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10.5、ぶっ倒れたアンセルさんのその後。

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ハヴィからの説明があまりにもアレだったので、アンセルは酷い眩暈で一瞬意識を失ったようだ。
だがここで意識を失うわけにはいかないと、理性で踏ん張った感じ。
何故に失う訳にはいかなかったのかというと、1秒たりともあの邪悪な金属をハヴィから引き離したかったからだ。
今はなんか変なふうに誤解をしている。このまま気が付かないなら付かないままで良い。
あとは自分が何とかするのみだと、アンセルは起き上がった。

アンセルは軽く咳払いをすると、徐ろにハヴィに向かって手を差し出した。

差し出された手を見つめ、何、お手?と首を傾げる可愛いハヴィに一瞬騙されそうになったが、ここは躾けるつもりでギッと目を細めた。

「指輪の箱出して。あと指輪外して。」

「ええ、なんで」

「なんでじゃないでしょ、それオルトに渡すんならハヴィがしたままじゃダメでしょう。」

「ああ、そっかしましまわなきゃ。」

ポンっと閃いた様に手のひらを叩くと、イソイソと部屋にかけてある自分の制服の内ポケットに手を突っ込む。
そして大事そうにゴソゴソと取り出してきた、琥珀色の箱。
邪魔にならない程度に巻かれている細めのリボンはもちろん深みのある黒だった。
箱の色とリボンに、何だかとても嫌な気持ちになりながら、アンセルはハヴィを見つめていた。
傷がついてないかをいろんな角度から確認後、そっと箱にしまい、そしてその箱をまた大事そうに上着のポケットにしまおうとして、おい、と止める。

「その箱は無くしちゃダメでしょ?私が預かってあげる。」

「俺が託されたのに!?」

託されたんじゃなくお前の物だけどなと、ここで言ってしまったらどんな顔をするだろう。
だけど言わない絶対、何ならこのまま無くしてしまっても私的には問題ない。
しかしハヴィは託されオルトに渡す気でいるのだ。そっちの方が面白そうなので、と差し出した手をひらひらとして催促する。

「ハヴィは騎士でしょ。何かあったら動き回らないといけないじゃない。
あんまり動かない私の方が落とす確率少ないと思うけど?」

あ、そういうこと?っとアンセルの言葉を疑いもせず素直に受け取り、それもそうだよね、と箱を差し出した。

オルトに渡すときは自分が渡すからと、その時はハヴィに箱を返すと約束して、指切りまでした。
そんな可愛いハヴィにメロメロになりそうなのを堪えつつ、アンセルは箱を握りしめたまま、ため息が止まらなかった。

すれ違いというか行き違いというか、誤解というか。
あの説明だけで、まるで見てきたかのように全てを悟ってしまった。
悟ってしまってもうね、ため息しか出ない。

あの時私が約束を守ってさえいられたら。ハヴィがシスル団長にアクセサリーを渡すこともなかったはずなのに。
渡さなかったら、こんな壮大なすれ違いもシスルがハヴィにプロポーズすることもなかったのだ。
箱を握りしめ、口から出るため息がうわぁぁと、悲鳴に変わる。
突然叫んだアンセルにびっくりした様子のハヴィだったが、大丈夫かと背中を撫でただけでそれほど気にしてない様子だった。

まぁあれだ、後悔したところで全てはもう済んだこと。
今更嘆いたところで何も変わらない。相手の指す駒に、自分がどう立ち向かえば良いかが重要なのだ。
勝負事は得意な方だ。盤面を見るだけで、勝つも負けるもどうにでも出来る。

このまま誤解させたままでは相手の思いが深くなるばかりだろうし。
ここはさっさと誤解を解き、トドメを刺してしまおうと動くことにした。

アンセルがそんな事を考えてるなんて気が付いていないハヴィは、ベッドに無防備で転がっている。
どうやら先ほど本棚から見つけてきた『これでアナタもムッキムキ☆新しいストレッチのやり方』に夢中の様子。
どう考えてもストレッチでムッキムキなんてならないのだが、ハヴィはやる気に満ちていた。

「ねえハヴィ、私との約束忘れないでね?」

「んー?」

生返事が返ってくるところを見ると、アンセルの言葉は聞こえてないだろう。
だが確認せずにいられなかった。

今まで飄々と生きてきた。
ハヴィの事で不安にさせることも多かっただろうが、自分が不安になることは初めてだった。
物心ついた時から大事に大事に守ってきた。
片時も目を離すこともなくそばにいた。自分が側に居られない時はオルトを買収して虫除けをさせていた。
何ならハヴィの家族も自分に協力的だったし、王太子の問題も自分にとっての障害ではないと思っていた。
だがここに来て予想外のことが起こった。
ただ好きになられただけじゃなく、既にプロポーズまでされていたとは。
自分の迂闊さを猛省しつつ、2度とこんなことがないようにと手のひらの箱を見つめた。

「ハヴィ、もう少しだけ付き合ってね。絶対何とかするから。」

そう小さく呟くと、アンセルは目を細めた。
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