もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ

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宿場町まで辿り着いた時ミーガンは更に逞しくなっていた。

「何か食べたいわ」

私たちがミーガンを宿へと案内しようにも、既に大捕り物があったかのような物々しい騒ぎになっており、あちこちで松明が焚かれ男性の怒声が飛び交っている。

パーシヴァルの状況説明によってウィンダム、レイノルズ、クロスビー各領土の街道警備兵がルシアンを拘束し囲んでいた。
更にその外周を宿場町の人間が囲んでいる。

「貴様がお嬢様を裏切りやがった例のろくでなしだったとはな!」
「よくのこのことレイヴァンズクロフトに居座り続けたもんだよ!」
「逢引宿だって!?どこまで御領主様を侮辱すりゃあ気が済むんだ!」
「あれだけよくしてもらって、この恩知らず!」
「地獄に落ちろ!!」

彼らが父や私の為に罵声を浴びせているのだとは理解できた。私には暴動に発展しないよう努める義務はあったけれど、彼らの領土愛がそれを上回っていた。

「ここで殺さないのは貴様の為じゃない。俺たちは貴様と違ってレディ・ウィンダムを苦しめたりしないんだ」
「レディ・ウィンダムが王様に身柄を引き渡すってんだから、今日のところは青痣くらいで勘弁してやるよ!」
「たっ、助けて……エスター……エスタァァァァ!」
「馴れ馴れしくお名前を呼ぶな糞野郎!!」

烈しい光景に私は思わず足を止めた。不甲斐ない私を責めもせず、レイヴァンズクロフトの宿場町は比較的ルシアンの連行に協力している。警備兵に飲み物や食事、店先の椅子などを提供している者たちもいる。

真面目に働く彼らの暮らしを、私は生涯をかけて守る。
そのためにも、私は反省するべきところは反省し、ルシアンは正しく裁かれなくてはならないのだと決意を新たにした。

私が足を止めたせいで、二人の妻も同じ光景を目にしている。
先に口を開いたのはミーガンだった。

「私の赤ちゃん、王様を怒らせるような男が父親なの……?」
「……」

オーウェンは身重のミーガンを気遣ってきたけれど、この時ばかりは冷たい眼差しを据えた。それに見兼ねてかヴェロニカが言い募る。

「私は相応の罰をきちんと受けますから、この子はなんとかしてあげてください。可哀相な子なんです。父親、兄、叔父に殴られて酷い環境で働いていたところをルシアンが……この子はルシアンに縋るしかなかっただけなんです」

苦境から救い出すなら他にも方法はあったはずだ。弱味に付け込んだルシアンを、私はまた軽蔑した。

そう、私の中に、彼への愛情は微塵も残ってはいない。
蔑みという新しい感情に驚きながら、強くならなくてはと気を引き締める。

オーウェンが更に冷たい軽蔑の眼差しをヴェロニカに注いだ。

「自分の方が優遇されるとわかっていてそれを言うのか」
「……っ」

ヴェロニカが言葉に詰まった。
ミーガンが不思議そうにヴェロニカを見上げる。

「どういう意味?」
「……」

沈黙がまた別の緊張感を孕む。
私はミーガンを促した。

「行きましょう。お腹が空いたんでしょう?たくさん歩いたもの、よく食べて、今夜はよく寝ないと」
「私どこへ行くの?閉じ込められる?」
「そうならないように努力する」
「あなた……」

「レディ・ウィンダム!?」

突如として老人に呼びかけられ、私は咄嗟に声のする方へと振り向いてしまった。
警備兵たちも老人につられて私に注目し、誤魔化しが利かなくなる。

その人物の年齢を考えれば、私の両親を見て顔を知っていてもおかしくはなかった。私は成長し、父に似た部分と母に似た部分があるらしい事は自覚していた。

「山から下りてきたのを見たぞ!あんたら、その方が誰かわかってひっついてるのかい!?汚らわしい泥棒猫ども!離れろ!!」
「ひっ」

あまりの剣幕にミーガンが腹部を抱えて私から逃げる。ヴェロニカが宥めようとするのと、数人の警備兵が突進してくるのは同時だった。

「違う!私は騙されたの!私のせいじゃない!!」

ミーガンが錯乱して叫び出す。
私が行っても更に混乱させて体に毒だと思い、向かっている警備兵を呼び止めた。

「優しくしてあげて。せめて、産むまで」
「命令ですか?」

不意を突かれ、私はすぐに答えられなかった。

「命令だ。安全を確保しろ」
「?」

代わりに対応してくれたオーウェンに警備兵は怪訝な表情を向けはしたものの頷いてくれる。

「了解です。周知させます」

結局、二人の妻は警備兵の手に渡った。見る限り丁重に接していたため、私はこの場で追い掛けてまで関わろうとは思わなかった。

オーウェンが私を促し、宿へ向かう。
警備兵に連れられる二人の妻とすれ違う刹那、オーウェンが足を止めヴェロニカに言った。

「あれは人間の屑だぞ。何故だ」

その時、ヴェロニカは初めて反抗的な態度を見せた。鼻で笑い、挑発するようにオーウェンの顔を覗き込む。

「私みたいな塵にはお似合いでしょう」

ヴェロニカは数秒オーウェンを睨むと、またミーガンを庇うように支えて従順に警備兵たちに従った。

「どういう意味?」

今度は私がオーウェンに尋ねた。
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