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1巻
1-3
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目が覚めると、そこは見慣れた自分の部屋だった。窓の外を見ると、まだ夜中みたいだ。
俺は真っ先に鏡を確認した。鏡に映った瞳は、右側だけ透明に見えるようになっていた。いや、透明に見えるほど色の薄い水色と言った方が正しいだろうか。
「な、なんかすごいな」
俺は思わず声を漏らした。
それから、自分のステータスを確認する。
ステータス
【名 前】アルライン・フィル・マーク
【種 族】人族
【年 齢】3歳
【称 号】転生者 神子
【L v】20
【魔力量】10万
【適 性】全属性
【スキル】魔眼 アイテムボックス
【加 護】全ての神々の加護
ムママトによると、普通の人はステータスを見ることができないらしいから、俺が生まれた時のように水晶玉で適性属性を調べて終わりなのだろう。
スキルや加護はなんらかの方法で調べられるのかな? じゃないと、持ってる能力がわからなくて力を使うことができないよね。
てか、神子ってなんなんだよ……いつの間にかすごい称号がつけられていた。
まぁステータスについて詳しいことはわからないし、ひとまず魔眼について調べるか。
そう考えた俺は、とりあえず目に魔力を流してみる。すると――
「うわぁ! なんだこれ!」
途端に魔眼が発動し、部屋の中に絵本で見るような妖精らしきものがたくさん出現した。
「これが精霊、か……?」
彼らは部屋の至るところにいるようだ。でも、敵意は感じられず、温かく見守ってくれている雰囲気がある。
「あ、あの、精霊さん?」
とりあえず呼びかけてみると、中性的な美しい顔をした精霊が元気に返事をする。
「はーい! 私は精霊神ムママト様があなたのために遣わした光の上級精霊よ! よろしくね、アルライン様」
彼女からは金に輝くオーラが見える。他の精霊もそれぞれの属性のオーラを纏っているようだ。
「よ、よろしくね。名前を教えてくれるかな?」
「精霊は名前を持っていないの。人間から名前をもらうことで契約したことになるの」
「そうなんだ。契約したらどうなるの?」
「契約主は魔眼を使わなくても精霊の姿が見えるようになるし、精霊魔法を使えるようになるわ」
「精霊魔法?」
俺が尋ねると、精霊は考え込む。
「うーん、簡単に言うと、精霊は人間より難しい魔法を使えるのだけれど、契約した人間が直接精霊の力を使って魔法を使えるようになるの。魔力を多く消費する代わりに、人間の力だけでは不可能な規模の魔法を発動できるわね」
「すごいんだね! 精霊さん、僕と契約してくれるの?」
精霊がすごいことはわかったが、そうなると俺と契約するのは難しいのかな。
しかし、精霊は思ったよりあっさり頷く。
「もちろんよ。あなたは精霊神様の加護を持っているし、心が綺麗だから精霊が多く近寄ってくるわ。この部屋にいる精霊は皆あなたのことを好いているのよ」
「本当に⁉ ありがとう。でも契約するために名前をつけないといけないんだよね。精霊さんは男の子? 女の子?」
「精霊に性別はないわよ」
「じゃあ……ルミエ! 僕の前世のとある国の言葉で光を意味するんだ!」
「ルミエ……いい名前ね。気に入ったわ。ありがとう!」
すると、ルミエの身体が一瞬光を放った。ルミエが微笑んで言う。
「ふふ、名前をもらうと力が強くなるのよ」
「そうなんだね。ところでさ、上級精霊って他の精霊とどう違うの?」
何か能力に差があるのかな?
「人間の世界にいる精霊の中で一番能力が高いのよ。私より上だと精霊神様か、ほとんど姿を現さない精霊王しかいないわ」
さらっと言ったが、それってかなりレアなんじゃ……ルミエはなおも続ける。
「基本的にはエルフが下級精霊を見ることができるけど、中級精霊以上を見ることができる者は今までいなかったわ。一応精霊から加護をもらう時に行う儀式では人間の前に姿を現すけれど、儀式以外で私達を見たことがある人はいないわね」
レアどころじゃなかった! ラノベも真っ青のチート能力だった! ムママト……教えてほしかったよ……
「これからよろしくね、アルライン様」
笑顔が可愛い……いかんいかん。相手は精霊。俺は何を考えているんだか。
「アルでいいよ。僕もルミエって呼ぶし」
「じゃあ、アル様」
「呼び捨て」
「で、でも……」
「アル」
「……じゃあ、ア、アル」
「うん! こちらこそよろしくね!」
満面の笑みで言いながらも、心の中ではムママトに文句を垂れていた。加護持ちすぎ、とか言っておきながら、彼女の加護が一番やばそうなんですが。そんなことを考えていると、俺の周りに精霊が集まってきた。
「アルラインしゃま、アルラインしゃま、あそぼ」
「おそとにいこうよー」
「ええっと、君達は……?」
ルミエと同じ光属性の精霊のようだが、彼女と違ってとても幼い。そもそも、なぜ契約してるわけでもないのにまるで俺が主のような雰囲気なんだ?
俺の疑問を見透かしたのか、ルミエが言う。
「彼らは下級精霊よ。アルは精霊神様の加護を持っているから、どの精霊にとっても主のようなものなの。上級精霊と契約した場合、同じ属性の精霊とは契約できなくなるから、この子達とアルが契約することはないわね」
「そ、そうなんだ」
まとわりついてくる精霊たちは可愛らしい。なんだかほっこりしてしまった。
「アル様、おはようございます。朝食の時間です」
扉の外からマリーの声が聞こえてきた。いつの間にか夜が明けていたようだ。
「わかった。すぐ行く」
「アルラインしゃま、いっちゃうのー?」
「あそぼうよー?」
「ごめんね、朝食に行かないといけないから。また今度遊ぼう」
下級精霊たちは残念そうだが、渋々といったように頷いた。
ルミエが忠告してくる。
「アル、魔眼は発動したままにしない方がいいわ。精霊の言葉も聞こえてしまうし、まだコントロールできないでしょうから」
「そうだね。忘れてたよ」
危ない、危ない。危うく魔眼に魔力を流したまま行くところだった。
魔眼に流していた魔力を止めると、今まで部屋の中にいた精霊たちが見えなくなった。
「ルミエは他の人には見えないの?」
「ええ、もちろん。見えるのは契約したあなただけよ。私は普段は適当に過ごしているから、何かあったら呼んでちょうだい。どこにいても念話で話せるしね」
「念話って何?」
「頭の中で会話する能力のことよ。たいていの精霊には通じるけど、遠くにいても話せるのは契約した精霊だけね」
「そうなんだ。契約の効果ってすごいんだね。わかった、何かあったら呼ぶね。ルミエもいつでも声をかけてね」
「ええ。じゃあね」
そう言うと、ルミエはパッと消えてしまった。
部屋から出て朝食に向かおうとすると、扉の前で待っていたマリーが何か言いたそうにしていた。
「どうかした?」
「い、いえ、なんでもありません」
なんだかマリーの様子がおかしかったが、特に気に留めず歩き出した。
ダイニングに着くと、家族に挨拶をして席に着く。その時、皆が俺の方をじっと見つめて固まっていることに気が付いた。
「ど、どうかしましたか?」
思わず尋ねると、父上が恐る恐る聞いてくる。
「お前……その瞳はどうしたんだ?」
「あっ……」
そういえば、瞳の色のことを忘れてた……ど、どうしよう。俺は何も考えていなかったので慌ててしまう。
「朝起きたら色が変わってて……」
じーっと見つめてくる父上にしどろもどろになりながら答えると、今度は母上が心配そうに尋ねてくる。
「体調は大丈夫なの? 他に変わったことは?」
「だ、大丈夫です。特に何もないです、母上」
「すごーい、なんか綺麗!」
義姉上は俺の嘘に気付いた様子もなく興奮していた。
兄上が尋ねてくる。
「アル、その瞳はスキルか何かなのかい?」
お、ちょうどよかった。せっかくだしスキルについて聞いておこう。
「スキルって……?」
「魔法とは違う……能力みたいなものかな。スキルは習得すると自然と使い方がわかるらしいけど、スキルを身につけている人自体なかなかいなくて、よくわかってないんだ。確かなのは、スキルは一人一つしか習得できないことくらいかな」
うん、俺二つ持ってる。ムママトが言ってた通り、人という枠組みからどんどん外れていってるよね。
「そ、そうなんですね。この瞳もたぶんスキルだと思います」
「ほう、どんなスキルなんだ?」
父上が興味津々といった感じで聞いてきた。
「これは魔眼というそうなのですが、この魔眼に魔力を流すことで物体の詳細や魔力の流れ、その属性を見ることができます。加えてその魔力を吸収したり、精霊を視認することができるとか」
俺の言葉で部屋の空気が固まった。魔力を吸収できるということは、俺に魔法攻撃が一切効かないと言っているのと同じ。しかも、魔力を吸い取ることで相手の意識を奪うこともできるだろう。やっぱり怖がられてしまうだろうか……
俺の不安な表情を見て取ってか、父上が少し表情を和らげ口を開く。
「いいか、アル。精霊を見ることはエルフもできるから問題ないが、その魔眼はどうしてもという時以外は使うな。そんな能力を持っていると知られれば王国に危険視されてしまうかもしれない」
「はい。瞳も前髪で隠そうと思います」
「それがいいな」
頷いた父上に、俺は付け加える。
「それと、僕もう一つスキルを持っているのです」
「……本当か」
「はい。アイテムボックスというのですが……」
「はぁ……生まれた時にも思ったが、お前は本当に規格外だな」
「……すみません」
呆れたような父上の様子に、俺は謝るしかない。困らせている自覚はあった。周りを見ると、他の家族もやはり驚いた表情を浮かべていた。
父上がそこにいた全員に釘を刺す。
「アルラインの能力については他言無用だ。皆、頼んだぞ」
家族や使用人たちが頷いてくれたのを見て、俺は涙が出そうになる。本当にいい家族に恵まれた。これまで波乱万丈な日々を送っているが、楽しい異世界ライフを送れそうである。
ちなみに後日、ムママトに教わった剣の使い方を忘れないよう、こっそり練習していたのを父上に見られて、父上、兄上と一緒に訓練するようになった。俺の真似をして義姉上まで剣を始めて、その後は四人で剣術の訓練をするのが日課になる。
そんな中で驚くべきことを知った。父上は王国騎士団に所属していたことがあり、王都の大会で三連覇して剣聖と呼ばれるほどすごい人だったのだ。
俺は親バカな父上しか見てきてないから意外だ。
そんな感じで、転生してから十年の月日は、あっという間に過ぎ去っていったのであった。
第三話 王都へ
「よし! こんな感じかな」
俺は旅装に身を包み、鏡に映る自分の姿を確認していた。十歳になった鏡の中の少年は、右目を前髪で隠していた。
「アルライン様、準備はできましたか? 忘れ物はありませんか?」
「大丈夫だよ。全部アイテムボックスに入っているからね」
メイドのマリーが心配して聞いてきたので、俺は首を横に振った。俺は今日、少し先に控えた王立魔法学園の入学試験のために王都に向かうのだ。
ちなみに、ヴェルト領は王都から少し離れた場所にある。広大な土地ゆえに、自分の領地から出るのに三日ほどかかる。また、ヴェルト領から王都に行くには他家の領地を一つ通る必要がある。兄上と義姉上は王立魔法学園に通うために、それぞれ十歳になる年に王都にある別邸に移っていた。別邸には父上の第一夫人とその息子が暮らしていて、俺が今回学園に入れれば、家族全員が生活拠点をそちらに移すことになっていた。
「アルライン様、馬車の準備ができました」
父上の執事のゼスが俺の部屋まで呼びに来てくれた。
「わかった。今行くよ」
荷物をまとめて家を出る。ゼスが準備してくれた馬車に乗り込むと、すでに父上と母上がいた。
「準備はできているな。王都までは四日ほどかかる。今から緊張していたら身体が持たないぞ」
緊張でがちがちになっている俺を見て、父上が笑いながら言った。
母上は優しい表情を浮かべている。
「大丈夫よ、アルちゃんは天才だからね。それに王都に着いてから入試までは時間があるわ。それまでに冒険者ギルドに登録するのでしょう?」
「はい、母上。そのつもりです」
そう、この世界では十歳になるとギルドに登録できるのだ。この世界には冒険者ギルドをはじめ、商業ギルドなど、様々なギルドが存在する。俺が登録する冒険者ギルドは、魔物の討伐や薬草の採取など、様々な依頼を受注、発注する場所だ。
冒険者は依頼の達成数に応じてF、E、D、C、B、A、Sランクに格付けされ、高ランクになればなるほど依頼の達成料も高くなる。
パーティを作って行動している冒険者も多く、パーティにもソロと同じランクがつけられている。また、魔物の買取りも行っている場所だ。
楽しみな様子を隠しきれない俺に、父上は忠告してくる。
「アルは強いから大丈夫だとは思うが、無茶して死ぬんじゃないぞ」
「はい、わかっています」
俺は移り変わっていく景色を馬車の中から眺めながら、初めての王都に思いを馳せた。
†
「お! アル、王都だぞ!」
ヴェルト領を出発してから四日。ついに王都が見えてきた。
俺は初めて長時間馬車に乗ったことと、前世と違って道があまりよくなかったために、途中何度も酔ってしまった。そのせいで、気分を良くする魔法を創造魔法で創ってしまったほどだ。
馬車から見える王都は真っ白な城壁に囲まれていて、今まで見た町の中で一番大きかった。
また、奥には立派なお城が見え、俺は思わず感嘆の声を上げる。
「おっきいですね! こんな町、初めて見ました!」
「ここ、リルベルト王国は近隣諸国の中でも一、二を争う大国だからな。ここまで綺麗で大きな町はなかなかないんだよ」
父上は自分が仕えている国というだけあって、誇らしそうだ。
「屋敷に着いたら、夕食までは好きにしていていいぞ。夕食の時に別邸の家族を紹介しよう」
「わかりました、父上。夕食までの間にギルドへ登録しに行ってきます!」
その後、屋敷に到着し荷物を置いた俺は、早速ギルドに向かった。
「ここがギルドか! おっきいなー」
大きな盾が描かれた看板を掲げるその建物は、四階建てでとても頑丈そうだ。父上曰く、この国で王城の次に大きい建物らしい。かなり重い扉を押して入ると予想に反して閑散としていた。もう昼も過ぎているから、ちょうど人がいない時間なのかもしれない。受付に行くと、受付嬢が笑顔で応対してくれる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。登録ですか?」
「はい! 十歳になったので登録しに来ました!」
「ギルドに登録するためには試験を受ける必要がありますが、大丈夫ですか?」
「……へ? し、試験があるんですか?」
受付の女性は頷いて説明してくれる。
「はい。冒険者はある程度の実力がないと危ない仕事です。実力がない人にギルドの仕事を任せて死んでしまっては困るので、試験を行っているんですよ。また、この試験の結果次第で最初のランクが変わってくるんです」
「一番高くて何ランクになれますか?」
俺の質問に受付嬢は困ったような微笑を浮かべて答える。
「一応Cランクになれますが、ほとんどいませんね。Cランクから始まった人は、他の国で経験があったとか、相応の理由があると聞いています。大抵は、皆さん一番下のFランクから始めていますよ」
なるほどね……俺は受付嬢の言葉に頷いてさらに尋ねる。
「試験の内容はどんなものですか?」
「魔力測定と試験官との模擬戦、そして魔法による的当てです」
ふむ、それなら大丈夫そうだ。Fランクの依頼では大したこともできないだろうから、できればCランクから始めたい。
「わかりました。試験を受けます!」
「では、手続きいたします。でも、無茶はしないでくださいね。あなたの年齢では試験に受かるだけで十分すごいですから」
受付嬢はそう言って何かの紙を渡してきた。
「こちらを記入してください。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です」
俺はその紙にいくつか必要事項を記入したあと、受付嬢に返す。貴族と思われても厄介だったから、名前のところはアルラインとだけ書いておいた。
「アルラインくんですね。私は当ギルドのチーフを務めています、ミリリアです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「試験は今からでも受けられますが、どうしますか? コンディションなどもあると思いますが……」
「いえ、今からでお願いします!」
コンディションに左右されるほど、俺のステータスは低くないからね。
「承知しました。では、こちらの水晶玉に触れてください。まずあなたの魔力を測定します」
ミリリアさんが出してきた水晶玉は、俺が生まれたばかりの時に家で見た水晶玉よりも一回り大きかった。そこに手を載せた瞬間――
パリンッ!
「「「はぁ⁉」」」
水晶玉は目を開けていられないほどの光を発したあと砕け散り、ギルド中から驚きの声が上がった。俺は冷や汗をかく。
「あ、あの、すみません。これって弁償ですか……?」
不安に思い尋ねると、ミリリアさんは呆然とした表情を浮かべながらも首を横に振る。
「い、いえ、えーっと、水晶玉が劣化していたのかもしれません。新しいものを持ってきますので少々お待ちください!」
「は、はい」
ミリリアさんは小走りで奥に行き、同じ水晶玉を持って戻ってきた。
「もう一度触れてください」
言われた通り、先ほどと同じように水晶玉に触れた。
パリンッ!
「「「!!!!!!!」」」
周りの人々が唖然としていた。俺は思わずミリリアさんに聞く。
「え、えーっと、これって記録はどうなりますか?」
もしかして、魔力ゼロとか言わないよね?
ミリリアさんはようやく我に返ったようで、答えてくれる。
「だ、大丈夫です! この水晶玉では測定できないほど魔力が多いというだけですから。昔、英雄と呼ばれた人も同じことになったらしいです」
彼女の言葉に、周囲のざわめきがいっそう大きくなる。
「お、おい、英雄と同じだってよ」「あんな子供がか?」「普通にやべえだろ」「なんなんだあいつ、化け物か?」「やばいルーキーが来ちまったな」……周りの声に顔を引きつらせる。化け物なんて言わないでよ。ミリリアさんはこほんと咳払いをして言う。
「えーっと、とりあえず、試験を続けましょう。魔力に関してはひとまず多いとわかったので問題ないです」
「わ、わかりました」
俺は真っ先に鏡を確認した。鏡に映った瞳は、右側だけ透明に見えるようになっていた。いや、透明に見えるほど色の薄い水色と言った方が正しいだろうか。
「な、なんかすごいな」
俺は思わず声を漏らした。
それから、自分のステータスを確認する。
ステータス
【名 前】アルライン・フィル・マーク
【種 族】人族
【年 齢】3歳
【称 号】転生者 神子
【L v】20
【魔力量】10万
【適 性】全属性
【スキル】魔眼 アイテムボックス
【加 護】全ての神々の加護
ムママトによると、普通の人はステータスを見ることができないらしいから、俺が生まれた時のように水晶玉で適性属性を調べて終わりなのだろう。
スキルや加護はなんらかの方法で調べられるのかな? じゃないと、持ってる能力がわからなくて力を使うことができないよね。
てか、神子ってなんなんだよ……いつの間にかすごい称号がつけられていた。
まぁステータスについて詳しいことはわからないし、ひとまず魔眼について調べるか。
そう考えた俺は、とりあえず目に魔力を流してみる。すると――
「うわぁ! なんだこれ!」
途端に魔眼が発動し、部屋の中に絵本で見るような妖精らしきものがたくさん出現した。
「これが精霊、か……?」
彼らは部屋の至るところにいるようだ。でも、敵意は感じられず、温かく見守ってくれている雰囲気がある。
「あ、あの、精霊さん?」
とりあえず呼びかけてみると、中性的な美しい顔をした精霊が元気に返事をする。
「はーい! 私は精霊神ムママト様があなたのために遣わした光の上級精霊よ! よろしくね、アルライン様」
彼女からは金に輝くオーラが見える。他の精霊もそれぞれの属性のオーラを纏っているようだ。
「よ、よろしくね。名前を教えてくれるかな?」
「精霊は名前を持っていないの。人間から名前をもらうことで契約したことになるの」
「そうなんだ。契約したらどうなるの?」
「契約主は魔眼を使わなくても精霊の姿が見えるようになるし、精霊魔法を使えるようになるわ」
「精霊魔法?」
俺が尋ねると、精霊は考え込む。
「うーん、簡単に言うと、精霊は人間より難しい魔法を使えるのだけれど、契約した人間が直接精霊の力を使って魔法を使えるようになるの。魔力を多く消費する代わりに、人間の力だけでは不可能な規模の魔法を発動できるわね」
「すごいんだね! 精霊さん、僕と契約してくれるの?」
精霊がすごいことはわかったが、そうなると俺と契約するのは難しいのかな。
しかし、精霊は思ったよりあっさり頷く。
「もちろんよ。あなたは精霊神様の加護を持っているし、心が綺麗だから精霊が多く近寄ってくるわ。この部屋にいる精霊は皆あなたのことを好いているのよ」
「本当に⁉ ありがとう。でも契約するために名前をつけないといけないんだよね。精霊さんは男の子? 女の子?」
「精霊に性別はないわよ」
「じゃあ……ルミエ! 僕の前世のとある国の言葉で光を意味するんだ!」
「ルミエ……いい名前ね。気に入ったわ。ありがとう!」
すると、ルミエの身体が一瞬光を放った。ルミエが微笑んで言う。
「ふふ、名前をもらうと力が強くなるのよ」
「そうなんだね。ところでさ、上級精霊って他の精霊とどう違うの?」
何か能力に差があるのかな?
「人間の世界にいる精霊の中で一番能力が高いのよ。私より上だと精霊神様か、ほとんど姿を現さない精霊王しかいないわ」
さらっと言ったが、それってかなりレアなんじゃ……ルミエはなおも続ける。
「基本的にはエルフが下級精霊を見ることができるけど、中級精霊以上を見ることができる者は今までいなかったわ。一応精霊から加護をもらう時に行う儀式では人間の前に姿を現すけれど、儀式以外で私達を見たことがある人はいないわね」
レアどころじゃなかった! ラノベも真っ青のチート能力だった! ムママト……教えてほしかったよ……
「これからよろしくね、アルライン様」
笑顔が可愛い……いかんいかん。相手は精霊。俺は何を考えているんだか。
「アルでいいよ。僕もルミエって呼ぶし」
「じゃあ、アル様」
「呼び捨て」
「で、でも……」
「アル」
「……じゃあ、ア、アル」
「うん! こちらこそよろしくね!」
満面の笑みで言いながらも、心の中ではムママトに文句を垂れていた。加護持ちすぎ、とか言っておきながら、彼女の加護が一番やばそうなんですが。そんなことを考えていると、俺の周りに精霊が集まってきた。
「アルラインしゃま、アルラインしゃま、あそぼ」
「おそとにいこうよー」
「ええっと、君達は……?」
ルミエと同じ光属性の精霊のようだが、彼女と違ってとても幼い。そもそも、なぜ契約してるわけでもないのにまるで俺が主のような雰囲気なんだ?
俺の疑問を見透かしたのか、ルミエが言う。
「彼らは下級精霊よ。アルは精霊神様の加護を持っているから、どの精霊にとっても主のようなものなの。上級精霊と契約した場合、同じ属性の精霊とは契約できなくなるから、この子達とアルが契約することはないわね」
「そ、そうなんだ」
まとわりついてくる精霊たちは可愛らしい。なんだかほっこりしてしまった。
「アル様、おはようございます。朝食の時間です」
扉の外からマリーの声が聞こえてきた。いつの間にか夜が明けていたようだ。
「わかった。すぐ行く」
「アルラインしゃま、いっちゃうのー?」
「あそぼうよー?」
「ごめんね、朝食に行かないといけないから。また今度遊ぼう」
下級精霊たちは残念そうだが、渋々といったように頷いた。
ルミエが忠告してくる。
「アル、魔眼は発動したままにしない方がいいわ。精霊の言葉も聞こえてしまうし、まだコントロールできないでしょうから」
「そうだね。忘れてたよ」
危ない、危ない。危うく魔眼に魔力を流したまま行くところだった。
魔眼に流していた魔力を止めると、今まで部屋の中にいた精霊たちが見えなくなった。
「ルミエは他の人には見えないの?」
「ええ、もちろん。見えるのは契約したあなただけよ。私は普段は適当に過ごしているから、何かあったら呼んでちょうだい。どこにいても念話で話せるしね」
「念話って何?」
「頭の中で会話する能力のことよ。たいていの精霊には通じるけど、遠くにいても話せるのは契約した精霊だけね」
「そうなんだ。契約の効果ってすごいんだね。わかった、何かあったら呼ぶね。ルミエもいつでも声をかけてね」
「ええ。じゃあね」
そう言うと、ルミエはパッと消えてしまった。
部屋から出て朝食に向かおうとすると、扉の前で待っていたマリーが何か言いたそうにしていた。
「どうかした?」
「い、いえ、なんでもありません」
なんだかマリーの様子がおかしかったが、特に気に留めず歩き出した。
ダイニングに着くと、家族に挨拶をして席に着く。その時、皆が俺の方をじっと見つめて固まっていることに気が付いた。
「ど、どうかしましたか?」
思わず尋ねると、父上が恐る恐る聞いてくる。
「お前……その瞳はどうしたんだ?」
「あっ……」
そういえば、瞳の色のことを忘れてた……ど、どうしよう。俺は何も考えていなかったので慌ててしまう。
「朝起きたら色が変わってて……」
じーっと見つめてくる父上にしどろもどろになりながら答えると、今度は母上が心配そうに尋ねてくる。
「体調は大丈夫なの? 他に変わったことは?」
「だ、大丈夫です。特に何もないです、母上」
「すごーい、なんか綺麗!」
義姉上は俺の嘘に気付いた様子もなく興奮していた。
兄上が尋ねてくる。
「アル、その瞳はスキルか何かなのかい?」
お、ちょうどよかった。せっかくだしスキルについて聞いておこう。
「スキルって……?」
「魔法とは違う……能力みたいなものかな。スキルは習得すると自然と使い方がわかるらしいけど、スキルを身につけている人自体なかなかいなくて、よくわかってないんだ。確かなのは、スキルは一人一つしか習得できないことくらいかな」
うん、俺二つ持ってる。ムママトが言ってた通り、人という枠組みからどんどん外れていってるよね。
「そ、そうなんですね。この瞳もたぶんスキルだと思います」
「ほう、どんなスキルなんだ?」
父上が興味津々といった感じで聞いてきた。
「これは魔眼というそうなのですが、この魔眼に魔力を流すことで物体の詳細や魔力の流れ、その属性を見ることができます。加えてその魔力を吸収したり、精霊を視認することができるとか」
俺の言葉で部屋の空気が固まった。魔力を吸収できるということは、俺に魔法攻撃が一切効かないと言っているのと同じ。しかも、魔力を吸い取ることで相手の意識を奪うこともできるだろう。やっぱり怖がられてしまうだろうか……
俺の不安な表情を見て取ってか、父上が少し表情を和らげ口を開く。
「いいか、アル。精霊を見ることはエルフもできるから問題ないが、その魔眼はどうしてもという時以外は使うな。そんな能力を持っていると知られれば王国に危険視されてしまうかもしれない」
「はい。瞳も前髪で隠そうと思います」
「それがいいな」
頷いた父上に、俺は付け加える。
「それと、僕もう一つスキルを持っているのです」
「……本当か」
「はい。アイテムボックスというのですが……」
「はぁ……生まれた時にも思ったが、お前は本当に規格外だな」
「……すみません」
呆れたような父上の様子に、俺は謝るしかない。困らせている自覚はあった。周りを見ると、他の家族もやはり驚いた表情を浮かべていた。
父上がそこにいた全員に釘を刺す。
「アルラインの能力については他言無用だ。皆、頼んだぞ」
家族や使用人たちが頷いてくれたのを見て、俺は涙が出そうになる。本当にいい家族に恵まれた。これまで波乱万丈な日々を送っているが、楽しい異世界ライフを送れそうである。
ちなみに後日、ムママトに教わった剣の使い方を忘れないよう、こっそり練習していたのを父上に見られて、父上、兄上と一緒に訓練するようになった。俺の真似をして義姉上まで剣を始めて、その後は四人で剣術の訓練をするのが日課になる。
そんな中で驚くべきことを知った。父上は王国騎士団に所属していたことがあり、王都の大会で三連覇して剣聖と呼ばれるほどすごい人だったのだ。
俺は親バカな父上しか見てきてないから意外だ。
そんな感じで、転生してから十年の月日は、あっという間に過ぎ去っていったのであった。
第三話 王都へ
「よし! こんな感じかな」
俺は旅装に身を包み、鏡に映る自分の姿を確認していた。十歳になった鏡の中の少年は、右目を前髪で隠していた。
「アルライン様、準備はできましたか? 忘れ物はありませんか?」
「大丈夫だよ。全部アイテムボックスに入っているからね」
メイドのマリーが心配して聞いてきたので、俺は首を横に振った。俺は今日、少し先に控えた王立魔法学園の入学試験のために王都に向かうのだ。
ちなみに、ヴェルト領は王都から少し離れた場所にある。広大な土地ゆえに、自分の領地から出るのに三日ほどかかる。また、ヴェルト領から王都に行くには他家の領地を一つ通る必要がある。兄上と義姉上は王立魔法学園に通うために、それぞれ十歳になる年に王都にある別邸に移っていた。別邸には父上の第一夫人とその息子が暮らしていて、俺が今回学園に入れれば、家族全員が生活拠点をそちらに移すことになっていた。
「アルライン様、馬車の準備ができました」
父上の執事のゼスが俺の部屋まで呼びに来てくれた。
「わかった。今行くよ」
荷物をまとめて家を出る。ゼスが準備してくれた馬車に乗り込むと、すでに父上と母上がいた。
「準備はできているな。王都までは四日ほどかかる。今から緊張していたら身体が持たないぞ」
緊張でがちがちになっている俺を見て、父上が笑いながら言った。
母上は優しい表情を浮かべている。
「大丈夫よ、アルちゃんは天才だからね。それに王都に着いてから入試までは時間があるわ。それまでに冒険者ギルドに登録するのでしょう?」
「はい、母上。そのつもりです」
そう、この世界では十歳になるとギルドに登録できるのだ。この世界には冒険者ギルドをはじめ、商業ギルドなど、様々なギルドが存在する。俺が登録する冒険者ギルドは、魔物の討伐や薬草の採取など、様々な依頼を受注、発注する場所だ。
冒険者は依頼の達成数に応じてF、E、D、C、B、A、Sランクに格付けされ、高ランクになればなるほど依頼の達成料も高くなる。
パーティを作って行動している冒険者も多く、パーティにもソロと同じランクがつけられている。また、魔物の買取りも行っている場所だ。
楽しみな様子を隠しきれない俺に、父上は忠告してくる。
「アルは強いから大丈夫だとは思うが、無茶して死ぬんじゃないぞ」
「はい、わかっています」
俺は移り変わっていく景色を馬車の中から眺めながら、初めての王都に思いを馳せた。
†
「お! アル、王都だぞ!」
ヴェルト領を出発してから四日。ついに王都が見えてきた。
俺は初めて長時間馬車に乗ったことと、前世と違って道があまりよくなかったために、途中何度も酔ってしまった。そのせいで、気分を良くする魔法を創造魔法で創ってしまったほどだ。
馬車から見える王都は真っ白な城壁に囲まれていて、今まで見た町の中で一番大きかった。
また、奥には立派なお城が見え、俺は思わず感嘆の声を上げる。
「おっきいですね! こんな町、初めて見ました!」
「ここ、リルベルト王国は近隣諸国の中でも一、二を争う大国だからな。ここまで綺麗で大きな町はなかなかないんだよ」
父上は自分が仕えている国というだけあって、誇らしそうだ。
「屋敷に着いたら、夕食までは好きにしていていいぞ。夕食の時に別邸の家族を紹介しよう」
「わかりました、父上。夕食までの間にギルドへ登録しに行ってきます!」
その後、屋敷に到着し荷物を置いた俺は、早速ギルドに向かった。
「ここがギルドか! おっきいなー」
大きな盾が描かれた看板を掲げるその建物は、四階建てでとても頑丈そうだ。父上曰く、この国で王城の次に大きい建物らしい。かなり重い扉を押して入ると予想に反して閑散としていた。もう昼も過ぎているから、ちょうど人がいない時間なのかもしれない。受付に行くと、受付嬢が笑顔で応対してくれる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。登録ですか?」
「はい! 十歳になったので登録しに来ました!」
「ギルドに登録するためには試験を受ける必要がありますが、大丈夫ですか?」
「……へ? し、試験があるんですか?」
受付の女性は頷いて説明してくれる。
「はい。冒険者はある程度の実力がないと危ない仕事です。実力がない人にギルドの仕事を任せて死んでしまっては困るので、試験を行っているんですよ。また、この試験の結果次第で最初のランクが変わってくるんです」
「一番高くて何ランクになれますか?」
俺の質問に受付嬢は困ったような微笑を浮かべて答える。
「一応Cランクになれますが、ほとんどいませんね。Cランクから始まった人は、他の国で経験があったとか、相応の理由があると聞いています。大抵は、皆さん一番下のFランクから始めていますよ」
なるほどね……俺は受付嬢の言葉に頷いてさらに尋ねる。
「試験の内容はどんなものですか?」
「魔力測定と試験官との模擬戦、そして魔法による的当てです」
ふむ、それなら大丈夫そうだ。Fランクの依頼では大したこともできないだろうから、できればCランクから始めたい。
「わかりました。試験を受けます!」
「では、手続きいたします。でも、無茶はしないでくださいね。あなたの年齢では試験に受かるだけで十分すごいですから」
受付嬢はそう言って何かの紙を渡してきた。
「こちらを記入してください。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です」
俺はその紙にいくつか必要事項を記入したあと、受付嬢に返す。貴族と思われても厄介だったから、名前のところはアルラインとだけ書いておいた。
「アルラインくんですね。私は当ギルドのチーフを務めています、ミリリアです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「試験は今からでも受けられますが、どうしますか? コンディションなどもあると思いますが……」
「いえ、今からでお願いします!」
コンディションに左右されるほど、俺のステータスは低くないからね。
「承知しました。では、こちらの水晶玉に触れてください。まずあなたの魔力を測定します」
ミリリアさんが出してきた水晶玉は、俺が生まれたばかりの時に家で見た水晶玉よりも一回り大きかった。そこに手を載せた瞬間――
パリンッ!
「「「はぁ⁉」」」
水晶玉は目を開けていられないほどの光を発したあと砕け散り、ギルド中から驚きの声が上がった。俺は冷や汗をかく。
「あ、あの、すみません。これって弁償ですか……?」
不安に思い尋ねると、ミリリアさんは呆然とした表情を浮かべながらも首を横に振る。
「い、いえ、えーっと、水晶玉が劣化していたのかもしれません。新しいものを持ってきますので少々お待ちください!」
「は、はい」
ミリリアさんは小走りで奥に行き、同じ水晶玉を持って戻ってきた。
「もう一度触れてください」
言われた通り、先ほどと同じように水晶玉に触れた。
パリンッ!
「「「!!!!!!!」」」
周りの人々が唖然としていた。俺は思わずミリリアさんに聞く。
「え、えーっと、これって記録はどうなりますか?」
もしかして、魔力ゼロとか言わないよね?
ミリリアさんはようやく我に返ったようで、答えてくれる。
「だ、大丈夫です! この水晶玉では測定できないほど魔力が多いというだけですから。昔、英雄と呼ばれた人も同じことになったらしいです」
彼女の言葉に、周囲のざわめきがいっそう大きくなる。
「お、おい、英雄と同じだってよ」「あんな子供がか?」「普通にやべえだろ」「なんなんだあいつ、化け物か?」「やばいルーキーが来ちまったな」……周りの声に顔を引きつらせる。化け物なんて言わないでよ。ミリリアさんはこほんと咳払いをして言う。
「えーっと、とりあえず、試験を続けましょう。魔力に関してはひとまず多いとわかったので問題ないです」
「わ、わかりました」
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