ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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147 ラプソディー・イン・ブルー【〜香坂忍〜】

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 ──彼だ。彼だ、彼だ。

「ここで働いているのか、香坂」

 ああ、何も変わっていない。冷酷な程に美しい端正な顔。人を見透かすような榛色のビー玉のような瞳。色素の薄い茶色い髪と──薄くて紅い唇。

 私は彼が、この成瀬真一が……死ぬ程嫌いだ。

 卑しいものを見るように表情が歪んでいるこの男に、私は何度も抱かれた。何度も、何度も、あの人の──高嶺雅巳さんの、見ている前で。

 初めて会った時の真一は、ベッドの上で熱に浮かされたように喘ぎ、濡れて色味を増した瞳で苦しそうに私を見た。

 そのあまりの色香に、息を呑んだ。薬を飲まされていることは、すぐに分かった。

『真一、私の宝物を分けてあげよう。私の一番の宝物──忍だ。綺麗だろう?』

 差し出されて呆然としている私の腕を、真一の熱い手は躊躇いなく掴んだ。

『っ、……い、嫌っ……』
『忍、忍。抵抗してはいけないよ』

 本能で抗う私に、雅巳さんは優しく言った。

 真一は私を見て、にぃと口端を持ち上げ、目を細めた。……この男は嗜虐的だ。目を見れば分かる。こういう奴は、ごまんと見てきた。

 理性を失った真一は、獣のように私を犯した。何度も深く貫いて、何度も私の奥に精を放った。容赦なく突き上げられるたびに、みしみしと心にひびが入っていくようだった。

 流れ落ちる私の涙を、雅巳さんが舐め取って、その唇で真一に口付けた。

『真一、あまり乱暴にしないでくれ。大切な忍が壊れてしまう』

 雅巳さんは、時に酷く残酷だ。

 ああ、でも。雅巳さんが望むのなら。
 どんなことにも逆らえない。この人は、私の全てだ。

 雅巳さんは、私を『宝物』と言った。『一番の宝物』と言った。十分に幸せだ。こんな風に、誰かに自分を饗されることなど、これまでなかったけれど──

 1002号室の密会は、回数を重ねた。

 私の躰を貪り続ける真一を、雅巳さんは満足そうに眺めた。薬を使ったのは初めの1回だけで、それからの真一は素面で私を抱いた。

 1つのベッドの上で2人の雄に代わる代わる貫かれ、砕けてしまった私の心とは裏腹に、躰は回数を増すごとに、淫猥に慣れてゆく。真一に与えられる快感は、麻薬のように私を蝕んでいった。

『そんなに感じてはいけないよ、忍。私が妬いてしまう』

 一番の宝物と、それを与えられる彼は、どちらが上だろう?

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