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第三十話

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「やっぱり、まだここにいた」
「あっ、ヌタ…!」

 オオカミ少年は一番の友だちのヌタが来て、ぱっと瞳を輝かせた。
 ちなみに今は、カナとロイとは離れて花を探している。

「赤ずきんが探してた、話があるって行ってたぜ」
「ひぇっ」

 だが、どうして来たか聞いた瞬間、固まってしまう。
 まだ花が見つかっていないのに、これではお友だちだと言えない。

「…えっと、今はまだ…」
「そうか、でも赤ずきんは今すぐ会いたいって感じだったけどなぁ」
「えっ、そうなの?」

 オオカミ少年はお花摘みの事を忘れないまま、話に食いついてしまった。
 赤ずきんも、寂しかったなら嬉しい。僕も会いたい。
 まだ花を見つけられていないのに、気持ちが膨らむ。

「用事は後にして来いよ」
「…う、うん…」

 赤ずきんに会いたい気持ちが勝ってしまい、ヌタの後ろについていった。

「オオカミ、花見つかったー?」

 だがとちゅうで、カナが下りてきた。

「えっと、あの」

 花を摘まずに会いに行こうとしていた事が、何だか悪い気がしてきょろきょろしてしまう。

「ごめん、俺が呼んだんだ、赤ずきんが探してたから」
「きああぁあ」

 オオカミ少年は色々と考えなくてはならないことのせいで、頭の中がぐるぐるしてしまっていた。

「そうなの、ちょうど良かった。ロイー、オオカミ今から会いに行くんだって」
「そうなのか」

 ロイも近くにいたらしく、すぐに3匹の前に出てきた。その手には数本の花がある。

「見つけたよ、持ってゆくと良い」
「…あ、ありがとう」
「間に合ってよかったねー」

 にこにこして花を渡す姿を、何も知らないヌタだけがきょとんとしてみている。

「何があるんだ?」
「赤ずきんにお友だちになりたいってちゃんと言うんだって!」
「なるほど、そういうことか」

 ヌタはうんと頷くと、にこっと笑った。

「がんばってねオオカミ!」
「君なら言えるさ」

 みんなの応援を受け取り、オオカミ少年の心は温かくなった。足もいつもよりプルプルしない。

「じゃあ行くか!」

 そうだ、今日こそ、本当の気持ちを赤ずきんに伝えるんだ。
 オオカミは耳としっぽをピンと立て、がんばろうと決めた。



 赤ずきんはもう一度、ヌタと会った場所に戻っていた。もう一度探しにいった先では見つからなかったのだ。

 急に頭の中に、オオカミ少年との思い出が浮かんでくる。
 強がりで弱虫で何も知らなくて、一人ぼっちでずっとがんばっていたオオカミ。
 一緒にいるとちょっとイライラして、でも楽しかった。

 友たちができて嬉しかった。森の仲間と一緒に遊んでいるのを聞いて、安心した。
 この気持ちは、何かに似ている気がする。

「やぁ赤ずきんよ、こんな所で何をしているのじゃ…?」

 木の陰から出てきたのは、この森のリーダーであるアデルだった。杖をコツコツ突きながら歩いてくる。

「アデルさん、ちょっと考え事よ」
「何を考えていたんじゃ?少し聞かせてはくれんか?」
「そうね、ちょっと分からない事があって」

 赤ずきんは、不思議な気持ちの正体を知りたくて、アデルに向かって長い長いオオカミ少年に対しての思いを話した。

「それは愛じゃな」
「へっ?」

 ばっさりと一言で片付けたアデルに、赤ずきんはきょうしぬけしてしまった。

「お主がおばあさんに持っているのと、似ているのでは無いか?」
「うーん、どうかしら…でもそうね、似ているかも」

 おばあさんにはイライラしないし、弱虫だとも思わない。けれどにこにことしていると嬉しいし、こっちまで笑顔になってしまう。そこは一緒だ。

「そういうことじゃよ」
「えっ、なにそれ」

 アデルは何を思っているのか、ほほえみで顔をいっぱいして、木の影に戻っていった。

 赤ずきんは、アデルの出した答えについて考える。
 アデルの言いたい事をそのまま受け止めるならば、オオカミ少年の事が大好きだから、この気持ちになっているという事になる。

 そうか、私はオオカミ少年の事が大好きだったんだ。

 やっと気付いた気持ちの名前がぴったりで、赤ずきんは首を大きく縦に振っていた。
 お母さんやお父さん、おばあさんに向けている気持ちはちょっと違う好き。

 一緒にいて楽しい、好き。笑ったりからかったり、お喋りしたりして一緒にいたら楽しい、好き。

「全然大丈夫と思ってたけど、実は私寂しかったのかしら…?」

 赤ずきんはふしぎになって、もう一度大きく首を横にかしげた。

「赤ずきん!!」
「ヌタ!」

 赤ずきんは、ぱっと太陽みたいな笑顔を弾かせた。
 すぐにヌタの後ろのオオカミ少年に目が行く。

「久しぶりねオオカミ!」
「…赤ずきん久しぶり」

 オオカミ少年は手に何本かの花を持ち、もじもじ恥ずかしそうにしている。
 後ろでロイとヌタ、上でカナが見守っていて、何か言うのを待っているみたいだ。

「そうだ、あなたに聞きたい事があったのよ」
「な、なに」

 こうしてみていると、いつものオオカミ少年と変わらない。

「オオカミ、さみしかったりした?」

 赤ずきんの質問に、オオカミ少年はびっくりしていた。
 赤ずきんは気付いていたのかもしれない、赤ずきんに合えなくてしょんぼりしていた事に。

 周りで見守ってくれている優しい三人が『がんばれ』と言っているのがなんとなく分かる。

「…さ、さみし…」

 ¨さみしかった。だから、もうさみしくないように赤ずきんも友たちになろうよ。¨
 そう言いたいのに、上手に言える気がしない。

「…さみしかった、だか…ら…」
「友だちになりましょう」
「へっ?」

 オオカミ少年は、まるで心の中を読まれていたみたいなセリフに、びっくりぎょうてんして目をいつもよりまん丸にする。

「あんたが良ければだけど、私とも」

 赤ずきんは、お茶会の日ヌタがオオカミ少年にしていたみたいに、手を前に出した。
 オオカミ少年は、ずっとずっと気持ちの奥にしまっていたお願いが叶うのが、嬉しくてうれしくて泣いてしまいそうだった。

「…ぼ、僕も…赤ずきんとお友だちになりたいです!」

 オオカミ少年は赤ずきんの手に、持っていたお花を乗せた。
 言えた事で、ほっぺたも耳も真っ赤になっているのが自分でも分かる。

 赤ずきんは、ずっと怖がられていたと思ったのに、オオカミ少年もなりたいと思っていてくれた事が、本当に嬉しかった。
 絶対無いだろうと、決め付けていたのがおかしい。

 目の前の、ふかふかの耳が真っ赤になっているのがかわいくて、赤ずきんは花を持ったまま耳をつかんでいた。

「この耳かわいい」
「へっ、かわいく…かわ…」

 そのまま優しく触られるのに照れてしまい、オオカミ少年は何も言えなくなった。
 嬉しくて恥ずかしくて、でも嬉しくて。嬉しさがどんどんどんどん膨らんでいっぱいになって。

 見ていたロイとヌタとカナも、そして実は影に隠れていたアデルも、他の動物数匹も、みんな嬉しそうに笑いあった。
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