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第31話完結

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 兄様が家に来た。
 私の兄が拓海君と話している所をたまたま聞いてしまった。

「拓海君は⋯⋯」

 私は気づいたら家から飛び出していた。
 私は拓海君に無理矢理自分の気持ちを押し付けていた。
 拓海君は私の事を何とも思っていなかった。
 多分、嫌いだろう。無理矢理同棲を始めたのだ。
 そんな女をどうやって好きに成るっていんだよ。

「バカみたい」

 座り、ただ涙を流す。
 消えて行く。私の視界から色が消えて行く。
 あの退屈な灰色の世界に変わって行く。
 幸せが、感情が消えて行く。拓海君と出会って、世界が楽しいモノだと知ったのに。
 また消えて行く。

 夜と言う色も、月明かりも、街灯も全部同じ色になって行く。
 奪わないで。私から、私から感情を奪わないで。

 ──ああ、もうどうでもいいや。
 もう、どうだってなれば良い。もう、私には何も無いのだから。

 ◆

 俺は家を飛び出してから雪姫を探しに様々な所を回っていた。
 雪姫とは沢山居たが何処が好きなのか、あまり知らない。
 全く、お試しが聞いて呆れるぜ。

 何かないか?
 思い出せ。今までの生活を、思い出せ。

 色んな人に聞いて回ったけど、雪姫を見た人は誰一人としていなかった。

「ハァ⋯⋯ハァ。何処だ。雪姫」

 何処に居る。
 何処だ。考えろ。雪姫の事を。

「まさか!」

 これは過去、俺と雪姫が出会ったあの日。
 近くの公園の付近にある川。
 その日の前日は台風が来ており、大雨だった。
 それにより川は大いに荒れて、茶色く濁り激しい流れだった。

 近づくのも危険だと言うのに、銀色の髪をした少女がその付近に立っていた。
 そんな場所に立つのが危険だと分からないのかと思い、その子の手を引っ張った。

 その子の顔は酷く『無』だった。
 何を考えているのか、何を思っているのか、全く分からなかった。
 だから、色々と聞いてみる事にした。
 俺が質問して、相手が答えてくれるような会話と言えるのか分からない会話。

 だけど、会話をして行く内にその子は笑うように成った。
 その時の笑顔はとても魅力的に感じた。
 きっと、あれが俺の初恋とやらだろう。
 その子との僅かな日々を忘れないように毎日のように日記を付けていた。
 だけど、引き取られた時に無くしてしまった。

 そして、多忙の日々に寄ってそれも忘れていた。
 だけど、あの雪鷹が発した言葉に寄って全てを思い出した。
 雪鷹のあの決意と思いを聞いて、雪姫との会話を思い出した。


 俺は屋敷から1番近い公園に来ている。
 ここには川は無い。しかし、俺達の会話は公園から始まった。
 だから、名前などが違えど公園と言うカテゴリなので来てみた。

 街灯に照らさる雫を頬に飾っている虚ろな雪姫の姿を発見した。

「見つけた」

 ◆

「見つけた」

 息を切らしながら拓海君が私の隣に座った。
 私は今はブランコに座っており、反対のブランコに座っている。

 拓海君は月を見上げている。

「雪鷹さんとの話、聞いてた?」

「⋯⋯」

 私は返答しなかった。
 きっと、拓海君は私の声すら聞きたくないだろうから。

「はは。無回答、か。懐かしいな」

 え?
 懐かしい。

 私は顔を動かすのが億劫で、ただただ地面を見ていた。

「雪姫さん、前に言ってたよね。幼い頃に会ったって。それ、思い出したんだ」

 名前で呼んでくれてる。
 普段なら嬉しい筈なのに、今は心がミクロも動かない。

「雪鷹さんとの話を聞いたと思うから言うけど。確かに、俺は最初、雪姫さんの事を何とも思って居なかった」

「⋯⋯」

「半強制に同棲する事になったし、やたらとグイグイ来るし、バイト辞めさせられるし」

「⋯⋯」

「だけど、愛海達との時間が増えた。2人に笑顔が増えた」

「⋯⋯」

「雪姫さんに寄生して、今の俺達がある。それは本当に申し訳ないです」

「⋯⋯」

「最初は本当に混乱して、意味が分からない状態だった。だけど、気づかなかっただけでそれが俺にとってとても楽しい日々になったんだ」

「⋯⋯」

「雪姫さんと過ごす日々が、とても楽しくて恋しいと今日気づけた」

「⋯⋯」

「はは。今更何言ってんだよって話だよな。⋯⋯雪姫さん」

 拓海君が私の前に来て、顔を覗き込んで来る。
 何も感じないと思っても、愛する殿方の見た目ははっきりと分かる。

「雪姫さん。俺は、貴女の事が好きだ。昔の君も、今の君も。なんでも突き進む君も、ちょっと抜けている君も」

 少し、景色が鮮やかになる。

「お⋯⋯違うな。僕は君を迎えに来たよ。雪ちゃん。今の貴女には何色が見えてますか?」

「⋯⋯ッ!」

 私は顔をバッと上げた。
 拓海君から手が伸ばされている。

「約束を果たしに来ました。僕はもう忘れない。僕は君の傍にずっと居る。貴女がこの世を楽しいと思えるように、貴女ががこの世で笑えるように、僕は傍に居る。もう一度聞きます。貴女の見る物の色は、何色ですか?」

 私は無意識にその手を取り、言葉を漏らす。

「少し色の戻った、灰色」

「そうですか。⋯⋯僕は、貴女の絵の具です。灰色の世界に、退屈なこの世界に、僕は貴女に幸せになって欲しい。だから、僕は君の『永遠の絵の具』に成ろう。貴女がこの世を楽しいと思えるように、ずっと傍に居ます。誰が何と言おうとも、誰かに拒絶されたとしても、僕は貴女が望む限り、ずっと隣に居る。どれだけ周りから言われようと、どんな風に見られようと、貴女が望む限り、僕は傍に居る」

 1つ、また1つと色が戻って来る。
 今までよりも鮮明に、心臓の鼓動が鼓膜を震わせる。

「僕は貴女が好きだ。だから、お試しでは無く、正式な貴女の恋人に成りたい」

 拓海君の目は真剣に、まっすぐ私の目を見ていた。

「僕は君の事が好きだ。絵の具だ。もう、灰色の世界は見せないと誓おう。永遠に」

「⋯⋯私は、拓海君の事が、好き。大好き。もう、絶対に迷わない。この気持ちに偽りが無いと言うのなら、貴女は永遠に私の隣に居て貰う」

「望むところだ」

「拓海君は私の事が好き。私も拓海君の事が好き。その気持ちは、これからも揺らぐ事は無い」

「同じく」

「⋯⋯うん。信じる!」

 私の奪われた世界の色は感情は再び鮮やかな色へと戻った。
 目から流れる涙が止まらない。
 さっきの涙は完全に心の崩壊を露わにする最後の涙。
 だけど、今は私の感情を出してくれている。

「拓海君」

「何?」

「これからは、私は貴方の彼女で、貴女は私の彼氏で良いんですよね?」

「ああ」

「だったら、その。ニックネームで呼びたいです!」

「え?」

「あのバイトの学生は『拓』と略して言っていて仲良さそうじゃないですか! 実は結構悔しかったんですよ! なので、ニックネームで呼び合いたいです!」

 ◆

 ニックネーム、まさかの申し出に俺は少し呆然としてしまう。
 まぁ、だけど。雪姫の笑顔が見れるなら、俺はそれで満足だ。
 愛海達にも言わないとな。

 結果
 俺はたっくん。
 雪姫は雪となった。

 まぁ、略語だけどやはり馴染みがあるからね。うん。

「さぁ、帰ろうか」

「はい! 今、私はとても幸せです」

「俺はその幸せを永遠に守るよ」

 それが俺の役目だ。
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