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両想い♡
しおりを挟む魔王さまのお家に、今日ものどかに陽が射した。
精霊の樹の葉を透かす光は、ほんのり翠で、とろけるようにやさしい。
クロに乗せてもらって、魔王さまのお家に遊びに来たエォナは、1日で建った
宿舎と、やってきた獣人の皆さんとグィザと風磨に、目を剥いた。
「な、なんで、僕のいないほんの少しの間に、こんなにお話が進むの――!」
「お話じゃないよ。ゲームかな?」
「うわあん! ひめさま! どこにも行かないで!」
ぎゅうぎゅう抱きつかれた僕は、ぽふぽふちいさな勇者を抱きしめる。
「ひめじゃないよ」
「ふええええ――! ひめさま――!」
ぎゅうぎゅう僕に抱きつくエォナを、蒼い瞳を三角にしたレトゥリアーレが、
べりべり引き剥がした。
「くっつき過ぎ」
ぷらんとなったエォナは、栗色の涙目で、きゅうっとレトゥリアーレを睨んだ。
うん。
めちゃくちゃ可愛い。
にぎやかな騒ぎに、魔王さまのお家からひょこりと顔を出した風磨の榛の目が、
まるくなる。
「うわあ! 勇者、ちっちぇー! めちゃくちゃかわいー♡
のを誑し込んでるモブ、さいあく――!!!」
エォナにもだもだした風磨に睨みつけられた僕は、悄気る。
やっぱり相性は、あんまりよくないみたいだよ。
「ひめさまを侮辱するな!!」
勇者がナイフを抜き、栗色の瞳に、金の光が走る。
「え、うそ、こんなちっちゃくて、勇者覚醒? すげ――!」
「斬る!」
ドン、と駆けだしたエォナの一撃を、主人公チートの防御壁が防ぐ。
風磨の首元で、勇者のナイフが、ギリギリ哭いた。
「こ、こえぇええええ――――!
ご、ごめんなさい! 俺、非力な高校生なので!」
涙目で謝る風磨に、首を傾げた僕は、言ってみた。
「ステータス、オープン!」
フォン
ちいさな音とともに、画面が現れる。
『佐鳥風磨 異世界人
レベル1
HP 3/15 MP 12/12
スキル 即死回避Lv99
美形に弱い。頭を撫でると復活する。
称号 ロロ・ルルの敵 レトゥリアーレの敵 キュトの敵 エォナの敵
もふもふ愛』
見えた!
すごーい!
ぱちぱち仕掛けた手が止まる。
「え、僕、敵認定してない……のに、敵ってことは、僕が敵認定されてる――!」
泣いた僕を、クロがぽふぽふ慰めてくれる。
もふもふ、つやつやの、あったかいクロを抱き締める。
「うわあん! 僕の唯一のともだち!
愛してる、クロ!!」
ぎゅうぎゅう抱きついたら、クロが真っ赤になった。
「ろー、あいしてるー」
ぽふぽふの前足が、僕を、きゅうっと抱きしめてくれる。
ふわふわ!
ぬくぬく!
両想い!!
「はー♡ 両想いー♡
クロ、だいすき!」
「りょうおもいー♡」
ぽふぽふ、クロの前足が、僕の頭をなでなでしてくれる。
レトゥリアーレの目が、凍てついた。
ブリザードが、吹きつけた。
僕、なんか、失敗したらしい。
魔山羊のお母さんのミルクはすんごいけど、獣人たちには強すぎるみたいだ。
ちょっと残念そうにしてるお母さんを慰める。
「僕に、いっぱいください!」
「めええ」
いや、そろそろ打ち止めだよ、お兄ちゃんも大きくなったしね。
お母さんの言葉に、仰け反った。
「ふふん」
胸を張るお兄ちゃんと、頷くお母さんに、絶望した。
「お母さんのミルクがないと、僕、ジアの特訓を生き残れる気がしない――!」
嘆く僕に、そうか、と頷いたジァルデは、魔山羊のお母さんを担いで、時空を
切り裂いた。
帰ってきたジァルデは、お母さんと、雄の魔山羊を連れていた。
「おおお!?」
「めえ」
お父さんだよ、のお兄ちゃんの言葉に、僕は慌てて頭をさげる。
「魔山羊のお母さんと、お兄ちゃんに育ててもらった、ロロ・ルルです。
よろしくお願いします!」
「めええ」
立派なお髭の魔山羊のお父さんは、重々しく頷いてくれた。
えへへ。
僕にも、妹か弟ができるかもしれないよ。
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