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「彼女に何が……まるで……」

あなたを憎んでいる。
そんな印象が酷く気に掛かった。

オーウェンは痛みを磨り潰すような笑みを浮かべ、無言で私を促す。事情があるのだ。説明すると言っていた。

酷い緊張感と山道で疲れてはいたけれど、この夜はまだ終わらない。そう悟りはしたものの嫌ではなかった。やるべき事が残っているとわかっていたし、その中にはオーウェンの話を聞くことも含まれていた。

私に宛がわれていた部屋に二人で入る。
オーウェンは私に寛ぐよう促してから窓辺に立ち、外の喧噪を見下ろした。私はティーセットの置かれた小さなテーブルに手をつき、ゆっくりと椅子に腰を落とした。座ってみると、より一層激しい疲労が押し寄せる。

「ある男には二人の息子と妾腹がいました」

オーウェンが語り始めた。
それで私は疲れを忘れた。

「いがみ合う母親たちを余所に三人は仲良く育ちました」

淀みなく広がる物語にはオーウェンの心など一つも含まれてはいないようで却って痛々しい。私は何も予想したりしてはいなかった。けれどまた大きな悲劇が明かされるのだと悟る。

私はオーウェンから目を逸らさず、一言も聞き洩らさず、どんな仕草も見逃さないよう集中する。彼の全てを受けとめたい。彼が昨日、私にそうしてくれたように。

「ある夜、妾腹が男とその妻を殺しました。二人の息子の内、兄の方が立ち向かいましたが、男の側近が妾腹へ寝返っていた為、弟の目の前で惨殺されました。両親と兄を殺され、弟は悪魔に魂を売り渡し、妾腹に斬りかかっていました……腹違いの弟に」

告白に貫かれ世界が止まっても私の心は穏やかだった。
目の前の深く傷ついた人の為に、私は沈黙し耳を傾け続ける。

オーウェンはまだ窓の外を見ていた。
過去を見ない為に喧噪を眺めているのか、喧噪に目を向け過去を見ているのか、私にはわからなかった。それほどオーウェンは静かで、彼の現在と心を切り離していた。

「男はカヴァナー公爵。肉親を殺されにも関わらず命が惜しくなり教会に逃げ込んだ情けない令息の名はオーウェン」
「……」
「主を裏切った側近ヒースコート伯爵は、主の妾とは政治的な取引をしていました。もし妾腹が公爵位を継げたら娘を結婚させると……娘の名はヴェロニカ」

今日一日の出来事が高速で蘇る。
菜園で畑仕事に勤しむ彼女を見て、オーウェンは背を向け空気を変えた。
再会ではすれ違いざまに彼女は蒼褪め、夜になると命乞いをして、更にはついさっき憎しみまで向けた。

「教会から報せを受けた国王は亡きカヴァナー公爵の側近、妾、妾腹、三人の処刑を命じ、ヴェロニカは幽閉されました。誰も手にかけなかったが、全ては彼女の夢物語が招いた反逆だったから」
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