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4章 バツイチ男の後悔 ~カレー丼~

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 則宏の言葉に「ありがとう。来年な」とだけ返して、一度も降りたことのない国分寺の街に足をつけた。

 どうして、途中下車したのだろうか。よくわからないけど、則宏との会話から、これ以上傷つきたくないという思いが先行してしまったのだろう。その時止まった駅が、たまたま国分寺駅だった。

 もう夜遅いのに……何をやっているんだ。この際、どうにでもなれ。岩関は自暴自棄になった。

 駅近くのコンビニで缶ビールを一缶だけ買い、駅前のベンチに座ってチビチビ飲み始める。ダイエットしているのに……いつもは控えているけど、今日は我慢できない。

 則宏との会話を思い出しながら、アルコールを体内に取り入れていく。

「そうか……マキコは再婚するのか」

 黒々とした不気味な夜空を見上げながら、岩関は呟いた。こんなにも早く酔いが回ってくるのか。意識がぼんやりとしてくる。

 ショックやダメージが手伝って、脳が余計に働きにくい。ウトウトしながら、まだ則宏の会話が頭に響いていた。

 ……何分、いや、何時間経ったのか。頭がハッキリ起き上がった時には、もう終電がなくなっていた。

「ホント俺、何やってるんだ」

 そうして、すぐに動き出した。もう、この国分寺に、泊まるしかない。

 そう決めて、国分寺の駅前を徘徊したのだった。良いところがあれば、泊まるしかない。綺麗なホテルはきっと一杯だ。岩関は訪れようともしなかった。

 土曜日だし、相当厳しいだろう。小雨も降ってきた。最悪タクシーで帰るしかないか……そう思っていた矢先に、ホテル『ポトラ』に辿り着いた。 

 長い長い一日。まさに岩関は、人生の迷い人となっていた……。


   ***


「あら、お昼も蕎麦とカレー丼のセットだったんですか?」

 岩関がしんみりとさせた空気を、サオが断ち切る。迷い人となっている原因や現状よりも、そっちの方が気になったみたいだ。

 岩関は「ああ、大丈夫です。何度でも食べたいので」と笑って答えた。

「そうですか……ま、じゃあ作っちゃいますか。食べながら話しましょうね」

 座って話を聞いていたサオが、軽やかに腰を上げた。そのまま鍋の様子を確認する。昆布からきっちりと出汁が取れているか、小皿にひと掬いしたものを啜って味見した。

「よし、良い感じね」

 もう一つのコンロに鍋を置き、火をかけた。作った昆布出汁を半分くらい入れて、沸騰するのを待つ。すぐにグツグツと音を立ててきた。その後に鰹節を入れて、弱火にしてから一、二分だけ待ち、また沸騰してきたら鰹節を濾した。
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