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過去の追憶
仮契約
しおりを挟む周りには人、人、人。
こんなに人に囲まれたのは久しぶりだ。前に囲まれた時は皆怒りの形相で武器を持ち、俺を八つ裂きにしようとしていたっけな。
今回は違うようだ。周りは武器を持たず黒いローブに身を包んでいる。頭にはとんがり帽子だ。可愛らしい。
いじめて泣かせたくなる。
俺は近づくものを容赦なく殺すと言わんばかりの睨みをきかせた。
全員が俺様を見て固まっていた。
だが、サファイアの瞳をしたヤツは別だ。俺様に近づいてくる。
「悪魔か。悪くない。俺の使い魔になれ。」
初対面での第一声がこれである。
んだコイツ。
悪魔を使い魔にしようなんて頭沸いてんのか。使い魔にすれば最悪の場合悪魔に魂を取られ死後も苦しむか、良くても死ぬまで操られ人形にされるしかないぞ。
ヤケになっているか、よっぽどのバカのどちらかだ。
いや、俺様を召喚するくらいだ。馬鹿であるはずがない。魔力も大きければ、強いものを召喚するだけの緻密なルーンを描くこともできるのだから。馬鹿では困る。
俺が色々分析をしている間にも目の前のガキは俺から目を外すことなくずっとこちらを見ていた。
答えを待っているのか。
なら決まっている。
「お断りだ。」
断るに決まってるだろ。なぜ逆に承諾すると思った。悪魔が使い魔に降格するなんて、恥ずかしすぎて他の悪魔たちに顔向けできない。
さっさとここから抜け出さなくては。
幸いにもここは魔法使いの学舎なのだろう。長い髭を生やした1人の老人以外、あとは皆若者だけだ。それなりの老いた魔法使いが1人と未熟な魔法使いが20人ばかし、屁でもないな。
俺は逃げようと解放していた翼に力を入れる。
だがそれは雷によって、阻止されてしまう。
雷は俺の翼からあたり、身体中に流れた。
立つこともできず床に倒れる。
痛みが引くことはなく雷は数秒間悪魔を苦しみ続ける。
「あぁァァァァァァ!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
周りは、のたうち回る悪魔を同情の眼差しで見ていた。
心臓が止まるのではないかと思いながらも痛みと戦い続け、やっと雷の攻撃が止まった。
悪魔は起き上がれずに、床で白目になりながら口から泡を吹いて気絶してしまった。
サファイアの瞳をした少年は気絶した悪魔に近づき、体重を軽くする魔法をかける。
軽くなった悪魔を抱え、老人の魔法使いに声をかけた。
「やり過ぎました。治療したいので授業を抜けてもよろしいでしょうか。」
「ま、待て、悪魔と契約するつもりか?」
「仮契約をしてから決めます。」
少年はそう言い残すと、スタスタと歩き立ち去った。
一部始終を見ていた残りの生徒達は唖然としていることしかできないでいた。
悪魔を抱えた少年は、長く広い大理石で敷き詰められた廊下を歩く。コツコツとなる床を不快に感じながら少しずつスピードをあげる。
悪魔に目を向ければ、身体中に樹状の模様が浮かび上がっていた。火傷によるものだ。
やり過ぎてしまった。
逃げようとしていた悪魔を止めるため、脅す程度の雷を足元に落とそうと思っていたが直撃するとは。
少年は口をキュッと結ぶ。
気絶している悪魔は美しい顔をしていた。召喚された時はツノと爪が鋭く尖っており、長く伸びた黒い髪と黒い翼は艶かしい雰囲気があった。少年が近づくと尻尾を膨らませて警戒していた。
雷を撃たれた後は、所々に傷ができてしまったせいで、髪や翼から艶がなくなり、尻尾は警戒していた時の影はなく、たらんと垂れ下がってしまった。
急いで回復魔法の得意な先生のところに連れていかなくては、己には直す力なんてないのだから。
少年は抱き抱えている悪魔を落とさないように、大切に抱え治療室の扉を開けた。
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