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22:王子に愛される
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ロザリンド=イースが一つ目の魔獣を祓い、国中が聖女を讃えた日の深夜。
王宮の一室で、二人の男が向かい合って座っていた。二人の間にあるのは小さな燭台が一つきり。微かに炎が揺れて、蝋が溶け落ちていく。
「結局、お前の思い通りというわけか、シルエス」
ジェラルドが口火を切った。対するシルエスは底の見えない微笑みで受ける。
「どういうことかな?」
ジェラルドは鼻を鳴らして足を組む。
「ロザリンドを一度聖女から解任して鍛え直すことで、魔導具でも祓えない魔獣を祓わせる。魔獣の秘密は暴かれ、私腹を肥やしていた宰相は身分を剥奪した上国外追放。抹消された第二王子は、事件解決に貢献したことで<黄昏の宮>から解放──ついでに砂漠の国へ行かせて情報収集も兼ねる。全部シルエスが描いた筋書きだろ」
シルエスが悲しげに眉を下げる。膝の上で両手を握り、目を伏せた。
「まさか、それは買いかぶりというものだよ。僕だって、何もかもを操れるわけじゃない」
「そう言って九割方は予定通りだろうが」
「そうだね。でも、最も重要な部分は結局僕の思い描いた通りにはならなかった」
風が窓を揺らし、耳障りな音を立てた。雲が流れ、月を覆い隠す。シルエスの緑瞳が暗闇に輝く。
「偽聖女を弾劾し、魔獣を祓った功績で、ロザリンド=イースは聖女に復帰。第一王子は改めて婚約を申し込み、二人はいつまでも幸せに暮らしました……なんてね」
ジェラルドはシルエスを静かに見つめ返す。絶対に押し負けるわけにはいかなかったし、そんなつもりはさらさらなかった。
二人の間に沈黙が落ちる。やがてシルエスが王子の仮面をつけた。
「君がロザリンドを気に入るなんて予想外だったし、ロザリンドが君を選ぶこともまた、僕の手の及ぶところじゃなかった。それだけだよ。──ジェラルド、君は確かに、一つのことを成し遂げたんだ。おめでとう」
ジェラルドは苦いものを飲んだように顔をしかめた。
「……お前、あんまりロザリンドに近づくなよ」
「どうして? 僕はロージーのよい友人だよ。……彼女にとってはね」
「俺はロザリンドを手離す気はないからな」
「そうなの? ところで、宰相の職が空いたんだけど、適任者がいないんだよ。ジェラルド、座る気ない?」
「本気でいい加減にしろよ」
■■■
のちに偽聖女事件として史記に残される騒動は、こうして幕を下ろした。その後数年間、宰相の座は空白だったという。しかし、第一王子の戴冠と同時に、砂漠の国からやって来た正体不明の男がその職を務め、未来予知と見紛う恐るべき手腕を発揮して国王をよく助けた。王と宰相は仕事の上では対立することはあっても、私生活では大変親しかったという。
なお、宰相の妻は慈悲の聖女と呼ばれ、後年まで人々を守ることに身を捧げた聡明な女性として知られている。その功績を称え、王が手ずから作りあげたという薔薇には彼女の名が付けられた。──いわく、ロザリンド、と。
<了>
王宮の一室で、二人の男が向かい合って座っていた。二人の間にあるのは小さな燭台が一つきり。微かに炎が揺れて、蝋が溶け落ちていく。
「結局、お前の思い通りというわけか、シルエス」
ジェラルドが口火を切った。対するシルエスは底の見えない微笑みで受ける。
「どういうことかな?」
ジェラルドは鼻を鳴らして足を組む。
「ロザリンドを一度聖女から解任して鍛え直すことで、魔導具でも祓えない魔獣を祓わせる。魔獣の秘密は暴かれ、私腹を肥やしていた宰相は身分を剥奪した上国外追放。抹消された第二王子は、事件解決に貢献したことで<黄昏の宮>から解放──ついでに砂漠の国へ行かせて情報収集も兼ねる。全部シルエスが描いた筋書きだろ」
シルエスが悲しげに眉を下げる。膝の上で両手を握り、目を伏せた。
「まさか、それは買いかぶりというものだよ。僕だって、何もかもを操れるわけじゃない」
「そう言って九割方は予定通りだろうが」
「そうだね。でも、最も重要な部分は結局僕の思い描いた通りにはならなかった」
風が窓を揺らし、耳障りな音を立てた。雲が流れ、月を覆い隠す。シルエスの緑瞳が暗闇に輝く。
「偽聖女を弾劾し、魔獣を祓った功績で、ロザリンド=イースは聖女に復帰。第一王子は改めて婚約を申し込み、二人はいつまでも幸せに暮らしました……なんてね」
ジェラルドはシルエスを静かに見つめ返す。絶対に押し負けるわけにはいかなかったし、そんなつもりはさらさらなかった。
二人の間に沈黙が落ちる。やがてシルエスが王子の仮面をつけた。
「君がロザリンドを気に入るなんて予想外だったし、ロザリンドが君を選ぶこともまた、僕の手の及ぶところじゃなかった。それだけだよ。──ジェラルド、君は確かに、一つのことを成し遂げたんだ。おめでとう」
ジェラルドは苦いものを飲んだように顔をしかめた。
「……お前、あんまりロザリンドに近づくなよ」
「どうして? 僕はロージーのよい友人だよ。……彼女にとってはね」
「俺はロザリンドを手離す気はないからな」
「そうなの? ところで、宰相の職が空いたんだけど、適任者がいないんだよ。ジェラルド、座る気ない?」
「本気でいい加減にしろよ」
■■■
のちに偽聖女事件として史記に残される騒動は、こうして幕を下ろした。その後数年間、宰相の座は空白だったという。しかし、第一王子の戴冠と同時に、砂漠の国からやって来た正体不明の男がその職を務め、未来予知と見紛う恐るべき手腕を発揮して国王をよく助けた。王と宰相は仕事の上では対立することはあっても、私生活では大変親しかったという。
なお、宰相の妻は慈悲の聖女と呼ばれ、後年まで人々を守ることに身を捧げた聡明な女性として知られている。その功績を称え、王が手ずから作りあげたという薔薇には彼女の名が付けられた。──いわく、ロザリンド、と。
<了>
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ロザリンドがすごい人間味があって読み応えがありました。
力に目覚めた時とか、魔獣に襲われて死にかけた時とかほんとうるっと来ました。
面白かったです!