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死境に彷徨う死神の網

男達は怖がり

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バスティアンとはぐれてしまったアルベルト達は、1階の部屋を調査することにした。

「まずは……この部屋に入ってみようか。」

アルベルトが指したのは、金のドアノブが付いた部屋。恐る恐るドアノブに手をかけ、部屋を覗く。

「…書斎……?」

この部屋にあったのは、大量の本。
壁一面の本棚にはぎっしり本が詰まってある。床にも積み上げられている。

「あ、ピアノだ。」
「めちゃくちゃになってるぞ……?」

破壊されたピアノも置いてあった。

「…1階には音楽家がいるのか…?」
「そうかもしれないな。」

アルベルト達の後ろでハインリヒが何かに気付いた。

「あ、あ!あ!」
「何だ?どうした?」

「レオポルトさんが!!」
「あれ?レオは?」
「レオポルト?」

そういえば、後ろを歩いていたはずのレオポルトが消えていた。

「確かに一緒にいたはずなんだがな……」
「おかしいな…?」
「僕の次に入ったはずなんです…!!」

レオポルトは扉を開けると、何処かへ飛ばされてしまったようだ。

「…バスティアンの次はレオポルトが行方不明か…」

「レオポルト!!!」
メンバーが叫んでも何の音沙汰も無い。
「くっそ…バスティアンの時は行先が分かってるから少しは安心だったんだがな…」
「レオポルトは行方知らずだな。」

「…俺嫌だよぉ!!」
「うわっ!くっつくなよ!!」
フィラットはゲルトの腕に抱きついた。

「一緒に行こうね♡」
「やめろよ、気持ち悪いなぁ」
「…俺こういうの苦手。俺、この城で一人にされたくない!!!!」
「それは皆同じだ。」
「…いいから離せよ。」
「やだ。」
「……こいつ…。」

ゲルトは諦めた!

「…バスティアンの戦闘不能の知らせは無いみたいだが、一人で進めていけるってことなのか?」
「言われてみれば。確かに。」
「もし敵が出てても、闘って勝利できてるってことだよね」
「…やるな。」

僕、一人になったら絶対に即死だ……!!!

ハインリヒは震えた。

「…僕も、一人は嫌です。」
そう言ってアルベルトの腕に抱きついた。

「…そうだな。せめて、二人ずつの方が心強いかもな。」
「一緒に行こうね、ゲルト♡」
「流石に気持ち悪い…。」

「なぁ、レオポルトってどこに飛ばされたんだ?心当たりはあるか?」
「それが全く分からない…。」
「…この階にいるっていう可能性は?」
「無くはない…よな。」




____________




ハインリヒの予想は的中。
レオポルトはアルベルト達とは同じ1階だが、位置的には真逆にある部屋に飛ばされていた。


「……えっ?」

扉を開けて、ハインリヒさんの次に入ったつもりだったんだけど……あれ?


「…どこに行ってしまわれた?」

レオポルトはあれこれ考えた。


自分が飛ばされたのか、

アルベルト達が飛ばされたのか。


一旦部屋の外を見てみる。

「…1階だ。でも…ここは歩いてない…。僕が飛ばされたのか。」
壁や床、景色が1階のままなので、全く別の部屋に自分が飛ばされたのはすぐに分かった。

「…どうしよう…」

でも…バスティアンさんも一人で進んでる。ここで一人ででも進んでおけば、パーティーに貢献出来る……。

レオポルトは考え、一人で調査することにした。常に弓矢を構え、戦闘態勢にすぐ入れるようにした。

「ふぅ……」
いくら冷静沈着なレオポルトでも、怖いものは怖い。

「困ったな。」
レオポルトは呟いた。

飛ばされた部屋は、アトリエのような部屋。
引き裂かれたキャンパスが置いてある。

「何だろう…」
絵を見ると、女性の絵だった。
「あ……まただ。」
顔は赤で塗り潰されている。

さっき、フィラットさんが見つけた音楽家の肖像画も赤で塗り潰されていたな。
何か関係が…?

また、足元には楽譜が散らばる。
「…音楽家の手掛かりか。でも…楽譜は読めないんだよな…」

眉間にシワを寄せ、首を傾げた。
「まぁ…いいか。別の部屋を見てみるか。……痛っ!?」

何かに躓いた。

「…金槌?何でここに?」
床に何故か置かれていたのは金槌。
大きくて、かなり重い。

「アトリエに金槌…?何かありそうだ。」
持って行こうかと考えたが、重くて持ち歩きたくない。

「バスティアンさんがいれば…。」
金槌は置いて、部屋を出た。



__________


そんなバスティアン、順調に進めていた。

「…あとは、ここの部屋だけだが。」

地下1階の部屋は全て回った。
出てきた怪物は全て一人で倒せたのだ。

しかし、重要なものが見つかっていなかった。


「……階段が見つからん。」

最後になる部屋を開けた。

「またか。」

🦇「キャアアアアアアー!」

戦闘が始まり、いつもの如くに勝利。
「……この部屋は…応接間みたいだな」

灰だけの暖炉とテーブル、ソファが2つ。
シャンデリアに薄暗く照らされる。

「蓄音機か。」
アンティークな蓄音機。
動かしてみると、曲が流れた。ゆっくりとレコードが回っていく。

「…悪くない曲だな。」
それはピアノの曲であった。
静かに流れるピアノの音はどこか寂しく、悲しい気がした。

「悲歌…か。何かストーリーがありそうだ。」
呟いて、レコードを止めた。

「…行くか。あぁ、回復薬もそろそろ切らしそうだしな…。早く誰かと合流しないと、戦闘不能になりかねないな」
バッグの中を漁り、回復薬を探しながら部屋を出た。

「あれ…どこやったっけ…。んぁ、これじゃない…これでもないし……あっ!」
薬の瓶を落としてしまった。

「あ~まてまて……」

ころころと転がっていくと、壁にぶつかりそうになる。

ズボッ

「……え?」
部屋の向かい側の壁に吸い込まれた。


「…穴だ。」
壁の下の方から隙間風が吹き込む。中は暗くて見えない。
「あ、まさかこれ…」

ベリベリベリ


「あ~ね、やっぱり。」
少し浮いていた壁紙を剥がすと、そこには転がった薬の瓶と共に、1階へ上がる階段が見つかった。
すると、ワープの輪も出現した。


「出来れば、帰りたいんだがな…」
そう思ったが、他メンバーと合流するためとりあえずここでセーブして階段を上がった。


_________



「あぁ、アルベルトさん達と合流出来そうで出来ない…。」

頭を抱えていたのはレオポルト。


ドスドスドス


「!?」
部屋を出てすぐ、廊下の奥の方から物音がした。

弓矢を構え、恐る恐る近付く。

「……!?」
壁が開いた。隠し扉か?


「あ…?!バスティアンさん?!」
「……お、レオポルト。」

壁の隠し扉から出てきたのはバスティアン。


「バスティアンさん!良かったぁ!」
「うぉぉ…」

レオポルトは安心のあまり、バスティアンに抱きついた。


「…皆は?」
「僕も飛ばされてしまって。アルベルトさん達と、さっきはぐれたんです。」
「…レオポルトだけが?」
「はい。今のところ、バスティアンさんと僕がはぐれている状態かと。」
「…ふぅん…。まぁでも、少なくともレオポルトと合流できて良かったよ。」
「はい!」

2人は安堵した。

「そういやバスティアンさん、地下はもう回れたのですか?」
「あぁ。部屋も全て回った。ボスはいなかったし、敵もそう強くなかったんだ。」
「そうなんですね」

「階段も見つけたし、ワープも出た。とりあえず、セーブしといたよ」
「凄い!…てかもう…帰りたいですけどね。」
「あぁ。」

この広すぎる不気味な城に一人いるのは不安で仕方ない。パーティーの中でも冷静な2人がこんなに不安になるのも珍しいほど。

「…アルベルト達と合流して早く帰りたい。探そう。」
「はい。まだ、1階にいるかと。」
「…1階にいて1階に飛ばされたのか?」
「そうみたいです。」
「ふぅん…不思議なこった。」

2人は1階でアルベルト達を探しながら調査することにした。


___________



「…レオポルトさんはどこに行ったのか分からないんですよね?心当たりも無くて…」
「…とりあえず、ここで待つ?」
「それは、時間の無駄じゃねぇか?」

頭を抱えていたのはアルベルト達もそうだ。

はぐれた2人を待つか、調査を進めるか。

「…仕方ない。2人も進んでいるだろうし、俺らも進むしかない。」

アルベルトにハインリヒが付いて、ゲルトにフィラットが付いた状態で進んだ。
(2人は腕に抱きついている)

「これ、いちいち部屋確認すんのもめんどくせぇな。」
「あぁ。だから時間も掛かるんだろう。」

1階のマップを進めていく。周りは黒の壁と床に金の装飾。
奥に行くと、横に伸びる廊下があった。T字になっていたようだ。

「うわっ……」

廊下には石膏像がずらりと並んでいた。
蜘蛛の巣がかかっており、いつか動き出しそうだ。

「これ、動かないよね!?」
フィラットは怖がった。抱きつかれるゲルトは顔を顰める。

「右?左?」
「……あ~、とりあえず…右?」
「了解」

右に曲がり、1番手前の部屋に入る。

「…敵はいなさそうだな…?」
「…?」

「あっ、ちょっと待って。」
フィラットのピアスが落ちて、拾おうとゲルトから手を離すと。


バタン


「えっえっえっ!!?うううう嘘でしょ!?開けてよぉ!?」
なぜかフィラットだけ締め出されてしまった。

中に入った3人も驚いていた。
「フィラット!?」
「フィラットさん!大丈夫ですか!?」
「なんだ何だ?!あ、開かねぇぞ!?」
ドアノブをいくら捻っても開かない。

「これ!鍵穴ありますよ!鍵掛かっちゃったんじゃないですか!?」
「本当だ…。」

「えっえっえっ?鍵掛かってんの?!」
フィラットは一人にされて半泣き。

「…俺らが閉じ込められている状態なんだ、まず鍵を探さないと…。フィラット…そこで待つ…のか?」
「えっ、待つ。」(?)
「…そ、そうか。わ、分かった。じゃあ…まず部屋の中を探そう。」
「おう…」

「はぁ……」
フィラットは扉に寄りかかり、ため息をつく。意外と怖がりなフィラット。


カサカサカサ…

「は?何、ゴギブリ?やめてよ。」
辺りを見渡す。


カサカサカサ…


「えっ……待って…上…?え、見たくないんだけど…。」
奇妙なその音は上から聴こえた気がした。気持ち悪いし、怖すぎて見られない。

「ふぅ……」
ゆっくりと上を見上げた。

大きな不気味すぎる蜘蛛が天井を這い、フィラットを見つけ、笑っている。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」
フィラットは全力で走って逃げる。

「フィラット!?大丈夫か!?」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…… !!!!!!!」

中にいた3人が聴こえていたフィラットの声が遠くなる。
「あいつ…まさか走って逃げたのか?」
「多分…」
「だ、大丈夫なんですかね?」
「…また、何処かに飛ばされないといいんだが……。」

「それなりに強ぇんだからよ、闘えばいいのになぁ…」
「…何がそんなに怖かったんでしょう?」
「…蜘蛛…じゃないか?」
「えっ蜘蛛?」
「あいつ、ああ見えて蜘蛛が1番苦手らしい。」
「えぇ…」
「そ、そうだったんですね……」

1人、また1人とはぐれていく。
アルベルトとゲルト、ハインリヒは不安になりながらも調査を進める。

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!! こっち来んな!」
盛大に叫び散らかしてフィラットが逃げ、蜘蛛は天井から追いかけてくる。

「うわああああやばいやばいやばい…!!!!!!」

先が行き止まり。だが、蜘蛛が来ている。天井を見て絶叫し、とにかく突っ走った。

行き止まりの壁には大きな絵が飾られていた。綺麗な部屋が描かれている。
「もう!どっか飛ばせよ!」
フィラットは突っ込んだ!


ブォン


「わっ……!?」

絵に描かれていた綺麗な部屋は、大聖堂…?窓際に十字架が掛けられている。広く、今まで歩いてきた不気味な城の中とは思えない程、明るく綺麗な場所であった。

「…ずっとここでいい気がする…」
だが、ここが何階のどこにいるのかよく分からない。

「ここなら、少し回れるかもしんない。」
大聖堂はかなり広く、奥には司教座が置かれている。

「ん、待って…?中ボスに修道女いたよね。えっ……今はやめてよ…??」

そんな事を考えた時、上から光が差し込んできた。
「ぅえ…?」
全身白い修道女が舞い降りてきた。敵にしては綺麗だ。
「…これは…敵なの?」

「……?」
修道女は手を合わせながら目の前に降りた。
すると、ぬっ と背中から4本の手が出てきた。

「うわっ!!??流石にキモイ!」

️目を瞑っていた修道女が目を開けると、目が真っ赤で血が流れる。

「やめてやめてやめてやめてやめてやめて」
フィラットは後ろにあった扉に向かって全力疾走しだした。

「手6本とか!!!昆虫かよ!!!!千手観音かよ!!!! ……あぁ!!!!宗教違うわ!!気まず!!!!!(?)」

めちゃくちゃなことを叫びながら逃げる。
(修道女は別に追いかけてこなかった)

フィラットは1人はぐれてから、敵から逃げ回るばかり。



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