16 / 53
1章
草原の脅威3
しおりを挟む
俺は崖の下から上を見上げた。縄ばしごを使って慎重に降りてきたが、崖の岩肌がむき出しになっており上部には茂った草が生い茂っている。慣れない人には登りにくいだろう。
「俺とセレストは上れるけど他の人はどうするか」
「遠回りをすれば抜け道も有るのですが、皆さん疲れて、食料にも飢えています」
「体力の無い人は縄ばしごでもキツイか」
「話は聞かせて貰ったぜ!」
崖の上から声がして、黄金色に輝く何かが降りてきた。それはゴールドボーイだ。彼が背負っていた分身を出して、ぶら下がりながら降りてきたのだ。
「俺をアーツにしないか?」
「ゴールドボーイ、どうやって引き上げる?」
「何だって出来るさ、俺は伝説の宝だからな。分身して足場になる、後は引き上げるだけだ」
「分かった、俺のアーツに……」
「止めておけ、悠人」
縄ばしごを伝って降りてきたのはリュセラだ。
「ゴールドボーイは悪人しか狙わないが窃盗犯だ。町に入った時にバレたら追い出されてしまう」
「そうなるのか……。でも」
困っている彼らを置き去りには出来ない。それに、ゴールドボーイは悪い奴じゃない。頼むべきだ。
「止めとこうぜ、悠人。お前には守るものが有るからな」
ゴールドボーイは笑った。軽い冗談を言っただけのような。けれど寂しげな笑顔。彼は親しみやすい口調の割には大人に振る舞っているのだ。
「ごめんな、ゴールドボーイ」
「なに、俺なら一人でも出来るさ」
ゴールドボーイは金貨の姿になり、分身をすると場を埋め尽くすほどの数になる。そして薄く広がってゴンドラとなった。
「では、お願いします」
人々はゴンドラに乗り全員揃って、崖の上に上がった。
「お、戻ってきた! すごいね、なんでも出来ちゃうみたい。欲しい!」
「止めときなお嬢ちゃん。俺は自由がいいんだ、アートであるために」
駆け寄ってきた凛音の誘いを、ゴールドボーイは断った。
そして、乗っている全員を下ろした後に人の形に戻る。俺はゴールドボーイの事が引っ掛かっていたので声をかける。
「ゴールドボーイ、無理してないか?」
「何て事はないさ、悠人。俺は伝説の宝だからな!」
ゴールドボーイはリュセラの言葉を気にしている。凛音の誘いを断ったのは気遣いなのだ。
リュセラも登ってきて、助けた人々と合流した。代表してセレストが頭を下げる。
「助力ありがとうございました。私はセレストと申します」
凛音とリュセラも自己紹介をした。
「なあ、リュセラ。彼女らは困っている。連れていけないか?」
「こんな人数無理に決まっている!」
「私からもお願い!」
「う……。でもだ。ダンジョンは危険が一杯なんだ凛音。勇者達だって幾度となく動けなくなった」
リュセラの言い分は最もだ。ここには魔物の他にも悲劇教団がいたり、障害はいくらでもある。凛音の持っていた装備も一人、多くて二人までが限度の装備だ。
「ここで助けないと死んでしまうかもしれないぞ」
「自然の摂理だ。食料くらいなら分けてやれてもだ。それに悠人、自分は出来るのか?」
彼らを助けたい気持ちから発した言葉。でも、今の俺には無理だった。装備もない、知識もそれほど持って居ない。だって俺はかつて憧れた冒険者の夢を諦めたから。
「悪かった。リュセラの言う通りだ。俺たちには助ける力がない。共倒れになるのはダメだ」
妹を助けるに俺は、足を治す方法を見つけて生きて帰らないと。凛音だって。
俺が凛音の姿を見ると、憤りに涙を見せていた。少しの間黙してから一言、リュセラに告げる。
「セレストさんは出来たのに、リュセラは出来ないの?」
「やってやる! 僕のが上手く出来るからな!」
凛音はリュセラの扱いが上手くなっている。意気込んだリュセラは人々に、水と食料を配り出した。
「ありがとう、凛音。俺は結局、無責任だった……」
「仕方ないって。私も悠人も素人みたいなもんだから」
「すごいな凛音は。諦めないで、なんでも成しちゃう気がする」
「それは誰でもそうだよ。諦めないなら何度でもトライできる。トライし続ければ叶うもん」
「俺は、そこまでは出来ないな」
「理由があったら止まって良いの。トライは疲れるし、色んな問題が起こるから。誰もあなたを責めないよ」
「ありがとう」
全員に食料を配り終えたリュセラは、彼女らを見渡せる位置に立った。
「町までは後少しだ。僕も集団で動くのは初めてだが、ある程度知識の範囲で指示をする」
全員は食事をしながら話を聞いてくれた。
「三列に分ける。一列の先頭に僕、二列に凛音、三列に悠人をそれぞれ隊長として周りを見ながら動いてくれ」
「私はどうすれば良いでしょうか?」
「セレストは殿を頼めるか?」
殿とは最後尾の事だ。全体を俯瞰する隊長の次に大変な役。
「分かりました」
「では、進もう」
リュセラは道を見ながら進んだ。歩調も後ろに合わせてゆっくりになり、その分警戒をした。
トラバサミに鍋、ゴールドボーイが周囲の警戒に当たってくれる。
そんな中でアライだけが居心地が悪そうだ。首輪に繋がれているのもあるが、やたら後ろを振り向いている。彼は心の友(ミント仲間)なので助けてやりたい。でも、なにに怯えているのやら?
「俺とセレストは上れるけど他の人はどうするか」
「遠回りをすれば抜け道も有るのですが、皆さん疲れて、食料にも飢えています」
「体力の無い人は縄ばしごでもキツイか」
「話は聞かせて貰ったぜ!」
崖の上から声がして、黄金色に輝く何かが降りてきた。それはゴールドボーイだ。彼が背負っていた分身を出して、ぶら下がりながら降りてきたのだ。
「俺をアーツにしないか?」
「ゴールドボーイ、どうやって引き上げる?」
「何だって出来るさ、俺は伝説の宝だからな。分身して足場になる、後は引き上げるだけだ」
「分かった、俺のアーツに……」
「止めておけ、悠人」
縄ばしごを伝って降りてきたのはリュセラだ。
「ゴールドボーイは悪人しか狙わないが窃盗犯だ。町に入った時にバレたら追い出されてしまう」
「そうなるのか……。でも」
困っている彼らを置き去りには出来ない。それに、ゴールドボーイは悪い奴じゃない。頼むべきだ。
「止めとこうぜ、悠人。お前には守るものが有るからな」
ゴールドボーイは笑った。軽い冗談を言っただけのような。けれど寂しげな笑顔。彼は親しみやすい口調の割には大人に振る舞っているのだ。
「ごめんな、ゴールドボーイ」
「なに、俺なら一人でも出来るさ」
ゴールドボーイは金貨の姿になり、分身をすると場を埋め尽くすほどの数になる。そして薄く広がってゴンドラとなった。
「では、お願いします」
人々はゴンドラに乗り全員揃って、崖の上に上がった。
「お、戻ってきた! すごいね、なんでも出来ちゃうみたい。欲しい!」
「止めときなお嬢ちゃん。俺は自由がいいんだ、アートであるために」
駆け寄ってきた凛音の誘いを、ゴールドボーイは断った。
そして、乗っている全員を下ろした後に人の形に戻る。俺はゴールドボーイの事が引っ掛かっていたので声をかける。
「ゴールドボーイ、無理してないか?」
「何て事はないさ、悠人。俺は伝説の宝だからな!」
ゴールドボーイはリュセラの言葉を気にしている。凛音の誘いを断ったのは気遣いなのだ。
リュセラも登ってきて、助けた人々と合流した。代表してセレストが頭を下げる。
「助力ありがとうございました。私はセレストと申します」
凛音とリュセラも自己紹介をした。
「なあ、リュセラ。彼女らは困っている。連れていけないか?」
「こんな人数無理に決まっている!」
「私からもお願い!」
「う……。でもだ。ダンジョンは危険が一杯なんだ凛音。勇者達だって幾度となく動けなくなった」
リュセラの言い分は最もだ。ここには魔物の他にも悲劇教団がいたり、障害はいくらでもある。凛音の持っていた装備も一人、多くて二人までが限度の装備だ。
「ここで助けないと死んでしまうかもしれないぞ」
「自然の摂理だ。食料くらいなら分けてやれてもだ。それに悠人、自分は出来るのか?」
彼らを助けたい気持ちから発した言葉。でも、今の俺には無理だった。装備もない、知識もそれほど持って居ない。だって俺はかつて憧れた冒険者の夢を諦めたから。
「悪かった。リュセラの言う通りだ。俺たちには助ける力がない。共倒れになるのはダメだ」
妹を助けるに俺は、足を治す方法を見つけて生きて帰らないと。凛音だって。
俺が凛音の姿を見ると、憤りに涙を見せていた。少しの間黙してから一言、リュセラに告げる。
「セレストさんは出来たのに、リュセラは出来ないの?」
「やってやる! 僕のが上手く出来るからな!」
凛音はリュセラの扱いが上手くなっている。意気込んだリュセラは人々に、水と食料を配り出した。
「ありがとう、凛音。俺は結局、無責任だった……」
「仕方ないって。私も悠人も素人みたいなもんだから」
「すごいな凛音は。諦めないで、なんでも成しちゃう気がする」
「それは誰でもそうだよ。諦めないなら何度でもトライできる。トライし続ければ叶うもん」
「俺は、そこまでは出来ないな」
「理由があったら止まって良いの。トライは疲れるし、色んな問題が起こるから。誰もあなたを責めないよ」
「ありがとう」
全員に食料を配り終えたリュセラは、彼女らを見渡せる位置に立った。
「町までは後少しだ。僕も集団で動くのは初めてだが、ある程度知識の範囲で指示をする」
全員は食事をしながら話を聞いてくれた。
「三列に分ける。一列の先頭に僕、二列に凛音、三列に悠人をそれぞれ隊長として周りを見ながら動いてくれ」
「私はどうすれば良いでしょうか?」
「セレストは殿を頼めるか?」
殿とは最後尾の事だ。全体を俯瞰する隊長の次に大変な役。
「分かりました」
「では、進もう」
リュセラは道を見ながら進んだ。歩調も後ろに合わせてゆっくりになり、その分警戒をした。
トラバサミに鍋、ゴールドボーイが周囲の警戒に当たってくれる。
そんな中でアライだけが居心地が悪そうだ。首輪に繋がれているのもあるが、やたら後ろを振り向いている。彼は心の友(ミント仲間)なので助けてやりたい。でも、なにに怯えているのやら?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる