 リディテーヌも嫌味を言うタイプの人間だったのだけれど、ルクディアさんも嫌味を言うタイプの人間だ。

 しかし、違いもある。

 今までのリディテーヌの方は、周囲の多くの人たちに嫌味を言っていたのに対して、ルクディアさんの方は嫌味を言う人間はリディテーヌと数人程度で、それほど多くはなかった。

 これが、学校内での評判の差につながっていた。

 ルクディアさんの評判は、リディテーヌほどは悪くなかったのだ。

 とにかく、ここで、今までのように言い返してはいけない。

 ルクディアさんとわたしが言い返し続けても、どちらが勝利するということはない。

 むなしいだけだ。

 穏やかに、穏やかに接していこう。

 わたしはそう思うのだった。
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