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2章 倦怠期の夫婦 ~ロコモコ丼~

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「ただいまー」

 今日の食材がびっしりと入っているエコバックを、ソファーの上に置く。いつもの気怠そうな「おかえり」が聞こえてこない。

 どこにも晴彦の姿がなかった。スマホにメッセージも入っていないし、一体どこに行ったのか。

 ひろ美は大して心配していない。何の連絡もなしに外出するのはよくあることだし、それにちょっとした期待もあった。

 朝のひろ美の態度から、今日が結婚記念日だということを思い出し、慌てて何かプレゼントを買いに行ったのではないか。淡い期待ではあるけど、晴彦もそのくらいの気遣いができる夫だ。

 手洗いうがいの後に「もうー、勝手なんだから」と愚痴をこぼしながら一人で笑った。

 エプロンをつけて、キッチンに立つ。晴彦が帰って来るまでに、ハンバーグの下ごしらえをしておく。テレビをつけてみるけど、見るつもりはない。あくまでBGMだ。

 最初に手早く玉ねぎを微塵切りにして、その後にサッと炒める。あめ色になるまで炒めたら、玉ねぎと挽肉を混ぜる工程に入った。ビニール手袋をつけて、力強く混ぜ合わす。特売セールの肉とはいえ、結構新鮮だった。

 卵やパン粉、黒コショウやコンソメ……いつも作る時の調味料も合わせて混ぜる。いい感じにタネができてきたら、小判上に成型する。

 早く帰ってこないかな……ひろ美は朝の喧嘩を忘れたかのように、晴彦の帰りを待っていた。

 あとは炒めるだけ。形作られたハンバーグのタネは、ラップをかけて冷蔵庫に入れておいた。

 エプロンを外す前にダイニングテーブルの椅子に座る。そのまま突っ伏して、目を閉じた。晴彦と結婚して、もう十年か……。

 出会った頃を思い返しながら、目を瞑る。眠ってしまいそうだ。

 いや、しまいそうではなく、眠ってしまおう。ひろ美は全身の力を抜く。

 ……ガチャッという音がして、ひろ美も目が覚めた。

 カーテンも閉めていないので、部屋の中が真っ暗だ。帰宅した晴彦が電気を点ける。時計を見ると、夜の零時になっていた。こんなに寝てしまったのか……死んだように寝るってこういうことなのかな。ひろ美は自分でも呆れた。

「何だよ、こんなところで寝て。カーテンも閉めずに」

 晴彦はテーブルの上に、一個数十円の駄菓子を置く。そのままソファーに座って「あー、負けちゃったなー」と続けて呟いた。

「なにこれ? 駄菓子?」
「ん? ああ。パチンコの余り玉で交換したんだ。二千円の負け」

 寝起きのひろ美でも、耳を疑う発言だった。パチンコ? 二千円の負け? 今日は結婚記念日なのに? 

 ひろ美はしばらく黙った後に、一応聞いてみた。「今日何の日かわかってる?」と。

「あれ……何の日だっけ? っていうか、今日って何日だ?」
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