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1巻
1-1
しおりを挟む第一話 転生
「危ない!!!!!」
俺はそう叫んで道路に飛び出した。俺の視線の先には、イヤホンをつけてスマホをいじりながら横断歩道を渡っている少女がいる。そして視界の端には居眠り運転だろうか、赤信号を無視した大型トラックが突っ込んできているのが見えた。
俺がドンッと少女の背中を押した瞬間、身体に激しい衝撃を感じて目の前が真っ暗になった。
――あぁ、俺、死ぬのかな。
そう思ったのを最後に意識が途切れた。
†
「……ませいやくん……やませいやくん……御山聖夜くん!」
誰かの声が聞こえる。優しい声だ。俺、助かったのかな。
「いいえ、残念ながらあなたは助からなかったわ」
やっぱり助からなかったのか。てか、この声誰? なんか心を読まれてるんだけど。
「私は……そうですね、あなた方人間が言うところの神かしら。神ですからあなたの心の声を聞くことができるの」
えええええっ? 死んだら神様に出会うってラノベのテンプレかよ!
「ちょっと何を言っているのかわからないけれど、そろそろ起きてくれないかしら? 説明するから」
言われた通り目を開けると、美しい女性が俺の顔を覗き込んでいた。って、うわ⁉
あまりの美しさに驚いて勢いよく起き上がると、女性の額に頭がぶつかった。
「なっ⁉」
「っ⁉ っんん~!」
痛すぎて悶絶する。が、ハッと気付く。あれ、さっきの声は自分のことを神様って言っていた……よな? ま、まさか……! 涙目で額をさすっている目の前の女性をじっと見つめる。この世のものとは思えないほど透き通った肌。整った顔立ち。町中で着ている人はいないであろう豪華な服。どれもが俺のイメージする神様の見た目にぴったり当てはまっていた。
なら取るべき行動は? あれしかない!
「も、申し訳ございません!」
そう、土下座だ! 女性は頬を膨らませてこちらを睨む。
「きゅ、急に起き上がるからびっくりしたじゃない」
「ほんっとうに申し訳ございません!」
俺は神様になんてことを……!
「もういいわ。そろそろ頭を上げて」
女性に促された俺は、もう一度謝ってから顔を上げる。
周りを見回すと、自分が真っ白な空間にいることに気付く。その空間の真ん中に俺と彼女は座っていた。彼女はこほん、と一つ咳払いをすると話し始めた。
「とりあえず自己紹介しましょうか。私はあなたがいた世界とは別の世界の創造神、セラフィよ」
「俺……私は、御山聖夜……です」
創造神……? 世界を創った神ということだよな。そんな存在がいることに驚く。
だがそれ以上に今は、敬語に不慣れなのが丸出しで恥ずかしかった。が、彼女――セラフィ様はクスッと笑うと言った。
「普通に話して大丈夫よ。様もいらないわ」
「でも……」
「いいのよ。それよりも大事な話をしなければならないから」
「わ、わかりま……わかった」
大事な話か……そうだよな。用もなく別世界の神様と話すことなんてあるはずない。
「ええ。あなたも気になっているようだし、そろそろ本題に入るわね。まず、あなたはトラックに轢かれて亡くなってしまったわ」
さっきも聞いたからわかっていたけど、改めて言われると応えるな……
「代わりに、あなたが助けようとした少女は助かった」
あの子は助かったのか。良かった。死にたくはなかったけど。
「少女は地球の神々が特別目をかけていた人間で、将来的に地球を救う予定らしいの。だから、地球の神々はあなたにとても感謝していたわ」
「地球を救うって⁉ そんなに重要な役割を持った少女なら、あんな危険な目に遭わせないようにできなかったのか?」
「まあ、神といっても何にでも干渉できるわけじゃないのよ。それに、この事故は地球の神々にとっても想定外だったらしいわ。そのせいであなたの魂は輪廻から外れてしまった」
「神様が想定できない事故なんてあるのか」
「神の事情も複雑なのよ。他世界の神が干渉してきたりもするから。とにかくそういうことで、あなたの魂を私の世界で受け入れることになったの」
こ、これは本当に異世界ラノベのテンプレでは……? 俺は具体的な話を聞くために尋ねる。
「転生、ということ?」
「そうよ。地球の神々からお礼を兼ねて記憶はそのまま残すよう言われているけれど、あなたが嫌と言うのなら消すことも可能よ」
「残してほしいです!」
もし転生先が想像通りの世界ならラノベで読んだ知識が役立つはず!
「わかったわ。記憶は残したまま転生させるわね」
「お、俺が転生する世界ってどんなところなんだ?」
「あなたの想像通り魔法があるわよ。あとは地球よりも戦争が多いわね」
「俺も魔法は使える?」
「使えるわ。あなたには私の加護をあげるし、今ここにはいないけれど、他の神々も加護をくれるはず。だから他の人よりも能力が高くなるわね」
「加護までもらえんの⁉」
チートすぎない?
セラフィは頷く。
「ええ。地球の神々によろしく頼むと言われているから。それに私もあなたを気に入ったもの」
え……それはどういうことだろうか?
「ここに来る人たちが皆あなたのように素直な人ばかりではないのよ。あと……」
セラフィがこちらをじーっと見つめてくる。
「な、何?」
「……美しいって思ってもらえて嬉しかったのよね」
ぼそっと何か呟いたが、声が小さくて聞こえなかった。
「ごめん、なんて言ったの?」
「なんでもないわ。とにかくあなたは転生します! 何か質問はあるかしら?」
「大丈夫です!」
正直死んじゃったのはショックだけど、今は早く魔法を使ってみたい!
「それじゃあ、これで説明は終わりよ。また会いましょう……」
また会いましょうってどういうことだろう? まあまた会えるなら、俺は嬉しいけど。
セラフィが俺の頭に手をかざすと、強い光があたりを包む。
その瞬間、俺の意識は途切れた。
涼しい風を感じて目を開けると、ドレスを着た金髪碧眼の美女と、茶髪に茶色の瞳を持つメイド服の少女が視界に入った。
「アルちゃん、起きたんでちゅか?」
アルって俺の名前か? へ? ま、まさか転生って……赤ちゃんから⁉
「お、おぎゃー」
喋れないし、腕も上がらない。不便すぎるだろ……
「おお、元気でちゅね。お母さんでちゅよ」
どうやらこの美女が俺の母親らしい。安心した、とりあえず顔は将来有望のようだ。
「アルラインが生まれたそうだな!」
青髪に銀色の瞳を持つ父親らしきイケメンが、満面の笑みで部屋に入ってきた。俺の正式な名前はアルラインというみたいだ。
「ほらほら、お父さんでちゅよ」
「おぎゃー、おぎゃー」
あー、喋れないって辛いな……
「お、アルはお父さんのことが大好きか。そうだよな」
「何言ってるのあなた。アルちゃんは私のことが好きなのよ」
父さんと母さんがなんか張り合い出した。イケメンと美女が頬を緩ませて言い合いをする様子はなんとも残念だ。それにしてもたくさん抱っこされて撫でられて。俺は愛されているようだ。くすぐったいがなんだか嬉しい。
「そうだ、忘れるところだった! 適性測定をしなければ」
父さんがふと思い出したように言った。
うん? 適性測定とは?
疑問に思っていると、父さんが近くの引き出しから大きめの水晶玉を取り出した。
「アル、これに手を触れてごらん」
父さんが俺の手を取って水晶に触らせる。その瞬間、水晶が強い虹色の光を放った。
「「「は?」」」
父さん、母さん、メイドの三人が固まる。しばらくの沈黙のあと、父さんが口を開く。
「に、虹色ってことは、アルは八属性全てに適性があるってことじゃないか⁉」
「あなた、しかもこんなに光が強いのは魔力量がすごく多い証拠よ!」
あ、まずい。たぶんセラフィの加護のせいだ。父さんたちの反応を見る限り異常な能力っぽい。
「こ、これは陛下に報告しなければ! もし噂が本当なら、アルは神の転生体ということになるぞ!」
なんだその噂! なんか、人外認定されたっぽい?
「まさか、私たちの子が……」
「これは教会には隠さないといけないな。公になったらアルは自由に暮らせなくなる。マリーも口外禁止だ」
父さんがメイドの少女に告げると、彼女は頭を下げる。
「かしこまりました」
「でもアルちゃん、すごいわね! さすが私たちの子供だわ!」
「ああ、本当にその通りだ」
両親に挟まれて頬ずりされながら、俺はこれからどうしようと途方に暮れるのだった。
†
「おはようございます、アル様」
「おはよう、マリー」
転生してから三年が経った。適性測定で神の転生体だなんて思われたせいで、家族も使用人も過保護で大変だ。しかし、彼らは皆温かい。転生した直後は前世を思い出してよく寂しくなっていたが、今ではそんなこともほとんどなくなっていた。
「……ま、さま、アル様!」
「う、うん? なあに、マリー」
いけないいけない、呼ばれていたのに気が付かなかった。
「お部屋に着きました。考え事しながら歩いていると怪我しますよ」
「はぁい。ごめんなさい」
俺は素直に謝った。
「気をつけていただければいいのですよ。では入りますね。ご当主様にしっかり挨拶なさってください」
ダイニングに入ると、すでに他の家族は集まっていた。
「おはようございます。遅れてごめんなさい」
謝罪をまじえて挨拶すると、家族が次々に挨拶を返してくれる。俺は、入り口に一番近い席に座った。
「それでは大地に感謝していただこう」
一番奥に座っている青髪のイケメンが告げると、食事が始まる。俺の父、エルバルト・フィル・マーク・ヴェルトだ。侯爵で、ここ、ヴェルト領の領主。この国の王族と貴族は皆、名前にフィルというミドルネームが入り、領主は領地の名前まで入るから名前が長くなるんだよな。
朝食は焼きたてのパン、新鮮な野菜サラダ、スープ。どれも薄味だけど、素材の味を感じることができてとても美味しい。
「アルちゃんは今日も可愛いわねー」
ニコニコしながら言ったのは、父上の手前に座っている金髪碧眼の美女、母のリリー・フィル・マークだ。母上は父上の第二夫人で、元伯爵令嬢らしい。
「アルくん、スープをこぼしているよ」
俺の向かい側に座っていた義姉のリエルが教えてくれた。母上の妹夫妻の子供なのだが、妹夫妻は義姉上が小さい時に事故で亡くなってしまい、我が家が引き取ったらしい。金髪に緑色の瞳を持つ五歳の女の子だ。きっと母上と母上の妹がそっくりだったのだろう、母上にとてもよく似ていた。
「あ、ごめんなさい」
「もう、アルくん可愛い!」
今にも立ち上がって抱きついてきそう……あ、あの、小動物を狙うみたいに目を細めないで。怖いから! この二つ上の義姉、ブラコン気質があるから困る。
「こらこら、リエル、落ち着きなさい」
「はい、お義父様」
父上がストップをかけると、義姉上ははっとした様子で席に座り直す。父上ナイス!
「アルとリエルは本当に仲がいいな」
俺の隣に座っている兄、ライトが微笑んで言った。俺と四つしか違わないはずだが、兄上はまだ七歳とは思えないほどしっかりしている。父上と同じ青髪に銀色の瞳を持ち母上によく似た可愛い顔立ちをしているため、うちのメイド達や時々家に来る父上のお客さんの娘がぞっこんだ。いや、まあ兄上は迷惑がっているが。
また王都の別邸には父上の第一夫人と、その息子で俺のもう一人の兄にあたる人が暮らしているらしい。
「はい、冷ましておいたよ」
「兄上、ありがとう」
義姉上に抱きつかれそうになっている間にスープを冷ましてくれていたらしい。ほどよい温かさに自然と笑みが浮かぶ。
「本当にアルは可愛いな~」
「ライトまで……」
デレッとした兄上の表情に父上がガクッと肩を落とす。しかし、そんな父上を気にせずに、兄上は俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「アルは今日何をするんだい?」
「本を読みたいです!」
「あれ、文字ってもう読めるんだっけ?」
「……読めないです」
兄上の言葉にしゅんとする。転生特典なのか言葉は理解できるし話せるのだが、書いたり読んだりすることができないのだ。以前、一度本を読もうとして見慣れぬ文字に諦めたのだった。
俺の様子に気付いて、父上が考える素振りを見せる。
「そういえば、アルは今日で三歳になったんだったな」
「はい、父上」
この世界には毎年誕生日を祝う習慣はない。この世界で誕生日を祝うのは、五歳、十歳、十五歳になった時だけだ。
「そうか、それなら今日からリエルと一緒にマリーに勉強を教えてもらうといい。本当なら五歳になってからでいいのだが、お前は成長が早いし、文字を読めるようにならないと魔法の勉強もできないからな」
「わかりました! 頑張って勉強します! ……あっ」
思わず大きな声が出て、咄嗟に口を押さえる。周りを見ると、皆温かい目で俺を見ていて恥ずかしくなってしまった。だが、俺よりもはしゃいでいる人がいた。誰であろう、義姉上である。
「やったー! アルくんと勉強できるなんて嬉しいわ! 一緒に頑張ろうね!」
ちゃ、ちゃんと勉強できるかな……義姉上がブラコンを発揮しすぎて、平和に勉強できる未来が見えない。母上が優しい表情で言う。
「二人共偉いわね。きっとすぐ文字を読めるようになるわ」
「頑張りますわ、お義母様」
すると兄上が心配そうにこちらを見てくる。
「アルは無理しちゃダメだよ? 三歳なんだから疲れたら休んでね?」
「はい、兄上」
いつもこんな感じで、朝食後にはクタクタになる。愛されすぎるのも問題だと思う。
食事が終わると早速勉強をした。
「アルくん、見て見て!」
「リエル様、座ってください」
「へぇ、すごい! できたんだ?」
「リエル様、戻りましょうね」
「アルくんったらもう覚えちゃったの?」
「リエル様も頑張らないと抜かされちゃいますよ?」
と、まあ義姉上のはしゃぎっぷりがすごい。そのたびにマリーが若干うんざりしたような表情でたしなめるのも、普段見ない姿で新鮮だった。
ちなみにその後三日で文字を全て覚えて、とりあえずやってみようとなった計算は、前世の小学生レベルだったから難なくこなして驚かれた。
義姉上はそんな俺を見て……
「アルくんはやっぱりすごいね! 私も頑張らなきゃ!」
うん、義姉上の方がすごいと思うな。前世の自分が義姉上の立場だったら、きっと嫉妬して勉強しなくなっている気がする。五歳なんて手に負えないがきんちょってイメージなのに、大人だよなぁと素直に尊敬した。
さて、読み書きと計算はあっという間に終わってしまったから、俺はここ、リルベルト王国の歴史を勉強することになった。リルベルト王国の建国にはある一つのお話があった。
†
古の時代、精霊王がおわす土地に少女を背負った一人の男が現れた。そこは、花が咲き乱れる美しい場所であった。
彼は、精霊王にあることを願うためにこの地を訪れたのだ。その男は三日三晩、精霊王が現れるよう空に願った。
『どうか、お力をお貸しください』
その願いは聞き届けられた。祈り始めて三日目の夜。
『人の子よ。そなたはなぜ我を呼ぶ?』
『せ、精霊王様でいらっしゃいますか?』
『いかにも』
震える声で問うた男に、現れた精霊王は厳かに答えた。男は精霊王の前に身を投げ出し、希う。
『この子……私の娘が、たった一人の娘が病に倒れたのです。医者には治らないと言われましたが、妻の忘れ形見であり、諦められるはずもありません。どうか、どうか! あなた様の力で治していただけませんか?』
男は奇跡を司ると言われる精霊王に一人娘の治療を願った。傍らに横たえられている少女に意識はなく、肌は青白く、身体は痩せこけ、荒い息を繰り返していた。確かに余命はもう幾ばくもないだろう。精霊王は少し考えると尋ねる。
『代わりに何を差し出す?』
男は少しの躊躇もなく言った。
『私自身を』
『ほお。それはそなたを好きにしても良いということか?』
精霊王は面白いものを見たかのように口角を上げた。
『はい。娘を治していただけるのでしたら、私のこの命、惜しくはありません』
『そなた、名は?』
『アーサーと申します』
『アーサー、その言葉、ゆめゆめ忘れるでないぞ』
精霊王が告げた直後、激しい風が吹いた。大量の花びらが舞い上がり、横たわる少女を包む。
風が止んだ時、少女——ティアリナは意識を取り戻した。
『んっ……ここは……』
『ティアリナ!』
精霊王の奇跡を司る力がティアリナの病を治したのだ。
アーサーはティアリナを強く抱きしめた。
『お父様……? ここはどこですの?』
『精霊王様の住まう場所だ。精霊王様にお前の病気を治してもらったのだ』
ティアリナは精霊王に気付くと、深く頭を下げた。
『精霊王様、病を治してくださりありがとうございます』
『気にするな。礼ならそなたの父に言うとよいだろう。そなたの病を治すために自らを捧げたのだから』
ティアリナはアーサーが犠牲になると聞いて、深く悲しんだ。
しかし、精霊王は無慈悲に告げる。
『アーサー、時間だ。そなたには我々の仲間になってもらう』
『わかりました』
『お待ちください! 精霊王様、私がお父様の代わりになります!』
ティアリナは自らを捧げると言い出すが、アーサーが許すはずもない。
『ティアリナ、お前が私の身代わりになったら、お前の病を治していただいた意味がないだろう? お前は自由に、愛する人を見つけて人生を過ごすのだ。私の分まで幸せになりなさい』
『そんな、お父様!』
『別れの挨拶は良いか?』
精霊王の言葉にアーサーは一つ頷くと、ティアリナに言う。
『お前はお前の人生を生きるのだ。私はここにいてお前を見守ろう』
『お父様ー!!!!』
その言葉と共にアーサーと精霊王は姿を消した。
ティアリナは何日も泣き続けた。しかし、やがてアーサーが用意していた食料も尽き始める。彼女は故郷に帰ることを決断した。
『また、会いに来ますわ』
そよ風がティアリナの頬を優しく撫でた。
その十年後、ティアリナは精霊王が住まう土地とその周辺に国を建てた。ティアリナ・フィル・リルベルト女王として。
リルベルト王国は、精霊王の加護を持つ国として誕生したのだった。
彼女がどうやって女王になったのか、それはわからない。だが、類い稀なる魔法の才を有し、よく国を治めたとだけ伝えられている。
そして、アーサーのその後は誰も知らない。精霊になったのか、別の何かになったのか。
ただ、精霊王が住まうと言われ、アーサーが消えた土地だけが、今なお季節問わず花が咲き乱れている。
†
「これ、本当にあったお話?」
読み終わった俺は思わずマリーに聞いた。
突っ込みどころ満載すぎないか⁉ 病を治してもらう代償が命とか重すぎるし、なんでティアリナが国を建てたのかもわからないし……そもそも、精霊王が住んでいる土地に国なんて建てていいの⁉
しかし、マリーは平然と言う。
「そう言われてます。実際に、一年を通してずっと花が咲いている場所はありますしね」
「そうなの⁉」
「ええ。険しい山脈の中腹にあるので見たことがある人は少ないそうですが、ちゃんと実在しますよ」
「へぇ~。行ってみたいなぁ」
このお話はあんまり信用できないけど、花が咲き乱れる土地は見てみたい。年甲斐もなく目を輝かせてしまった……いや、年相応か。
そうやって色々なことを学んでいるうちに、貴族の制度についても知った。貴族の階級は上から順に公爵→侯爵&辺境伯→伯爵→子爵→男爵となるらしい。伯爵以上が上級貴族で子爵以下が下級貴族となるため、俺のマーク侯爵家は上級貴族だ。三男だから家を継ぐことはないが、それでも相当恵まれた生まれである。
ところで、マリーって何者なんだろうか? この世界は識字率が相当低いらしいのにここまでの知識を持っているわけだから、ただのメイドではないのだろう。しかし、聞いてもはぐらかされてしまった。
「もう少し大きくなったらお教えしますよ」
マリーがニコッと笑いながらも、有無を言わせない圧力をかけてくるのでついぞ聞き出せなかった。まあ、いつか教えてくれるだろう。
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