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ふたたび、出発!

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「エルフさんたちに魔道具を渡す旅に行ってきます!」

 手を挙げたら、こくりとグィザが頷いた。


「俺、行く」

「来てくれるの?」

 こくりとグィザが頷いてくれる。
 グィザの弟と兄を見ると、ふたりとも頷いてくれた。


「いってらっしゃ、にいちゃ」

「気、つけて」

 もふもふの手で、ぎゅ、とグィザの手を握って、送り出してくれた。


「ぼ、僕も行きます!」

 飛び出すエォナを、チチェが抱える。

「……エォナ」

 チチェが名を呼んだだけで、エォナはしゅんと頭を垂れた。


「僕は……子どもで……ひめさまのお役に、立てなくて……」


「そんなこと、全然ない。
 役に立つとか、立たないとか、どうだっていいんだよ」

 僕の手が、エォナのふくふくのほっぺを包みこむ。


「エォナが生きてくれたら、僕は、しあわせ。
 チチェも、村のみんなも」

「ああ」

 お兄ちゃんの腕が、弟を抱きしめて、エォナはごしごし、目を拭った。


「いってらっしゃい、ひめさま。
 どうか、気をつけて」

「すぐ帰ってくるからね」

 キュトとレトゥリアーレの転移魔法で!
 笑う僕に、エォナも笑ってくれる。


「じゃあ俺はひめさまと一緒に――」

 来てくれようとするチチェの首根っこを、エォナが掴んだ。


「にいちゃ、まさか、抜け駆けしないよね……?」

「えぇ? ……えぇえええ――!?」

 真っ青になったチチェが崩れ落ちて、皆が声を立てて笑った。


 兎の獣人さんの子どもを抱っこしていた風磨は、そっと子どもを降ろして、
俯いた。

「あ、あの……お、俺、ゲームならいいけど、ほ、ほんとに、剣とか、魔法とか、
殴るとか、血とか、こ……こ、殺……すとか……こ、こわ……く、て……」


 真っ青な風磨が、ふるえてる。


 痛いくらい、気持ちが解る僕は、頷いた。


「だいじょうぶだよ。ここで獣人さんたちを守ってあげて」

「……ルル」

 榛の瞳が、揺れる。
 だいじょうぶ、繰り返した僕は、微笑んだ。


「獣人さんたちがお世話できない、ちいさな子を見守ってくれてる。
 風磨のしてることは、とても、大切なことだよ」

 くしゃりと、風磨の顔が、歪んだ。


「……ごめ、ん、ルル…………ありが、とう」

 ちいさな呟きに、僕は風磨の榛の髪を撫でる。


「獣人さんたちを、お願いね」

「わ、わかった!」

 胸を叩いた風磨は、真っ赤な顔で、頷いた。

 ちょっとレトゥリアーレの目が冷たくなったのは、気のせいだと思う。










 しばらくぶりに、エルフ探索機が作動する。
 示される座標を、キュトはいつも、とても正確に読んでくれる。

 なんだかよくわからないけど、すごい。

 ぱちぱち拍手する僕の隣で、グィザも拍手する。
 僕とおそろいの顔なのだろうグィザに、ちょっと笑った。


「えへへ」

 僕とグィザの拍手に、ほんのり赤くなったキュトは、座標と地図を確かめる。


「ありがとう」

 皆を見つめたレトゥリアーレが、頭をさげる。


「仲間の窮地は、たすけるよ」

 キュトがレトゥリアーレの肩を叩いて、グィザもぴこんと耳を揺らして頷いた。


「なかま!」

 クロがぶんぶん尻尾を振って、僕も熱い頬で笑う。



 世界一むかつくモブのはずなのに。

 僕が、最愛の推し、レトゥリアーレの仲間だなんて。

 …………夢みたいだ。







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