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4章 バツイチ男の後悔 ~カレー丼~

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 則宏は小学生ながらに、離婚するかもしれないと薄々感じ取っていたらしい。

 それほど、夫婦の仲は冷え切っていたということか。当事者の岩関は、別に普通にコミュニケーションを取れていたと思っていたのに……痛い勘違いだった。

 離婚の手続きは驚くほどスムーズで、マキコの進める手続きに黙って従うだけだった。則宏の親権は当たり前のようにマキコが持った。

 こんな紙切れ一枚で、今まで積み重ねてきたものを終わらせることができるなんて……岩関は離婚届を書きながら、何かに恨みをぶつけたくなった。全部、自分のせいだと自覚はしている。でも、精神を保つには、怒りを抱くしかなかった。

 もちろん、マキコに恨みは一つもない。

「私たちが離婚しても、あなたが則宏の父であることは変わらない。それだけは覚えておいて」
「……もちろんだ。だから、お願いがあるんだ」
「何?」
「半年……いや、一年に一回でいいから、則宏に会わせてくれないか」

 マキコに頭を下げるなんて、今だかつてあっただろうか。恥を忍んで頼んだ。たった一人の息子と、もう会えなくなってしまう可能性があるなんて、嫌だ。

 今まで則宏のイベント行事に顔を出したことのないダメな親父が、何を言っているんだと呆れられるのはわかっている。それでも岩関は、ここだけは譲れないという気持ちを前面に出して、マキコに頼み込んでいる。

「……わかった。一年に一回だけ、則宏に会わせてあげるわ」

 分譲マンションの一室は、岩関が購入したものだ。離婚後、マキコと則宏はマキコの実家に住むらしい。実家は千葉の方にあるため、いつでも則宏と会おうと思えば会える。

 でも、マキコと約束した。一年に一回しか、則宏には会えない。

 まだまだローンの残っている都内の中高層マンションに、岩関は一人で住むことになった。リビング以外に三部屋もある家族用のマンション。今となっては、そんなに部屋なんていらないだろう。

 一人暮らしになった初日、コンビニ弁当を食べながら、岩関は子供のように涙を流した……。

 後悔しても、反省しても、もうマキコと則宏は戻ってこない。じゃあ何のために働くのか。

 この数年間ガムシャラに働いたおかげで、会社の中でのポジションは中核を担う重要な役どころになっていた。年収も、同年代の中では平均よりかなり上だ。

 養育費の支払いのために働くのか? いや、それくらいじゃ埋められないくらい、モチベーションは低下している。

 バツイチになってしばらくは、死んだように働いていた。
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