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「どうも。彼女の後見人を務めているクリスです。父はエルズワース伯爵。遥々ようこそ」
大らかに挨拶しながらクリスは司祭から騎士へと握手していく。司祭は無表情に、騎士の方は多少の驚きを見せて応じていた。
笑顔の絶えないクリスが怒り始めたのはその数分後だった。
「はい?どうしてエスターにあの男の居所がわかるんです?見当違いですよ。あの男が僕たちに何をしたか知っているんですか?あの男は──」
「僕たち?」
マクミラン司祭が目を眇める。
クリスも眉を吊り上げる。
「何も調べずのこのこおいでか、司祭様」
明らかな暴言に騎士の表情が険しくなる。
私はクリスの腕をひっぱり騎士に詫びた。
「私を守ろうとしただけです。申し訳ありません」
「パーシヴァル、下がれ」
マクミラン司祭が厳しく命じる。騎士の名はパーシヴァルというらしい。
クリスの気を引く必要はなかった。父の死後、従兄は以前の数倍は過保護になっていた。私が呼んで振り向かない事などない。
「クリス」
従兄のクリスがこちらに体を向けた。
「どうして僕が来るまで待たなかった」
「そう怒らないで。突然いらしたの」
「失礼だろう」
「事情があるのよ。そうでなければ彼の事など聞かないでしょう」
「いいか、エスター。終わったんだ」
「わかってる」
「あの男とはもう完全に終わった」
「わかってるってば」
クリスが私に怒っているわけではないということは、よくわかっている。私の為に怒っているのだ。私がいつまで経っても彼を責めることができなかったから。ミシェルや彼が怒るしかなかった。
「随分と親しそうですね」
マクミラン司祭の声が割り込んでくる。
クリスは勢いよく振り向いた。
「ええ。兄妹同然なので。それが何か?」
「先程〝僕たちに何をしたか〟とあなたは言った。それは妹同然の彼女を傷つけられたという意味だけですか?」
「エスターは傷などつけられていない!」
クリスが声を荒げてしまったので、私は慌てて二人の間に立ち機嫌を取らなくてはいけなくなった。そうするとあまり取り繕ってもいられず、つい口調が砕けてしまう。
「ごめんなさい。私がぼんやりしているから余計な心配をさせてしまうんです。私が鈍いので彼らは余計神経を尖らせてしまって。クリス、司祭様もそんな意味で仰ったのではないわ。お願い、落ち着いて。司祭様にお詫びして。わかるでしょう?」
双方を説得していたつもりが、何故か二人を結束させる事態になった。マクミラン司祭は私の頭上を通り越しクリスに尋ねた。
「いつもこうして他者を庇う?」
「ええ、はい」
クリスも答えている。
マクミラン司祭は無慈悲に続けた。
「だから悪い男に付け込まれた」
「!」
ショックだった。
私は泣いてしまいそうになりながらも必死で瞬きを繰り返し涙を封じ込める。クリスはまた怒り出すかと思ったけれど違った。理解者を得たとばかりに態度を軟化させ溜息をついた。
「そうなんです。そう言ってるのに……ずっとあいつを庇っている。忘れたふりをしているが、まだ愛しているんです」
「だからお聞きしたのです。ルシアン・アトウッドの居場所を知っているのではないかと思って」
マクミラン司祭の言葉にクリスが頷き、私の肩に手を乗せた。
「場所を変えよう。ここは狭い。息が詰まる」
大らかに挨拶しながらクリスは司祭から騎士へと握手していく。司祭は無表情に、騎士の方は多少の驚きを見せて応じていた。
笑顔の絶えないクリスが怒り始めたのはその数分後だった。
「はい?どうしてエスターにあの男の居所がわかるんです?見当違いですよ。あの男が僕たちに何をしたか知っているんですか?あの男は──」
「僕たち?」
マクミラン司祭が目を眇める。
クリスも眉を吊り上げる。
「何も調べずのこのこおいでか、司祭様」
明らかな暴言に騎士の表情が険しくなる。
私はクリスの腕をひっぱり騎士に詫びた。
「私を守ろうとしただけです。申し訳ありません」
「パーシヴァル、下がれ」
マクミラン司祭が厳しく命じる。騎士の名はパーシヴァルというらしい。
クリスの気を引く必要はなかった。父の死後、従兄は以前の数倍は過保護になっていた。私が呼んで振り向かない事などない。
「クリス」
従兄のクリスがこちらに体を向けた。
「どうして僕が来るまで待たなかった」
「そう怒らないで。突然いらしたの」
「失礼だろう」
「事情があるのよ。そうでなければ彼の事など聞かないでしょう」
「いいか、エスター。終わったんだ」
「わかってる」
「あの男とはもう完全に終わった」
「わかってるってば」
クリスが私に怒っているわけではないということは、よくわかっている。私の為に怒っているのだ。私がいつまで経っても彼を責めることができなかったから。ミシェルや彼が怒るしかなかった。
「随分と親しそうですね」
マクミラン司祭の声が割り込んでくる。
クリスは勢いよく振り向いた。
「ええ。兄妹同然なので。それが何か?」
「先程〝僕たちに何をしたか〟とあなたは言った。それは妹同然の彼女を傷つけられたという意味だけですか?」
「エスターは傷などつけられていない!」
クリスが声を荒げてしまったので、私は慌てて二人の間に立ち機嫌を取らなくてはいけなくなった。そうするとあまり取り繕ってもいられず、つい口調が砕けてしまう。
「ごめんなさい。私がぼんやりしているから余計な心配をさせてしまうんです。私が鈍いので彼らは余計神経を尖らせてしまって。クリス、司祭様もそんな意味で仰ったのではないわ。お願い、落ち着いて。司祭様にお詫びして。わかるでしょう?」
双方を説得していたつもりが、何故か二人を結束させる事態になった。マクミラン司祭は私の頭上を通り越しクリスに尋ねた。
「いつもこうして他者を庇う?」
「ええ、はい」
クリスも答えている。
マクミラン司祭は無慈悲に続けた。
「だから悪い男に付け込まれた」
「!」
ショックだった。
私は泣いてしまいそうになりながらも必死で瞬きを繰り返し涙を封じ込める。クリスはまた怒り出すかと思ったけれど違った。理解者を得たとばかりに態度を軟化させ溜息をついた。
「そうなんです。そう言ってるのに……ずっとあいつを庇っている。忘れたふりをしているが、まだ愛しているんです」
「だからお聞きしたのです。ルシアン・アトウッドの居場所を知っているのではないかと思って」
マクミラン司祭の言葉にクリスが頷き、私の肩に手を乗せた。
「場所を変えよう。ここは狭い。息が詰まる」
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