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リカードが一緒に住むようになってからというもの、私の精神的苦痛は何故かある程度緩和したように思える。

「婚約発表なんてしないわ。また笑い者になれって言うの?」
「ううん。そうじゃないよ。オリヴィアの気がすすまないなら、僕たちだけでひっそり祝おう」

可笑しなことを言って私を驚かせるのは嫌だけれど、いつも笑顔で撤回して安心させてくれる。でも、気は抜けない。

「お祝い?」
「嫌かな?」
「だって……」

いくら幼馴染のリカードとはいえ天使ではないのだ。
ダーフィトのように私を踏みつけて支配者面で高みの見物ということはさすがにないだろう。でも単純に何かの理由で私とは結婚したくなくなるかもしれない。

リカードとはいえ、私の元を去るかもしれないのだ。
祝うほど馬鹿じゃない。

「オリヴィア」

リカードが私の手を握る。
リカードに触れられる分には嫌な気はもちろんしないから、私も握り返す。

「何?」

問いかけるとリカードが私を優しい微笑みで見つめた。
その笑顔を見ていると、少し、楽になる。頭の圧迫感が少しだけましになる。

「僕は君と結婚できるのが凄く嬉しいんだ」
「……」
「だから僕はね、オリヴィア。君にお礼が言いたい」
「……」
「ただ僕が君にありがとうって伝える為だけのディナーだ。それならいい?」
「今夜?」
「うん。どうかな?」

リカードかそこまで言うなら、それに今夜であればもう数時間しかないから、リカードの気が変わろうとそれほど痛手にはならない。

何より相手はリカードなのだ。
王子の側近になって宮殿へ行ってしまってから数年会えなかった。そのリカードが今夜私とディナーしたいと言っている。

「……」

じわじわと嬉しさが膨れ上がり、私は思わず笑みを浮かべた。
するとリカードも嬉しそうに笑みを深めた。

「いい?」
「ええ。いいわ」
「やった。ありがとう」
「それまでどうしようかしら……カードでもする?」
「カードがしたいの?いいよ。久しぶりに遊ぼう」

ディナーの件を使用人に伝えるリカードの様子を眺めながら、これでよかったのだと心が安らいでいく。

リカードは私を傷つけない。
リカードは私を大切にしてくれる。

大切なリカード。
大好きだった幼馴染のリカード。

世界中の誰もが私を裏切り陥れ嘲笑い痛めつけようと、あなただけは、そんなことしない。

「リカード……」
「?」

震える声で呼び掛けると、リカードは屈託のない笑顔でふり返ってくれる。そして、私が不安だとわかるとすぐに手を握ってくれる。

「大丈夫、ここにいるよ。結婚するんだから、何処にもいかない」
「だけど……王子様が……」
「オリヴィア」
「王子様があなたを連れ去ってしまうかも」

不安が押し寄せ、それは忽ち私を飲み込んだ。

「オリヴィア、聞いて」

リカードが両手で私の手を包んだ。
だけど、私はそんなことでは騙されない。

「だってあなたは私を置いて行ったもの……!私、わ、わ、私、寂しかったけど、でも、あなた……」
「オリヴィア。こっち見て。僕の目を見て」
「あなた、嬉しそうにお城へ行ってしまって」
「お城から帰って来たんだよ」

その言葉は鋭く私を貫いた。

「……」

再びリカードと見つめ合う。

「君のところへ帰って来た。オリヴィア、好きだよ」
「私も好き……」

意図せず口から滑り出た言葉に驚きはしなかった。
わざわざ言う必要はなかったけれど、本心だから。

「……」

そうか。
リカードは、帰って来てくれたのか。

「今夜のディナーは……」
「うん」

リカードが笑顔で頷いてくれる。
私は確かめるようにその目を覗き込んだ。

「私たちの、婚約記念……そうよね?」
「そうだよ」
「……」

リカードは嘘をつかない。

安堵してリカードと見つめ合う。
そう。リカードは、私に嘘をつかない。

もう傍にいる。

私はリカードと結婚する。
だとしたら、もう恐いことは起きない。大丈夫……
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