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1章
思い出カメラ
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川沿いを戻り、凛音とリュセラに合流した。俺は早速、スマホについて説明する。充電が保てる事と、写真を送って位置を探ろうと伝える。
「そんなことが出来るんだ! 私もカメラのトライしたくなってきた」
食い気味な凛音を見たリュセラは俺を睨んだ。
「魔法だってできる!」
「魔法も教えてね」
「それはいいとして。スマホ、電波を飛ばしてくれるか?」
「いいよ!」
スマホは両手の指先を頭に当てて念じる。それで電波が出ているのかは俺には判別出来ないのだが。
「カメラに通じた。送ってくれた写真を写すね」
胸を張ったスマホの体に写し出されたのは、周りに草繁る川だった。流れている川は俺たちの隣に有る川と同じ様子だ。
「川ってことは近いね」
「でも、これだけじゃ方向は分からないな」
「いいや良くみろ、草の背が高い。恐らくここよりも水が多い場所だ」
「成る程、大きな水源の近くか。ここと比較すれば分かるな。上流の方に行けばいいのか」
「何か写っているよ!」
凛音が見つけたものを指差した。写真の端の方に写っていたのは大きな魚の顔だった。川魚にしては異様に大きく、体は鱗に覆われているのに中のものが透けている。中には魚が沢山入っていた。
「魚か? 見たことない種族だ」
「胴体が透けているなら内蔵まで見えるはず、つまりこれは魚じゃない」
俺は川に目を向けた川が繋がっているから、来るはずだ。数秒経つと魚が流れてきた、それもデカイ。写真では分からなかったがサイズ感から川幅の半分はある大きな体。体の中に魚が暴れているのか、水しぶきによって目立っている。
リュセラが魚らしきものを掴み上げると。中に入った魚が飛沫を上げて跳ね回る。
魚を囲う鱗に見えたのはネットだ。下の方は閉じていて、頭は開けるようにネットの口が有る。そこに魚みたいな顔が付いていた。
「これは投網」
「ネットトラップです」
「なぜ、魚に成ったの?」
「食べるためです」
「食事するんだ、すごい!」
「私たちは体を得たと同時に命に成ったので、皆様と同じように生活します」
「変身先に寄るけれどね。大漁じゃない、リュセラ」
リュセラの隣から鍋が擬人化してない包丁を取り出してリュセラに渡した。
「早速干すために切ろう」
「そうだな。この先の食料を確保しとかないと……。って、急がせてくれカメラが心配なんだ」
「でも、持ち歩いた食料も無くなるかもだし」
「いや、悠人の気持ちも分かる。急ごう」
「いいのか、リュセラ」
「ああ、カメラという道具も見せてもらいたいし」
「いいぞ、先に注意点を教えとくか」
異世界の人間であるリュセラはカメラの存在も知らないだろう。彼はものが好きだし、興味を持ってくれるのは嬉しい。今はカメラが無いのだが。
「急ぐんじゃないの?」
「そうだった……」
凛音は鞄から薄い円を出した。中心を押し出し広げるとバケツになる。
「水を汲んで、魚を入れとこうよ」
「素晴らしい道具だな、そっちの世界に興味が出た」
「バケツを持ちながら歩くのか?」
「違うよ。よろしくバケツ」
手に持ったバケツを凛音が地面に置く、すると足が生える。トコトコ歩くと自ら水を汲み上げた。リュセラはバケツに魚を入れる。
「こっちの世界、便利だな」
「道具の意思にも寄るが。凛音の道具はかなり親しいみたいだ」
「手入れしてるからね。 時々」
「それでいいのか……。何か色々持っていて、手が回らないのが想像できる」
「トライ好きだから!」
問題も解決した頃に、スマホに更に画像が写し出された。ブレた写真だ。全体的にボヤけていて分からないが、背景に黄色があり中央にあの男アライがこちらに向けて手を伸ばしている。
「「これは!」」
「何かされているみたいだな、ここは慎重に機を伺うんだ」
「それじゃカメラが! カメラのレンズは傷つき易いんだ」
レンズは叩かれただけで、割れてしまう場合もある。
「そうよ、急ぎましょう!」
「凛音、ありがとう」
「金貨もあるし!」
なんで? 俺は写真の背景に目をやった。確かに背景には円状のものが乱雑に積み重なっていて、それぞれ模様がある。
財宝。それは冒険者が探す最大の目的。貧困な俺の家を建て直せるかもしれない。
私欲が芽生えたときに思い出したのは、初めてカメラを貰った時のことだった。父さんが買ってくれた。貰ったのは別に特別な日でもなく、そこそこの値段のカメラ。そこには確かに思い出があって。カメラの使い方を教わる前に父さんは離婚した。それでも大切な思い出。
「慎重に動こう」
「なんで? 金貨を持って逃げられちゃうかも知れないのに」
「敵は道具を持ってない、金貨を見つけた時点で足が止まっているはず」
俺たちは早足で進み。川を辿ると大きな部屋への入り口を見つけた。中には灯りが見える。洞窟内で使うランプだろう。そしてランプにしては輝きが強い。この部屋だ。
俺が慎重に覗く。相手を刺激しないように、機会を見て助けるんだ。そして目に入ったのは。
「た、助けてくれえー」
ボコボコにされたアライと、奴の胸ぐらを掴み拳を振り上げている少女だった。メイド服みたいな衣装に肩までの髪、片目が髪の毛で隠れていて時折髪の毛の隙間から黒い瞳が覗く。
近くには沢山の金貨。そして俺の鞄が開け放たれている。
少女はこちらに気がついて俺に手を振った
「悠人さま、助けに来てくれたんですね!」
「アライを助けに来たみたいになったな……。とにかく無事で良かった」
「私、カメラです」
カメラはアライを手放し、俺の方へと走ってきた。
「レンズは無事か?」
「はい! あいつに鞄を開けられた瞬間に変身してぶん殴ったので」
「乱暴過ぎだろ……。大事な体(レンズ)なんだ。もう少し穏やかにな。今回は助かった」
「私の時と対応違わない?」
スマホが俺に詰め寄る。
「スマホは、落として画面ひび割れた時も修理したら治ったし」
「軽度だったから! 次は気を付けてよね」
「分かったってば」
スマホは俺の手を取った。そして姿を変えて元のスマホに戻る。スマホをポケットにしまった。
「あの、私は使ってくれないの?」
「そうだな、丁度使い時だ」
彼女はカメラの姿に戻った。受け取った俺はカメラのファインダー越しに凛音とリュセラを見た。
部屋一面に輝きがある、俺はカメラの明るい場所を撮るモードに変えるほどの黄金が部屋に満ちている。この金貨はどこの物か分からない。リュセラが言うに純金だ。凛音が金貨にダイブして体で金貨をトライしている。
俺は落ち着く為に、鞄を拾い上げる。中身は無事だ、拾った分を含めて取り戻せた。そして、コーヒーをカップに注ぎシナモンを加えて飲むと安心の味がした。
知らぬ間に大所帯となった俺たちは大量の宝を見つけて喜んだ。だが、俺たちは知らない、こっそりと動く金貨を。
「そんなことが出来るんだ! 私もカメラのトライしたくなってきた」
食い気味な凛音を見たリュセラは俺を睨んだ。
「魔法だってできる!」
「魔法も教えてね」
「それはいいとして。スマホ、電波を飛ばしてくれるか?」
「いいよ!」
スマホは両手の指先を頭に当てて念じる。それで電波が出ているのかは俺には判別出来ないのだが。
「カメラに通じた。送ってくれた写真を写すね」
胸を張ったスマホの体に写し出されたのは、周りに草繁る川だった。流れている川は俺たちの隣に有る川と同じ様子だ。
「川ってことは近いね」
「でも、これだけじゃ方向は分からないな」
「いいや良くみろ、草の背が高い。恐らくここよりも水が多い場所だ」
「成る程、大きな水源の近くか。ここと比較すれば分かるな。上流の方に行けばいいのか」
「何か写っているよ!」
凛音が見つけたものを指差した。写真の端の方に写っていたのは大きな魚の顔だった。川魚にしては異様に大きく、体は鱗に覆われているのに中のものが透けている。中には魚が沢山入っていた。
「魚か? 見たことない種族だ」
「胴体が透けているなら内蔵まで見えるはず、つまりこれは魚じゃない」
俺は川に目を向けた川が繋がっているから、来るはずだ。数秒経つと魚が流れてきた、それもデカイ。写真では分からなかったがサイズ感から川幅の半分はある大きな体。体の中に魚が暴れているのか、水しぶきによって目立っている。
リュセラが魚らしきものを掴み上げると。中に入った魚が飛沫を上げて跳ね回る。
魚を囲う鱗に見えたのはネットだ。下の方は閉じていて、頭は開けるようにネットの口が有る。そこに魚みたいな顔が付いていた。
「これは投網」
「ネットトラップです」
「なぜ、魚に成ったの?」
「食べるためです」
「食事するんだ、すごい!」
「私たちは体を得たと同時に命に成ったので、皆様と同じように生活します」
「変身先に寄るけれどね。大漁じゃない、リュセラ」
リュセラの隣から鍋が擬人化してない包丁を取り出してリュセラに渡した。
「早速干すために切ろう」
「そうだな。この先の食料を確保しとかないと……。って、急がせてくれカメラが心配なんだ」
「でも、持ち歩いた食料も無くなるかもだし」
「いや、悠人の気持ちも分かる。急ごう」
「いいのか、リュセラ」
「ああ、カメラという道具も見せてもらいたいし」
「いいぞ、先に注意点を教えとくか」
異世界の人間であるリュセラはカメラの存在も知らないだろう。彼はものが好きだし、興味を持ってくれるのは嬉しい。今はカメラが無いのだが。
「急ぐんじゃないの?」
「そうだった……」
凛音は鞄から薄い円を出した。中心を押し出し広げるとバケツになる。
「水を汲んで、魚を入れとこうよ」
「素晴らしい道具だな、そっちの世界に興味が出た」
「バケツを持ちながら歩くのか?」
「違うよ。よろしくバケツ」
手に持ったバケツを凛音が地面に置く、すると足が生える。トコトコ歩くと自ら水を汲み上げた。リュセラはバケツに魚を入れる。
「こっちの世界、便利だな」
「道具の意思にも寄るが。凛音の道具はかなり親しいみたいだ」
「手入れしてるからね。 時々」
「それでいいのか……。何か色々持っていて、手が回らないのが想像できる」
「トライ好きだから!」
問題も解決した頃に、スマホに更に画像が写し出された。ブレた写真だ。全体的にボヤけていて分からないが、背景に黄色があり中央にあの男アライがこちらに向けて手を伸ばしている。
「「これは!」」
「何かされているみたいだな、ここは慎重に機を伺うんだ」
「それじゃカメラが! カメラのレンズは傷つき易いんだ」
レンズは叩かれただけで、割れてしまう場合もある。
「そうよ、急ぎましょう!」
「凛音、ありがとう」
「金貨もあるし!」
なんで? 俺は写真の背景に目をやった。確かに背景には円状のものが乱雑に積み重なっていて、それぞれ模様がある。
財宝。それは冒険者が探す最大の目的。貧困な俺の家を建て直せるかもしれない。
私欲が芽生えたときに思い出したのは、初めてカメラを貰った時のことだった。父さんが買ってくれた。貰ったのは別に特別な日でもなく、そこそこの値段のカメラ。そこには確かに思い出があって。カメラの使い方を教わる前に父さんは離婚した。それでも大切な思い出。
「慎重に動こう」
「なんで? 金貨を持って逃げられちゃうかも知れないのに」
「敵は道具を持ってない、金貨を見つけた時点で足が止まっているはず」
俺たちは早足で進み。川を辿ると大きな部屋への入り口を見つけた。中には灯りが見える。洞窟内で使うランプだろう。そしてランプにしては輝きが強い。この部屋だ。
俺が慎重に覗く。相手を刺激しないように、機会を見て助けるんだ。そして目に入ったのは。
「た、助けてくれえー」
ボコボコにされたアライと、奴の胸ぐらを掴み拳を振り上げている少女だった。メイド服みたいな衣装に肩までの髪、片目が髪の毛で隠れていて時折髪の毛の隙間から黒い瞳が覗く。
近くには沢山の金貨。そして俺の鞄が開け放たれている。
少女はこちらに気がついて俺に手を振った
「悠人さま、助けに来てくれたんですね!」
「アライを助けに来たみたいになったな……。とにかく無事で良かった」
「私、カメラです」
カメラはアライを手放し、俺の方へと走ってきた。
「レンズは無事か?」
「はい! あいつに鞄を開けられた瞬間に変身してぶん殴ったので」
「乱暴過ぎだろ……。大事な体(レンズ)なんだ。もう少し穏やかにな。今回は助かった」
「私の時と対応違わない?」
スマホが俺に詰め寄る。
「スマホは、落として画面ひび割れた時も修理したら治ったし」
「軽度だったから! 次は気を付けてよね」
「分かったってば」
スマホは俺の手を取った。そして姿を変えて元のスマホに戻る。スマホをポケットにしまった。
「あの、私は使ってくれないの?」
「そうだな、丁度使い時だ」
彼女はカメラの姿に戻った。受け取った俺はカメラのファインダー越しに凛音とリュセラを見た。
部屋一面に輝きがある、俺はカメラの明るい場所を撮るモードに変えるほどの黄金が部屋に満ちている。この金貨はどこの物か分からない。リュセラが言うに純金だ。凛音が金貨にダイブして体で金貨をトライしている。
俺は落ち着く為に、鞄を拾い上げる。中身は無事だ、拾った分を含めて取り戻せた。そして、コーヒーをカップに注ぎシナモンを加えて飲むと安心の味がした。
知らぬ間に大所帯となった俺たちは大量の宝を見つけて喜んだ。だが、俺たちは知らない、こっそりと動く金貨を。
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