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奇跡とは
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手には大きな酒瓶が握り込まれており、頬は少し赤みを帯びている。
服装だけだと身分はわからない。
が、この老人の皺、精悍な顔つき、鋭い目つきを見れば、只者ではないことが一目瞭然だった。
周りが騒然としているため、ほとんど聞こえなかったが、気になる言葉がある。
僕は訊ねた。
「あの……イラス帝国を頼るって一体どういうことですか?」
僕の問いに老人は僕を見つめる。
だが、やがて不慣れた存在(ぷるんくん)に気がつき目を丸くする。
けれどすぐ冷静な顔をしては砂糖を売る桃色の髪の少女を見て口を開く。
「砂糖の独占権じゃ」
独占権……
他国のものが砂糖の独占販売権の獲得して、ラオデキヤ王国であるここでそれを売る。
砂糖だけでない。
さっきの果物だってイラス帝国産のものが結構出回っている。
つまり、
「ラオデキヤ王国は危ない状況にあるということですか?」
「ほお……」
僕の返事を聞いた老人は目を丸くして驚く。
そして何かを思い出したのか、深々とため息をついている。
「そうじゃ。君のいう通り。優秀で良心のあるものは努力しているけど、なかなかうまくいかなくての。そのほかは欲深いものばかりじゃ。悪いものはとんとん拍子で成り上がり、義人は迫害を受けたり何もかも奪われる。それが今のラオデキヤ王国じゃ」
「……」
老人の言葉は抽象的すぎるが、マホニア魔法学院を思い出すと、なぜか老人が言おうとすることをなんとなく理解できる。
僕が暗い表情をすると、老人は関心したようにまた目を見開いた。
それから老人は何か納得したようにふむと頷いて悟った表情で説く。
「だが、こんな乱世だからこそ、英雄が現れ、奇跡が起きるのじゃ」
「英雄?奇跡?」
「君は奇跡を経験したことはないかの?」
「……」
僕はぷるんくんを一瞥して頷いた。
「あります」
「ほお、さてその奇跡とやらは、少年の努力によって齎されたものかの?」
僕は物憂げな表情で答える。
「いいえ」
「ほほほ……じゃ、奇跡はどんな時に起きると思うか言ってくれたまえ」
と、老人は鋭い視線を僕に向けてくる。
僕の本当の気持ちが知りたいとでも言いたげな面持ちだ。
「奇跡……」
僕は経験したのだ。
このちっこいぷるんくんと再会したという奇跡を。
僕は悲しい表情で説く。
「それは、なんの資格も権力も権威もなく、絶望のどん底にいる時に、突然希望の光のようにやってきます。まるで朽ち果てた切り株から新芽が出るように」
「君はとても不思議な子じゃ。昔を思い出すの~」
お年寄り特有の笑い方をする彼は僕の肩を掴んで言う。
「名前は?」
「……レオです」
「その強いスライムは?」
おお……
強いスライムって言ってくれた。
嬉しい。
とても嬉しい。
問われた僕は、ドヤ顔をしたまま、ぷるんくんを高く持ち上げる。
「この子は僕の家族のぷるんくんです!!おっしゃる通り、この子はとても強い最強スライムですよ!!」
ぷるんくんはというと、老人を見てちっこい両手を生えさせ、拳を激しく振る。
「ぷるん!ぷるるるるん!!ぷりゅん!!!」
その光景を目の当たりにした老人を破顔一笑。
「うっはははは!!!だから人生は面白いんじゃ!!」
嘲笑ではなく、悪意のない笑い方。
さっきの精悍な顔つきとは裏腹に純粋な子供のように笑う老人に僕の口角も吊り上がる。
老人は『あっ』と何かを思い出したようで、急遽自分の服の内ポケットから小さなガラス瓶を取り出て、手に持っている酒瓶と共に僕に差し出した。
「レオくん、これをもらってくれ」
「え?なんですか?これは?」
「この小さなものは油で、このでかいのはワシの飲みかけの酒じゃ。どれも高いやつじゃぞ。ちなみにこの酒、口をつけてないんじゃから安心してもいいぞ」
「い、いや……なんでこれを僕に?」
突然すぎる老人の行動に僕は戸惑うも、老人は笑いながらその二つを僕に押し付けた。
ぷるんくんは若干警戒はしているものの、アランに向けたような殺気は向けてない。
どうやら僕に危害を加える相手ではないと踏んだのだろう。
老人は小さな油瓶と大きな酒瓶を僕に渡した後、とても満足そうに笑いながらこの場から去ってゆく。
いや、待てよ。
自分のこと何も話さずに去るのかよ。
「ちょっと待ってください!!」
「ん?なんじゃ?」
「名前、教えてください!」
僕に呼び止められた老人は、またにっこり笑って返事をする。
「一線から退いた耄碌ジジイじゃ!また会おう!ぷるんくんもじゃ!」
「……」
不思議な老人だった。
ぷるんくんを見ても、見下す視線を向けることなく、強いスライムって言ってくれた。
それに、
言葉一つ一つに重みを感じる。
僕が既に消えた老人を思い出してぼーっとしていたら、
グウウウウウ!!!
グウウウウウウウウウ!!!!!!
僕とぷるんくんのお腹が同時に鳴る。
「「……」」
服装だけだと身分はわからない。
が、この老人の皺、精悍な顔つき、鋭い目つきを見れば、只者ではないことが一目瞭然だった。
周りが騒然としているため、ほとんど聞こえなかったが、気になる言葉がある。
僕は訊ねた。
「あの……イラス帝国を頼るって一体どういうことですか?」
僕の問いに老人は僕を見つめる。
だが、やがて不慣れた存在(ぷるんくん)に気がつき目を丸くする。
けれどすぐ冷静な顔をしては砂糖を売る桃色の髪の少女を見て口を開く。
「砂糖の独占権じゃ」
独占権……
他国のものが砂糖の独占販売権の獲得して、ラオデキヤ王国であるここでそれを売る。
砂糖だけでない。
さっきの果物だってイラス帝国産のものが結構出回っている。
つまり、
「ラオデキヤ王国は危ない状況にあるということですか?」
「ほお……」
僕の返事を聞いた老人は目を丸くして驚く。
そして何かを思い出したのか、深々とため息をついている。
「そうじゃ。君のいう通り。優秀で良心のあるものは努力しているけど、なかなかうまくいかなくての。そのほかは欲深いものばかりじゃ。悪いものはとんとん拍子で成り上がり、義人は迫害を受けたり何もかも奪われる。それが今のラオデキヤ王国じゃ」
「……」
老人の言葉は抽象的すぎるが、マホニア魔法学院を思い出すと、なぜか老人が言おうとすることをなんとなく理解できる。
僕が暗い表情をすると、老人は関心したようにまた目を見開いた。
それから老人は何か納得したようにふむと頷いて悟った表情で説く。
「だが、こんな乱世だからこそ、英雄が現れ、奇跡が起きるのじゃ」
「英雄?奇跡?」
「君は奇跡を経験したことはないかの?」
「……」
僕はぷるんくんを一瞥して頷いた。
「あります」
「ほお、さてその奇跡とやらは、少年の努力によって齎されたものかの?」
僕は物憂げな表情で答える。
「いいえ」
「ほほほ……じゃ、奇跡はどんな時に起きると思うか言ってくれたまえ」
と、老人は鋭い視線を僕に向けてくる。
僕の本当の気持ちが知りたいとでも言いたげな面持ちだ。
「奇跡……」
僕は経験したのだ。
このちっこいぷるんくんと再会したという奇跡を。
僕は悲しい表情で説く。
「それは、なんの資格も権力も権威もなく、絶望のどん底にいる時に、突然希望の光のようにやってきます。まるで朽ち果てた切り株から新芽が出るように」
「君はとても不思議な子じゃ。昔を思い出すの~」
お年寄り特有の笑い方をする彼は僕の肩を掴んで言う。
「名前は?」
「……レオです」
「その強いスライムは?」
おお……
強いスライムって言ってくれた。
嬉しい。
とても嬉しい。
問われた僕は、ドヤ顔をしたまま、ぷるんくんを高く持ち上げる。
「この子は僕の家族のぷるんくんです!!おっしゃる通り、この子はとても強い最強スライムですよ!!」
ぷるんくんはというと、老人を見てちっこい両手を生えさせ、拳を激しく振る。
「ぷるん!ぷるるるるん!!ぷりゅん!!!」
その光景を目の当たりにした老人を破顔一笑。
「うっはははは!!!だから人生は面白いんじゃ!!」
嘲笑ではなく、悪意のない笑い方。
さっきの精悍な顔つきとは裏腹に純粋な子供のように笑う老人に僕の口角も吊り上がる。
老人は『あっ』と何かを思い出したようで、急遽自分の服の内ポケットから小さなガラス瓶を取り出て、手に持っている酒瓶と共に僕に差し出した。
「レオくん、これをもらってくれ」
「え?なんですか?これは?」
「この小さなものは油で、このでかいのはワシの飲みかけの酒じゃ。どれも高いやつじゃぞ。ちなみにこの酒、口をつけてないんじゃから安心してもいいぞ」
「い、いや……なんでこれを僕に?」
突然すぎる老人の行動に僕は戸惑うも、老人は笑いながらその二つを僕に押し付けた。
ぷるんくんは若干警戒はしているものの、アランに向けたような殺気は向けてない。
どうやら僕に危害を加える相手ではないと踏んだのだろう。
老人は小さな油瓶と大きな酒瓶を僕に渡した後、とても満足そうに笑いながらこの場から去ってゆく。
いや、待てよ。
自分のこと何も話さずに去るのかよ。
「ちょっと待ってください!!」
「ん?なんじゃ?」
「名前、教えてください!」
僕に呼び止められた老人は、またにっこり笑って返事をする。
「一線から退いた耄碌ジジイじゃ!また会おう!ぷるんくんもじゃ!」
「……」
不思議な老人だった。
ぷるんくんを見ても、見下す視線を向けることなく、強いスライムって言ってくれた。
それに、
言葉一つ一つに重みを感じる。
僕が既に消えた老人を思い出してぼーっとしていたら、
グウウウウウ!!!
グウウウウウウウウウ!!!!!!
僕とぷるんくんのお腹が同時に鳴る。
「「……」」
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