ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 ──恋人を、共有?

 ふるりと震えた奈津の肩に、温かいタオルが滑った。

「……そんな」
「歪んでると思うか? ……そうだよな。でも俺は、根っこの寂しさが分かる気がするんだよ」
「………」
「あの人はメルローズの社長の息子でな、3人兄弟の末っ子なんだが……上の2人とは母親が違うんだ。妾腹って分かるか? 愛人の、子どもだよ」
「………」
「小さい時に母親が亡くなって、本家に引き取られたらしい。何でも買い与えられて何不自由なく育ったって言ってたよ。……愛情以外は」

 奈津は、高嶺の辻褄の合わない会話を思い出した。3人兄弟のひとりっ子、仲がいいのに、会話がない……

「俺はな、奈津。誰かを好きになるとか、愛するとかいう気持ちが正直分からなかったんだ……お前に会うまで」

 奈津は、はっとした。

 それは、自分もそうだ。相手を好きだと思ってしてきたこれまでの恋愛と、成瀬に対するそれは、まるで違う。

「あの頃……あの人が俺に愛情を向けてくれていることが分かったから、俺はそれに甘んじていたんだ。あの人とはウマも合ったしな。経営の話なんか、聞いていて面白かったよ。……でも、香坂は違う。俺は、あいつが怖かったよ」
「………」
「怖かった。……得体の知れない、きれいな、気持ちの悪い人形みたいだった。あいつは……香坂は、あの人に盲従していたんだ」

 密着している背中越しの肌が、ぞくりと震えた気がした。

「あの人に心酔しているんだよ……今でもそうだ。香坂は、あの人に死ねと言われたら、死ぬだろうな」
「………」
「俺はどんどんあいつが怖くなって……もう無理だと言ったんだ。そうしたら、あの人は俺を誘わなくなって、それきりだ」
「それきり?」
「ああ。仕事上の付き合いはあるから、たまに飲みに行ったりはするけどな。それだけだよ。基本的に嫌がることはしない人なんだ。だから、あの頃のことも、付き合っていたと言えるかどうか……あの人のことは本当によく分からないんだ。前にも言ったと思うが」

(あ……)

 そういえば以前、高嶺がどんな人か尋ねたら、『分からない』『よく知らない』と言っていた。あの時は、そんな筈はないと思っていたが、嘘ではなかったのだ。

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