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人助けをしましょう

捕まえた男は顔見知りでした

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「さて・・・」

パンパンと両手を叩いて汚れを払い、叩きのめして縄でグルグル巻きにした悪党の集団をギロリと睨む。

リオネルに遅れまいと、悪党たちをひとり、またひとりと倒し、気が付いたらあっという間に焚火の前で酒を飲んでいたナタンの仲間たちを全員捕縛できました。
30人ぐらいいたんだけど、ほとんど私たちで倒し、町のおじさんたちは縄を持って右往左往していたわ。

「とりあえず、こいつらとあとで来る奴らとまとめてこの町のギルドに突き出せばいいかな?」

「そうですね。ギルマスたちが解放されれば、すぐに他のギルドからも人が来るでしょうし。こいつらの面倒もみてくれるでしょう」

アルベールも冷たい視線で奴らを見下ろす。


「ん?リュシアンはどうしたの?」

グルグル巻きにされた男たちの集団のひとつ、赤髪の男の前で立ち尽くしているリュシアン。
剣を握った腕も、だらりと力なく下げられている。
私は、タタタと近寄り、剣を握っている腕にそっと触れる。

「リュシアン?」

「あ、ああ。すまない。ちょっと知っている男がいたから・・・」

知っている男?
リュシアンが見ていた男は、短い赤髪がボサボサで無精髭を生やした顔はどこか荒んだ色を帯びていて、腰に佩いた剣は手入れがされていなのか鞘がボロボロになっていた。
見るからに落ちぶれた男・・・。
年はリュシアンと変わらないように見えるけど・・・誰?

「お前・・・。リュシアンか?」

「やっぱり、お前、ギャエルか・・・」

リュシアンの顔を驚いた顔で見た赤髪の男、ギャエルと呼ばれたその男は、リュシアンに名前を呼ばれて面白くなさそうに顔を背けた。

「誰なの?」

クイクイとリュシアンの服の袖引っ張る。
アルベールとリオネルも興味を引かれたのか、私たちの傍に寄ってきた。

「あー、俺がいたパーティーに、俺の後に入った・・・剣士の男だ」

なに?
仲間を庇って怪我をしたリュシアンをパーティーから追い出して、奴隷商に売りやがった奴らの仲間か?

私、アルベール、リオネルのギロッと殺意をふんだんに含んだキツイ視線にビビったのか、ギャエルはズリズリとお尻で後退りをする。

「お前、何をしてるんだ?冒険者は止めたのか?こんな所でろくでもない奴らとつるんで?あいつらとはどうしたんだよ?」

あらら、リュシアンってば、優しい。
私たちの不穏な視線から庇うように前に出て、ギャエルに友好的に話しかけてやるなんて!

「・・・。あいつらとはすぐに別れた。俺は、奴らのせいで冒険者ギルドから・・・閉め出されたんだ」

「は?ギルドから締め出しなんて、よっぽどの違反行為をしなきゃ、そんな目に合わないぞ?お前、何をしたんだ?」

リュシアンがその場に片膝を付いて、ギャエルという男と目線を合わしてやる。

ギャエルは少し落ち着いたのか、ぽつぽつと小さな声でリュシアンのいたパーティーに合流してから今までのことを告白していく。

そんなに難しい話ではなかったので、すぐに聞き終えたけど・・・、ふぅーっ・・・リュシアンの元仲間って・・・最低だな!

「ふふふ。いつか会ったら絶対に報復しちゃうわ、私。生きててごめんなーさーい!て謝るまでやるわ!謝っても許さないわよ・・・どうしてやろうかしら?ふふふ・・・」

「お嬢、お嬢、怖いから!なんか背中からヤバイ感じの靄が沸いて出ているから抑えて。アルベールの爺さんも悪い顔してニヤニヤしない!リオネルはどこに行こうとしてんだ!」

リュシアンはリオネルの襟首を掴んだままで、片手で顔を覆い深く溜息を吐いた。
でも、あんた、嬉しそうに笑ってんじゃないのよ。

「さあ、まだナタンの仲間は残ってんだから、俺たちも早く町に戻ってギルドと男爵邸に行こうぜ」

「そうですね。この気持ちはナタンたちで発散しましょう。リオネルも今は奴らの相手で我慢しなさい」

「なんか、八つ当たりされるナタンの仲間が哀れに思うわね。ま、いいわ。じゃあ、こいつらの監視をよろしくお願いします」

町のおじさんたちの何人かはここに残って、こいつらの監視をしていてくれる。
そのうち、町から閉め出された人たちと合流するでしょう。

「じゃあ、行こうか」

「そうね。この不愉快な気持ちは全てナタンたちにぶつけてやるわ!」

私とリオネルは鼻息も荒く、アルベールは楽し気に町門へと向かう。
ちょっと遅れたリュシアンは剣を鞘にしまい、両手を頭の後ろで組んで呑気に口笛を吹いていた。





簡易な宿の古ぼけたベッドに仰向けに寝ているリュシアンの元にパーティー仲間は、ひとりの男を連れて訪ねてきた。
怪我をしているので動くことができないリュシアンは、その男を目の端に映し怪訝な表情を浮かべる。

「リュシー。怪我の状態はどうだ?まぁ、もう治らないから期待はするなよ。痛みだけでもひけばいいんだがな。ああ、紹介するよ。新しい仲間のギャエルだ。彼は剣士で冒険者ランクもソロでCランク。凄いだろう?」

何が言いたいんだ?
訝しむリュシアンに、ギャエルと紹介された赤髪の男は、自分を蔑むように見下ろして声を出さずに笑った。

「ねえ。もうアンタは冒険者としては使えないでしょ?だからあたしたちはギャエルを仲間に入れてダンジョン攻略に行くことにしたの」

「お前以外は傷は癒えた。俺たちはAランク昇格を目指して再びダンジョン攻略を目指す」

仲間ふたりの言っている意味が分からない。

俺はどうするんだ?
俺の怪我は?
教会で神官に治癒魔法をかけてもらえば、俺の足も腕も前みたいに動く。
剣は折れてしまったが、また冒険者ギルドで依頼を受けて、金を稼いで買えばいい。
みんなの防具も一段と強い物に買い替えたほうがいい。
俺たちにあのダンジョンはまだ早かった。
もう少し依頼をこなして経験を積んで、それから改めてダンジョンに行こう。

なのに・・・なぜ、お前たちは俺を・・・捨てて行くのか?

そのあと、治らない足を引き摺ってギルドに冒険者ギルドカードを返却し、案内されるままに馬車に乗り、気が付いたら奴隷になっていた。
俺が絶望と無力感に打ちのめされていたときに、お前たちはダンジョン攻略に赴き輝かしい冒険者生活を満喫していた・・・と思っていたのに。

ギャエルを加えたパーティーは、やっぱりダンジョン攻略に失敗していた。
今回は俺のように仲間を庇う奴がいなかったので、全員満身創痍だったから治癒魔法で金が無くなり、壊れた武器や防具を揃えることもできず。

それでも焦りからか、三度みたびダンジョン攻略に行き、また失敗した。
俺を使えないと言った女冒険者は、顔に大きな傷を負い視力も失って脱落。

四度目のダンジョン攻略はランクを落として挑戦したのに、失敗し盾役の男冒険者は死んだ。
ここでギャエルと俺の幼馴染は大喧嘩をし互いに大怪我を負って、ギルドからペナルティをくらう。
しかし、俺の幼馴染の作り話に同情したギルドは、奴には謹慎をギャエルには追放を科した。

ギャエルは日雇いの仕事でなんとか食いつなぎ、国や町を渡り歩き、気が付いたらナタンという小悪党に雇われていた。

「あいつらはバカだったんだ。あのパーティーは他の冒険者たちからも羨望の的だった。強くてランクが上がるのも早くて。でも、全部リュシアン、あんたの力だったんだ」

ギャエルは、情けなく鼻を啜った。

「全部、アンタの力で得たんだ。なのにあいつらはそんなことも気が付かずにアンタを捨てた。そのあとは坂道を転がるように落ちていったよ。なのにさ、誰も自分が悪いとは言わないんだ」

ギャエルは、子供のような泣き顔をリュシアンに向ける。

「視力を失っても、死ぬ間際でも、なんでこんなことになったのか、誰が悪かったのか・・・。誰も真実に気が付かないんだ。全部、全部、アンタを見捨てて追い出した俺たちが悪かったのに・・・」



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